50 炸裂! にくきゅうにゃ~ん そして波ざばへ…
「指輪は、セラと皇妃様と……。陛下には6個あげますので、ナルタスくんやお姉さまやお兄さまにも問題なければあげてください。
あと、シルエラさんとバルターさんにもお世話になったのであげます」
はめていた指輪はテーブルに戻して、私はテーブルに置かなかった残りのふたつをそれぞれに渡そうとした。
「申し訳有りませんが、これはメイドごときに受け取れる品ではありません」
「私も一介の家臣なれば、このようなものは不要です」
「まあ、そう言わずに。ね」
首を横に振られた。
悲しいことに受け取ってもらえない。
「よいではないか。受け取っておけ。クウちゃん君からの気持ちだ。断ることこそ無粋というものだろう」
陛下が口添えをしてくれる。
「しかし陛下……」
それでもバルターさんは渋った。
「俺は6つも貰ったぞ? バルター、君に死なれては俺も困る」
「……わかりました。それでは」
「シルエラも遠慮はするな。受け取らねば、俺がクウちゃん君から嫌な目で見られてしまうだろう?」
よかった。
2人は困りながらも受け取ってくれた。
「ありがたく頂戴いたしますね、クウちゃん」
「はい、皇妃様」
皇妃様が早速、指にはめてくれた。
陛下もひとつを自分の指にはめた。
「私が言うのも変ですけど、あっさりと信じてくれるんですね」
「あら、悪意でもあるのかしら?」
皇妃様が気さくに笑う。
「いいえ。ないですけど」
「そうよね。わかるわ。クウちゃんの持つ空気は夏の高原のように爽やかで、抱きしめると本当に安らぐもの」
「あんまり抱きつくのは勘弁してくださいっ!」
「ふふ」
胸で窒息しますので!
とは言えない。
「あとそうだ。私特製のアクセサリーもお店で売っているので、よかったら見に来てください。こちらは有料ですけど」
「あら、それはぜひとも行かなくてはいけないわね」
「ぜひぜひ。歓迎します」
「わたくしもお供いたしますねっ!」
セラが身を乗り出す。
「そうね。アリーシャも誘って女3人で行きましょう。クウちゃん、明日の午後はお店にいるのかしら?」
「はい。来てくれるのならいます」
「それなら明日の午後に行かせてもらいますね」
「はい。歓迎します」
やった。
お客さんゲット。
「……とりあえず聞いていたが、アイネーシアよ。明日の公務はどうする気だ。しかもアリーシャは普通に学院だが」
「お休みします」
「おいっ」
「だってクウちゃんのアクセサリーなんて早くしないと売れてしまうわ。そうだこれから行きましょう」
「ああ、そのほうがいいな。そうしてくれ。明日、抜けられるのは困る」
「アリーシャの分も買えば問題はないわね」
皇妃様はメイドさんを呼ぶと、手早くランチを済ませるためにワンプレートで持ってくるようにと命じた。
「いきなりの外出も、クウちゃんの指輪があれば安心になるから嬉しいわ」
「そうですね、お母さま」
「……私はいいですけど。陛下、本当にいいんですか?」
陛下にたずねると、ため息が返ってきた。
皇妃様には強く言えないらしい。
ざまぁ。
心の中で笑ってしまった。
「クウちゃん君よ、今、君の心の中の笑い声が、はっきりと聞こえたぞ」
「あの陛下。別に呼び捨ててくれて構いませんよ。いつまでもクウちゃん君って、なんかこそばゆいですし」
「そうか。なら遠慮なくそうさせてもらおう。クウには迷惑をかけるが、アイネーシアとセラフィーヌのことを頼む」
「わかりました。お任せを」
敵感知と白魔法と緑魔法で、がっちりガードしよう。
商売だしね!
いっぱい買ってくれそうだし!
「あ、でも、できるだけ地味な格好でお願いします。さすがにいきなり皇妃様と皇女様が来たとなると……」
今後の商売に影響が出そうだ。
「そうね。お忍びの準備をさせましょう。馬車を使うのはいいかしら?」
「はい。さすがに」
「――では、そのようにお願いします」
すぐに執事さんのひとりが「直ちに」と畏まり、部屋を出ていく。
ランチが出てきたので食べる。
簡単なものでも、さすがは大宮殿だけあって彩り鮮やかで豪華だ。
しかも美味しい。
「バルター、護衛の手配を頼む。陰で守るようにと」
「畏まりました」
陛下に言われて、バルターさんが部屋を出ていく。
バルターさんは公爵だけど、あくまで家臣として動いている。
すごいことだよね。
「……あの私、商品を持ってきましょうか?」
ともかく大騒動にするのは申し訳ないので提案してみたけど、それはあっさりと皇妃様に却下された。
私のお店を見るのも楽しみらしい。
ランチはすぐにおわった。
セラは皇妃様に連れられて着替えのために別室へ行った。
私はシルエラさんと一緒に大宮殿を出て、馬車とセラたちが来るのを待つ。
陛下は午後から貴族たちとの会合らしい。
陛下は陛下で大変そうだ。
皇帝って、なんとなく独裁者のイメージがあったけど、バスティルール帝国ではそうでもないらしい。
「シルエラさんも毎日大変だね」
「はい。充実しております」
「食事はいつ取っているの?」
「職務の合間に取っていますので心配はご無用です」
「休憩は?」
「職務の合間に取っていますので心配はご無用です」
「大変だねえ」
「メイドや執事とはそういうものです」
会話が盛り上がらない。
「シルエラさんっ、シルエラさんっ。――ほらっ。にくきゅうにゃ~ん」
「ぷっ」
あ、ウケた!
両手を顔の横で猫の肉球みたいに丸めて猫っぽく鳴く、かつてナオから5点と言われた私の必殺芸「にくきゅうにゃ~ん」が!
「あはははっ! 勝った勝った!」
「妙な不意打ちはおやめください」
しかしさすがはプロのメイド。
すぐにシルエラさんは真顔に戻った。
「ほら次っ! 波~ざばざば~」
両腕を横に広げて、ふわふわと揺らす。
波ざばざば。
ナオの評価9点の大技。……100点満点中だけどね。
シルエラさんにはそっぽを向かれた。
「見て見てー! ほら、波だよ~」
「遠慮させていただきます」
そこに2台の馬車がやってきて「第1回シルエラさんを笑わせようの会」はおわった。
次回の開催を楽しみにしておこう。
やってきた馬車は、それなりに地味だった。
明らかに頑丈そうで、並の馬車でないことは明白だけど。
御者台には、2人の男性が座っていた。
2人とも私服姿だけど、筋骨隆々としていて、いかにも強そうだ。
遅れてセラと皇妃様もやってくる。
こちらもお忍びとあって、それなりに地味な格好をしていた。
ただ、あくまでそれなりなので、うん、どう見てもご婦人とお嬢様だけど。
私とセラと皇妃様は最初の馬車に乗った。
同乗するのは、皇妃様付きのメイドさんひとりだ。
シルエラさんや皇妃様に同行する他のメイドさんや執事さんは次の馬車に乗って後をついてくる。
発進。
念の為、セラと皇妃様には防御系の緑魔法をかけておく。
あとはおしゃべり。
話題は、私の魔法のこと、セラと私の近況、おしゃれ、食べ物、あれやこれや。
皇妃様は会話上手だ。
おかげで楽しい一時を過ごすことができた。
やがてエメラルドストリートに到着。
もうすぐ我が家だというところで馬車が止まった。
御者台から降りた護衛さんがこちらにやってきたので、ドアを開けた。
「店の前に馬車が止まっておりますが、いかがいたしましょう?」
「なんだろ。お客さんかな? すみません、話を聞いてくるので皇妃様とセラはここでお待ちください」
「あら。誰か他の者に行かせればよいのではなくて?」
「私のお店なので。それにお忍び中ですよ」
「そういえばそうね。わかったわ」
「では行ってきます」
私は馬車から降りて、1人でお店に向かった。
ついに50話まで来ましたっ!
100話までは毎日アップする意気込みなのでまだ半分ではあるのですが、
ここまでお付き合い下さりありがとうございました!
今後ともよろしくお願いしますm(_ _)m




