498 ポンコツお姉さま、再び!?
スーパースペシャルマックスバスターは、ユイが適当にその場のノリだけでつけた適当な技名だ。
聞いた時、私は最初、自分の耳を疑った。
だって、必殺技というより、どちらかと言えばバーガーの名前だよね。
バーガーの名前としても微妙な気がしなくもないけど。
そんな風に私が感じた技の名を、今――。
私のおうちの中庭で――。
帝国を代表する第一皇女たるアリーシャお姉さまが真顔で叫んだ。
「スーパースペシャルマックスバスター!」
叫んで、ビュンと木剣を振る。
うん。
ダンジョンで鍛えただけはある、威力の乗った見事な剣筋だ。
私はとりあえず拍手した。
ブレンダさんとメイヴィスさんは、真顔でアリーシャお姉さまのことを見ている。
学院の授業がおわって、放課後。
3人はうちに来ていた。
「どうだったかしら? クウちゃん」
「はい。動きとしては、そんなもんじゃないでしょうか」
何をしているのかと言えば、アリーシャお姉さまが、スーパースペシャルマックスバスターの動きを覚えようとしているのだ。
と言っても、居合抜きみたいに剣を振るだけの動作なので、それなりにはすでに形が出来ている。
「実際には、剣から光の波が迸るんですのよね?」
「はい。そうですね」
光の波は、実際にはリトが生み出した自作自演なんだけど。
申し訳ないけど、お姉さまたちには秘密だ。
「クウちゃん」
「はい」
「ということは、ソードという方も光の魔力を持っているのかしら?」
ふむ。
たしかにそうなるのかな。
ソードは、ほとんど行き当たりばったりで構成されているので、詳しい設定は私も知らないんだよね……。
でも、光の魔力があるというのはマズイ気がする。
「それは、アレみたいですよ、アレ。つまり……えっと……。聖女様から力を借りている的な?」
「ああ、そうですのね。なるほど、です」
よかった納得してくれた!
この設定はユイと共有して公式にしておこう!
「それよりお姉さま、どうせ武技の練習をするなら、スーパースペシャルなんとかみたいな高度なのじゃなくて、もっと発動可能なのにしましょう! たとえばこういうのはどうですか?」
私は木剣を取り出して、構えた。
「ダブルスラッシュ!」
武技を発動する。
剣が輝くと同時に体が勝手に動いて、一歩踏み込みつつ剣を左右に振った。
ダブルスラッシュは2回攻撃の武技。
剣全般で使える初期技だ。
「クウちゃん、今のって、ただ剣を振ったわけじゃないよな!?」
「そうですよね。剣が光っていましたし」
脇で見ていたブレンダさんとメイヴィスさんが、興奮した様子で私のところに走り寄ってきた。
「今のは武技と言います。発動させれば、型の通りに強力な攻撃を繰り出すことができます。簡単に言えば、技の魔術ですね」
「なんだよ、魔術かよぉ」
ブレンダさんがガックリと肩を落とした。
「クウちゃん、魔術は私たちには無理です。属性がありませんし」
メイヴィスさんも落胆した様子だ。
「いえ。属性はいりませんよ。今の武技は無属性なので」
私は笑った。
「それは、私たちでも使えるということですか?」
「はい。そうです」
武技の中には火属性や風属性のものもあるけど、たいていは無属性だ。
「武技って強いのかっ!?」
「ブレンダ、弱いはずがないでしょう。クウちゃんですよ」
「それはそうか!」
「たとえば今のは、ダブルスラッシュという技なんですけど――。発動すれば1回の動作で2回の攻撃をすることができます。基本の武技なので、それほどの威力はないんですが、魔力が通るので剣の強度が増しますし、普通なら攻撃の効かない霊体にも攻撃が通ります。あと、瞬間的に左右から斬撃が飛ぶので、単純に回避するのが難しくて、膠着した状況を崩しやすいです」
「覚えたい! 教えてくれ!」
「そうですね。ぜひお願いします」
ブレンダさんとメイヴィスさんは乗り気になってくれた。
ふふ。
作戦成功かな!
スーパースペシャルのことは忘れてもらおう!
と、思ったら、お姉さまは浮かない顔をしていた。
「お姉さまは興味ないです?」
「ねえ、クウちゃん」
「はい?」
「わたくし、スーパースペシャルマックスバスターが良いのですけれど……。形だけでも極めたいですわ」
「でも、ダブルスラッシュなら使えるかも知れませんよ?」
「でも、スーパースペシャルマックスバスターの方がカッコいいですわ。スーパースペシャルマックスバスターには、なんというか、英雄の輝きというか、覇気が満ちていますもの」
スーパースペシャルマックスバスター!
叫んで、お姉さまが木剣を振った。
お願いです、その技名を何度も繰り返さないで下さい!
恥ずかしくなります!
「おいおい、待て待てアリーシャ! どう考えてもダブルスラッシュだろ! スーパーメガなんとかなんて後で料理人に作ってもらって食べればいいだろ! バーガーなんだからさ!」
「バーガーではありません、バスターです。それにメガではなく、スーパーの後に続くのはスペシャルですわ」
「そんなことはどうでもいいからさっ!」
「よくありませんっ! とても大切なことですわっ!」
いかん。
お姉さまがまたポンコツになっている。
ブレンダさんの説得にも耳を傾けようとしない。
一体、どれだけ気に入ったんだ、スーパースペシャルマックスバスター!
「ちなみに武技は、もうジルドリア王国では実戦投入されているらしいですよ」
「そうなんですか?」
メイヴィスさんが驚いてたずねる。
「はい。エリカ王女の『ローズ・レイピア』って特殊部隊の幹部が、普通に使いこなしているそうです。私も聞いただけで実際に見たわけではないんですけど、たぶん事実ですよ」
新年の挨拶で竜の里に行った時、フラウからその話を聞いた。
竜の里では、他に何人もが武技の発動に成功していて、武技ブームは盛り上がるばかりの様子だった。
すごいね。
さすがは竜の人だと関心したものだった。
私の話を聞くと、メイヴィスさんは深刻な顔で悩み込んだ。
「……そうすると接近戦闘の分野では、現状、帝国が頭一つは下にいるということになるのでしょうか。王国にも聖国にも存在するというのに、武技なんて聞いたこともなかったですし……。これは由々しき事態ですね……。私達で、なんとかしなければならないでしょう……」
いや、えっと、そこまで深刻ではないですよ?
すべて、私関連だけなので。
と、言おうか迷っていると、メイヴィスさんとブレンダさんに正面からそれぞれ肩を掴まれた。
「「お願いします、師匠!」」
「2人ともお待ちなさい。スーパースペシャルマックスバスターが先です。さあ、クウちゃん、修行を進めますわよ」
お姉さま、ブレない!
「だからアリーシャ、それどころじゃねーって! 帝国の危機だぞ!」
「その通りですよ、アリーシャ。遊んでいる場合ではありません」
本当に危機なら、3人に教えている場合ではないよね……。
まあ、いいけど。
この後、3人はガッツリと揉めた。
結局、お姉さまが折れることはなく、私はそれぞれに教えるハメになった。
スーパースペシャルマックスバスターと、ダブルスラッシュ。
果たして将来、どちらが正解となるのか。
それは私にもわからない問題だ。




