496 恐怖の罠
今日は1月の5日。
外は朝から小雪。
新年の忙しさも落ち着いて、いよいよ今年の生活が始まった。
一階のお店に降りて、ヒオリさんと朝食。
「ヒオリさん、今日から学院だよね」
「はい。店長は――今日は大宮殿でお泊りなんですよね」
「うん。そうだけど……どうしたの?」
妙な間があったので、たずねてみる。
私は今日、セラに誘われて、大宮殿にお泊りで遊びに行く。
「いえ、いえっ! なんでもありませんっ! ほんの少しだけ思い出したことがありましてっ!」
ヒオリさんは慌てたように顔を左右に振った。
「へー。なんだろう?」
気になるね。
「たいしたことではないのですっ! 学院のことで少しっ!」
「そかー」
それならまあいいか。
朝食をおえて、2人で家を出る。
私の場合は、『帰還』の魔法で大宮殿の奥庭園、いつもの願いの泉のほとりに瞬間移動するだけだけど。
願いの泉のほとりでは、小雪の中、傘を差してセラが待っていた。
うしろにはメイドのシルエラさんもいる。
「おはようございます、クウちゃん」
「おはよー、セラ。雪だし、大宮殿のロビーで待っててくれればよかったのに」
「一刻も早くクウちゃんに会いたかったんですっ!」
「あはは。ありがとー」
「さあ、行きましょう!」
セラが傘の中に私を入れてくれた。
ありがたく入らせてもらう。
私の場合は、どんなに濡れても『透化』すれば完全に乾くんだけど、せっかくの気持ちなので。
セラが私の腕に腕を絡ませる。
「ねえ、セラ」
「はい、なんですか?」
「なんかさ、気のせいかも知れないけど、ガッチリだね」
「そうですか?」
「うん。まあ、いいけど」
軽くふわっとお互いの腕を絡ませるのは……。
まあ、うん。
仲良しなんだからいいよねって感じだと思うんだけど。
今日のセラは、妙にガッチリと、まるで私を逃さないようにしているかのように腕に力を込めている。
雪だから、傘からはみ出ないようにしてくれているのかな?
たぶん、そうなのだろう。
細かいことを気にしても仕方がないので、私は気にしないことにした。
「今日はなにしよっか」
今日は1日、セラと遊ぶ予定だ。
だけど天気は生憎の雪。
「今日は大宮殿の中で遊びましょうっ! わたくし、用意してありますのでっ!」
「うん。いいよー。楽しみー」
セラの部屋かな。
新しいゲームでも手に入れたんだろうか。
「でもセラ、勉強はいいの? ものすごく頑張ってるのにお泊りで遊ぶなんて」
「きょ、今日はいいんです! きょきょ、今日はっ!」
「いいならいいけど……。まあ、うん、気分転換も必要だよね」
「そそ、そうです! きき、気分転換ですっ!」
セラは妙にどもった。
もしかして今日は、陛下や皇妃様には内緒の遊びなのだろうか。
かも知れない。
真面目なセラがそんなことをするなんて――。
なにで遊ぶんだろうね。
すごく楽しみだ。
大宮殿に入った。
ただ、セラの部屋へ向かうのとは、別の通路を歩いた。
「ねえ、セラ。どこに行くの?」
「は、はは、はいっ! 今日は特別なお部屋で遊ぼうと思いましてっ!」
ふむ。
なんだろか。
まあ、いいか。
私をビックリさせたいのかな。
セラを疑う必要はないし、ここはついていこう。
「こ、ここ、ここですっ!」
「うん」
部屋の前についた。
セラが自分でドアを開けてくれる。
「ど、どうぞ、クウちゃん!」
「うん。ありがとー」
私は遠慮なく、部屋の中に入らせてもらった。
部屋は応接室かな?
ただ、妙にすっきりとしていた。
中には机がひとつと、本のたくさん置かれたキャスター付きのワゴン。
あと、何故か黒板があった。
そして……。
温厚そうな白髪の老婆が1人、スーツ姿で立っていた。
「ごめんなさいクウちゃん!
これもクウちゃんのためなんです!
頑張ってください!」
セラが叫んで……。
背後でバタンと、ドアが閉じられた。
老婆が言う。
「こんにちは。初めまして、クウ・マイヤさん。私はナディと申します。5年前まで帝都中央学院で教員を勤めておりました。今回は学院長先生の紹介と、恐れ多くも皇帝陛下からのご指名を頂き、ここに来させていただきました。お会いできて、とても光栄に思います」
学院長とは、ヒオリさんのことだね。
ふむ。
なんだろか。
とっても嫌な予感がするのですが……。
「まずはマイヤさんの学力を確かめさせていただきますね。その後は、今日と明日という短い期間ですが――。私にできる限り、不足している部分を補強させていただきますね」
え。
え?
私、ブートキャンプに放り込まれた?
的な?
ことなのかな……?
なのかしら?
セラぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?




