495 対決! クウvsリト
こんにちは、クウちゃんさまです。
私は今、白仮面のソードとして聖都の新年イベントのステージに立っています。
これからリト――。
白仮面のセイバーと剣舞です。
正直、地味で控えめなのが心情のわたくしとしては……。
こんな派手なことしていいのかなー、と思わなくもないのですが……。
まあ、新年だし、クウちゃんじゃなくてソードだし、そもそもユイが乗り気なのだからいいのだろうか。
いいということにしておこう。
私とリトは、それぞれ、鉄の剣を手にしている。
今回は魔法なしの打ち合いだ。
どうなるか楽しみだね。
リトめ、果たして口だけのことはあるのか!
さあ、ユイが開始を宣言して、ステージの奥に下がった。
他の人たちも、すでにステージの奥にいる。
開始だ。
リトが先に攻撃を仕掛けてくる。
思ったよりも早い!
瞬きするより早く眼前に迫った剣を、私は下から弾いた。
本気で振るった。
金属音が響いて――。
お互いの剣が砕けた。
ふむ。
鉄の剣では、私達の衝突には耐えられないようだ。
どうする、リト?
もうやめとく?
私はそうたずねようとした。
私的には、今の一撃だけでも、それなりに満足することができた。
リトが剣を振れることは、よく理解できた。
おわるのなら、リトの剣の技量は、ちゃんと認めてあげよう。
と、思ったのだけど――。
シュン!
眼の前を刃がかすめた!
というか、咄嗟に私が身を反らしただけで――。
側頭部直撃コースだったぞ!
カンペキに!
「ちっ! 外したのです!」
見れば、飛び退いたリトが仮面の下で舌打ちしている。
その手には新しい鉄の剣があった。
大精霊は、ゼノもそうだけど、私のアイテム欄に似た亜空間収納の固有技能を持っている。
そこから取り出したのだろう。
跳躍してリトが突きを放ってくる。
これには焦った。
さすがに少しは会話すると思ったのだ。
まさか問答無用とは。
なんとか躱したけど、このままでは隅に追い詰められる。
私は咄嗟に『浮遊』した。
「死ね死ねなのです!」
空中戦になった。
リトはここぞとばかりに攻め込んでくる。
「ちょっ! 待った! 待った!」
「待たないのです! 隙を見せたクウちゃんさまが悪いのです! 大人しくこのまま斬られて死ねなのです!」
私もアイテム欄に鉄の剣はあるけど、取り出す暇がない。
リトの猛攻を回避するだけで精一杯だった。
なんとか一拍、隙を作らないと。
いっそ捕まえて投げ飛ばしてやろうかと思ったけど――。
今回は剣の技だけでの勝負だ。
そもそも私は格闘の素人。
並の相手なら力任せでどうにでもなるけど、リト相手ではそうもいかない。
と、なれば!
「あ、ユイが転んだ!」
「え?」
よし!
大好きなユイのことになると、意識も乱れるね!
私はようやくアイテム欄から鉄の剣を出すことができた。
「ユイは座ったままなのです! 卑怯者なのです!」
「どの口が言うかー!」
さあ、仕切り直した。
私たちは空中で向かい合って、お互いに一気に距離を詰めた。
正面から打ち合うと剣が砕けてしまう。
ぶっちゃけ、鉄の剣の打撃なら、普通に体で受けてもたぶん平気だけど――。
それは美しくない。
というか、攻撃を食らったら、それはもう負けだ。
戦いは必然的に回避中心となった。
観客から見れば、まるで踊っているように見えたのではなかろうか。
たまに受け流した時に生まれる火花が華を添えている。
まさに剣舞だ。
勝負は私の勝ちで終わった。
フェイントに引っかかったリトの喉元に剣を突きつけたのだ。
抵抗してくるかなーと思ったけど――。
リトは素直に負けを認めた。
私たちはステージに降りた。
ステージに出ていたユイが出迎えてくれた。
観客に一礼。
たくさんの拍手をもらった。
「うう、悔しいのです。まさか剣でも負けてしまうなんて。リトは悔しくて歯軋りしすぎて歯が折れてしまうのです」
「あはは。リトも強かったよ。正直、見直した」
口だけではなかったね。
「クウちゃんさまに見直されても嬉しくもなんともないのです。今度こそぶちのめしてやりたかったのです」
こいつはー!
本当にどうしてくれようか!
とは思ったけど、たいして腹は立たなかった。
むしろ正直、私は嬉しかった。
なにしろ、私とまともに打ち合える相手にやっと出会えた。
「またやろうよ。楽しかったよ」
私は笑った。
「……まあ、楽しかったことは楽しかったのです。そこまで言うのなら、また特別に遊んでやってもいいのです」
こうして聖都でのイベントはおわった。
ユイには夕食にも誘われたけど、それは断って私は帰宅した。
すっかりヒオリさんのことを忘れていて、あやうく1人で帰るところだった。
「店長ぉぉ! 某! 某をお忘れです!」
と叫ばれて、危ういところで気づいた。
ごめんね。
家に帰ると――。
家の前にエミリーちゃんがいた。
「クウちゃん! ヒオリちゃん! 新年おめでとう!」
「これはエミリー殿。おめでとうございます」
「待っててくれたの? ごめんね、出かけちゃってて」
昨日、予定を伝えておけばよかったね。
「ううん。わたしが勝手に来ただけだし、気にしないで。クウちゃんに一番に新年の挨拶がしたかったの!」
「新年おめでとう。今年もよろしくね」
「うん! よろしくお願いします!」
エミリーちゃんは挨拶だけして、すぐに帰って行った。
本当にそれだけのために待っていてくれたようだ。
ちなみにセラとは、3日に会う約束をしている。
3日には大宮殿で新年会があって、それに参加する予定なのだ。
新年会にはマリエのご一家も来るそうだ。
明日は、朝一番でアンジェに会いに行って――。
昼は帝都のお祭りを見学して――。
午後は竜の里に行く予定だ。
フラウたちには、去年、本当にお世話になった。
ちゃんと挨拶しておきたい。
ちなみにユイとエリカは、年始は忙しすぎて無理なので、年末の内に2人で挨拶をしてきたそうだ。
そして今夜は――。
いつもの『陽気な白猫亭』だ。
今夜は、ロックさんにルルさん、ブリジットさんも来る予定だ。
新年大騒ぎ!
するぞー!




