49 光の剣と精霊の指輪
セラと並んで歩いて大宮殿に向かった。
到着してエントランスに入ると、バルターさんが待っていた。
「こんにちは、バルターさん」
「いらっしゃいませ、クウちゃん。おかえりなさいませ、セラフィーヌ様」
「ちょうどよかった。実はバルターさんや陛下や皇妃様、もちろんセラにもだけどプレゼントがあるんだ。陛下の分と一緒に渡していい?」
「それでしたら食堂で直接お渡しいただければと。本日の昼食は皆様と一緒に取るとのことでしたので」
「そうなんだ」
「……クウちゃん、わたくしにも何かくださるのですか?」
「うん。前に約束したのとは別だけどね」
食堂に入って待っていると、陛下と皇妃様がやってきた。
今日はナルタスくんは一緒ではないようだった。
「クウちゃん君、俺たちに何かくれるそうだな?」
席に着くなり挨拶もせず、陛下がいつものニヤリとした笑みを向けてきた。
「はい。一応、お世話になっているのでお礼です」
「何をくれるのかな? 食事の前に遠慮なくいただこうではないか」
「剣もあるんですけど、出していいですか?」
「構わん」
陛下の許可をもらってから取り出す。
ミスリルソードと8個のシルバーリングをテーブルに置いた。
「……これは、ミスリルか?」
「刃はミスリル100%の混じり気なしです。あと付与効果をつけてあります。試しに発動させますね。眩しいので最初は目を逸してください」
掲げてホーリーブレイドと声に出す。
ミスリルの刃が輝きを増し、部屋一面に白い光を放った。
「アンデッドと魔族に対して特効を持つ力です。ホーリーブレイドと声に出すだけで発動するので簡単です」
「クウちゃん君は、アンデッドや魔族との戦いを想定しているのかね?」
「いいえ。この世界って、光の力が尊ばれているみたいなので、これがいいかなとつけてみました。どうぞ」
いったん手放して、光を消してから陛下に渡す。
「俺が唱えても発動するのか?」
「はい」
「ホーリーブレイド」
陛下の掲げた剣が白い光を放つ。
「……ほお。これは素晴らしいな」
「でしょー。自信作です。あ、手放せば光は勝手に消えますよ」
陛下が剣をテーブルに戻し、光を消してから、再び手に取る。
そして再びホーリーブレイドと唱えて輝かせた。
「これは何度でも使える力なのか?」
「効果は永続のはずです。……もしかしたら違うかも知れませんけど、試していないのでわかりません」
「あの、クウちゃん……。わたくし、剣のことは詳しくないのですが、それでもその剣はとても高価なものに見えるのですが」
「ふっふー。高品質のミスリルインゴットをふたつも使ってるからねー」
2000万円はするよっ!
「どうですか、陛下。気に入ってもらえました?」
「……バルター、悪いが、君の意見を聞かせてやってくれ」
「ミスリルは、その美しさと硬度と魔力伝導率の高さから、万全とも呼ばれる希少な金属です。しかし、それ故に単独での加工が難しく、帝国の聖剣でさえミスリル純正ではありません。純ミスリルに加えて光の力となれば、剣の価値は規定不可能でしょう。これはクウちゃんが作られたのですかな?」
横からバルターさんが神妙な面持ちでたずねてくる。
「はい。私が作りましたけど……。あ、でも、作るには特別なアイテムが必要なので量産は無理ですよっ! それ1本だけの逸品ですからねっ!」
この設定、ちゃんと考えておいてよかった!
あと帰ったら、ショーウィンドウに飾ったままのミスリルソードはしまおう!
売るのはアイアンが上限だね、これは。
「わかっている。君を閉じ込めて剣を作らせるつもりなどはない」
剣をテーブルに置いて、陛下が上機嫌に笑う。
「ならいいですけど……」
「それでこの剣は、本当にありがたく俺がもらっていいのだな?」
「はい。よくしてくれたお礼です」
「はっきり言っておくが、家一軒よりも、よほど高価だぞこれは」
「そかー」
「気の抜けた返事をするな。まったく、君というやつは」
「だって剣があっても家は買えないですよね」
身元不明だしね、私。
「あ、剣の名前は光の剣と言います」
私が考えた!
「大層な名前だと言いたいが、この剣には相応しいか。民衆への演説会で派手に使ってやるから楽しみにしていろ」
「民衆への演説会なんてあるんですね」
「精霊の祝福について、そろそろ公式な見解を出さねばならんのでな。最近はその打ち合わせで大忙しだ」
「なんか、すみません」
「安心しろ。君の存在は隠す。いや、一部の貴族には、すでに君が遠国の王女であることは伝えたぞ」
「どんな設定になりましたか?」
「設定はない」
断言された。
「えっと……」
「詳しく話す必要などあるまい? やんごとなき事情でよい。君の姿を見れば勝手にエルフと思うだろうさ」
「エルフっぽい感じなんですね。嫌だけどわかりました」
「なんだ、エルフは嫌いか?」
「好きではないです」
精霊はエルフの下位互換と言われ続けてきたしね。
「はっはっは! エルフが聞いたら泣くぞ」
「――ハイセル、そろそろわたくしたちにも話を振ってもらえるかしら? いつまでも独占するものではなくてよ?」
トントンとテーブルを指で叩きながら皇妃様が微笑む。
「ああ、すまなかった。クウちゃん君よ、アイネーシアとセラフィーヌに指輪の説明をしてやってくれ」
「その前に、こんにちは、クウちゃん。ごめんなさいね、皇帝ともあろう者が無作法に挨拶の1つもなくて」
「あはは、いえ。こんにちは、皇妃様」
「それでこの指輪はどんなものなのかしら? 見たところ、普通のシルバーリングのようだけれど……」
「これは精霊の指輪です。私が力を込めて作りました」
「精霊の……?」
「はい。手に取ってくださって大丈夫です。セラもどうぞ」
セラにひとつ渡してから、私も指にはめる。
「こうして指にはめることで、それぞれ1日に1回ずつですが、攻撃を無効化し、毒を消します。
これさえあれば奇襲を受けても大丈夫、毒を盛られても平気です。
サイズは気にしないでオーケーです。
はめれば自動的に合います」
武具や他のアクセサリーは装備してもサイズが変化したりはしない。
なので使用者に合わせて生成する必要があった。
だけど指輪は違っていた。
装備すると、サイズが使用者に合う。
「すごい指輪ですね……」
セラが指にはめたシルバーリングをまじまじと見つめる。
「こういうのって魔道具でありますか?」
皇妃様に質問してみる。
「そうですね――。
指のサイズに合う魔道具の指輪は、たしか存在していた気がします。
攻撃を防ぐ魔道具は、設置型のものであれば存在します。
ただし、魔術師による制御が必要ですし、長時間の発動は不可能なので、日常的に使えるものではありません。
毒についても解毒ポーションや毒消しの魔術は存在しますが、あらゆる毒に効果があるわけではありません。
クウちゃんのこの指輪は、常に防御効果を発揮できる状態で、あらゆる毒に効果があるのかしら?」
「はい。1日に1回なら寝ている時でも攻撃は防ぐはずです。古代竜クラスからの攻撃になると防げないかも知れませんが、それ以下ならまず平気です。毒はすべて大丈夫のはずです」
「それなら安心ですね。古代竜に襲われたら、そもそも国が滅びます」
「あはは」
「この指輪は国宝級と言えるでしょう」
「そかー」
国宝かー。
気楽に量産できるアイテムではないということか。
これ、メアリーさんやリリアさんにはあげない方がいいね。
やめておこう。
悪い人に狙われそうだし。
「あ、これも特別なアイテムが必要なのでっ! 逸品なのでっ! たくさんは作れないアイテムなのでっ!」
「ええ。わかっています。クウちゃんの不利益になることはいたしません。せっかくこうして持ってきてくれたのですから」
「そうだっ! セラ、ためしに木剣で私を突いてみてよ。平気だから」
「えっ。こ、ここでですか!?」
「面白い。セラフィーヌ、やってみなさい」
「お母さま……?」
陛下に促されたセラが、困って皇妃様に助けを求める。
「基礎だけとはいえ剣を習ったのでしょう? 見せてごらんなさい。クウちゃんが平気というなら平気でしょう」
「……クウちゃん、本当に怪我しませんか?」
「平気だよー」
私は席を立って、自由に動けそうな後ろ側に歩いた。
壁際にはメイドさんたちがいるけど、当たらないくらいのスペースはある。
「ほらセラ」
「は、はい……」
そばによってきたセラに木剣を渡す。
渡してから、少し距離を取る。
「本当に行きますよ……?」
「いいよー」
「わかりましたっ!」
セラが基本の姿勢を取る。
次の瞬間には体のひねりを利用した鋭い突きを放ってくる。
私は避けずに正面から受けた。
でも、切っ先が届く寸前で魔法の障壁が現れてその攻撃を受け止める。
「きゃっ!」
剣を弾かれて、セラが尻餅をついて倒れる。
「セラ! 大丈夫っ!?」
「……はい、平気です」
あわてて駆け寄ってヒールした。
「セラ、今の一撃すごくよかった。自然に体が伸びて、剣が生きていたよ」
「ありがとうございます」
「ああ、そうだな。俺も驚いたぞ。セラフィーヌは剣にも才能があったのだな。さすがは俺の娘だ」
「セラフィーヌですもの。当然ですわね」
意外と親バカなのだろうか。
陛下と皇妃様は満足そうに言葉を交わしている。
「……それであの、先程の透明な盾のようなものが指輪の力なのですか?」
「うん。ちゃんと発動してよかった」
「すごいですね……」
「これさえつけておけば即死はないから、セラもよかったら装備しておいてね」
「はいっ! 大切にしますっ!」




