表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/1359

48 時計屋のドワーフさん





 もう一方のおとなりさんは、広めの空き地を挟んでのお店だった。

 看板は出ていない。

 ショーウィンドウもなかった。


「……すみませーん」


 緊張しつつ、お店の中に入る。

 時計屋さんだ。

 店内にはたくさんの時計が置かれていた。


「いらっしゃい」


 奥にいるのは強面のドワーフさんだった。

 私に目を向けることもなく、何やら細かそうな作業をしている。


「あの、私、となりでお店を始めることにした――」

「話は聞いている」

「あ、これ、私の手作りクッキーです。よかったら食べてください」


 テーブルにクッキーを置いたけど、反応なし。

 悲しい。


「買わないなら出ていけ」

「えっと。時計、ほしいんですけど」


 そういうと顔を上げてくれた。


「あとあの私、時間とか暦とかよくわかってなくて……。買うついでに教えてくれると嬉しいなー、なんて」


 一般常識すぎるのか、今までの勉強では教えてもらっていなかった。

 時計を見て今更ながら暦の存在を認識した。


 怒鳴られておわりかなぁと思ったけど、ドワーフの店主さんは教えてくれた。

 暦は、1年が12ヶ月。

 1ヶ月は5週。

 1週間は6日。

 光の曜日・火の曜日・風の曜日・水の曜日・土の曜日・闇の曜日と巡る。

 1ヶ月は30日。

 加えて、季節と日付のズレを修正する無属性の日があるそうだ。


 1日は24時間。

 時計の針の動き方は前世と同じだった。


 そんな話を聞いてから、私は懐中時計を買うことにした。

 金貨10枚と言われた。


「たかっ! そんなにするのっ!?」

「……俺はエルフは好かんが、商売には誠実であるつもりだが?」


 迷った末、買うのはやめた。

 だって高い。

 買えるけど、今後の生活を考えれば散財は避けたい。

 金貨20枚を手に入れてすっかり大金持ちの気分だったけど、やはり世の中、上には上の世界があるものだ。


 かわりにネジ巻き式の置き時計をふたつ買った。

 金貨1枚を支払う。

 気楽に買ったけど、約10万円。

 なかなかの出費だ。

 買ってから気づいたけど、そういえばこのあたりは高級店が多いのだった。


「いやー、でも、ドワーフさんってやっぱり職人なんだねー」


 せっかくだし世間話もしてみる。


「私、ドワーフさんと会うのは2回目だけど、前の人も職人さんだったんだー。

 あ、知ってる?

 アーレの町のマクナルさんっていう、ハンバーガー大好きな鍛冶職人さん」


「それは俺の兄キだ」

「ええっ! てことは、マクナルさんの弟さん!?」


 世間せまっ!


「お兄さん、元気だったよっ!

 愛想のないところなんて弟さんとそっくりで!

 って、あ、悪口じゃないよっ!

 じゃなくって、えっと……。

 うん、そうそう!

 でも優しくて、結局、よくしてくれたんだー。

 あ、見る?

 お兄さんが作った剣、私、持ってるよ?

 ショートソードっ!」


「用が済んだなら帰れ。俺は作業が立て込んで忙しい」

「でもお兄さんの剣……」

「帰れ」


 にべもなく、そっけなく言われた。

 せっかく盛り上がる話題なのにっ。

 私、けっこう、仲よくなれそうな話を振ったよね!?

 なんでー!?

 ショートソード、見なくていいの!?


 弟さん、ちらりとも、こちらを見てくれない。


「喧嘩とかしてるの……?」


 返事はない。


「それなら、仲直りしたほうがいいと思うけど……」


 ただの屍のようだ。

 ではないけど。

 うん。

 黙々と私を無視して作業している。


「あっ!

 私、こう見えて、けっこういい人なんでっ!

 もしも困ってるなら相談に乗るよ!

 私、こう見えて、けっこうすごいんでっ!」


 これもなにかの縁だしね!


「うるせぇエルフだな……。喧嘩なんてしてねえっつーの。生きてりゃそれで問題ねーから興味ねーと言ってるんだ」


「ホントに……?」


「帰れ」


 また言われた。


「ホントならいいけど……」


「帰れ」


「あ、ならならっ!

 Aランク冒険者のロックさんたちは知ってる?

 マクナルさんところの常連みたいで、一緒に行ったの。

 それでね、さっきのショートソード、実はロックさんの奢りで、」


「帰れ」


「おとなりなんだから、すぐに帰れるよー。

 あ、ならならっ!

 私のクッキー、食べてみて?

 私の手作りなんだー。

 美味しいよ?

 気に入ってくれるといいけど」


「帰れっ! いい加減にしねえと油かけて山に捨てるぞ、このクソエルフ!」


 うわ怒鳴られた!


 なんでー!?


 油の入った瓶を振り上げて、本気で怒ってる……?


「ま、また来るねーっ!」


「二度と来るんじゃねー!」


 あわててお店から出る。

 まあ、うん。

 マクナルさんと喧嘩していないなら、それでいいけどさ。

 仲よくなるのは、また今度にしよう。


 家に戻って、工房と3階の部屋に時計を置いた。


 時刻は午前11時を回っていた。

 大宮殿に行く時間だ。


「帰還」


 魔法を使って願いの泉の上に出てみれば、セラとシルエラさんの姿があった。

 セラは木陰で目を閉じていた。


「やっほー」


 声をかけてもセラは私に気づかなかった。

 おねむ?

 かと思ったけど、違う。

 気配でわかった。

 精神集中して魔力を感じているのだ。

 静かに動いたシルエラさんがセラの肩に手で触れる。

 それでセラは目を開けた。


「やっほー、セラ」

「やっほーです。今日もお会いできて嬉しいです、クウちゃん」

「魔術の練習? 頑張ってるね」

「魔力を収束させるのが難しくて苦戦しています」


 セラが苦笑いをする。


「なるほど。なら、アレを思い浮かべてみるといいかも。

 えっとね……。

 大きな袋を小さくまとめるみたいに……。

 端っこから、空気を抜きつつ押して丸めていく感じ?」


 ゲームでは、NPCの先生がそんな説明をしていた。


「押して丸める……。ですか……」

「一度、袋でやってみるといいかも。イメージがつかめるし」

「わかりました。やってみます」

「うん」


 私は笑顔でうなずいた。

 セラならすぐに体得しそうだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
あちゃー。バカだから許してくだせぇ
クウちゃん、KYだなぁ…作業中は気が散ってイライラするでしょう。自分がやられたら嫌なことは他者にもしたら駄目なのです
[良い点] そりゃ細かい作業中にうるさくしてれば怒られるww
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ