476 大会終了
それは居合わせた人たちの、共通の想いだったはずだ。
ああ……。
なんてものを……。
なんてものを見せてくれたんだ……。
こんなものを見てしまったら、これから先の人生、一体、なにに感動すればいいのかわからなくなる。
それほどの感動。
魂の揺さぶりを感じた。
姿勢を正したフォーン神官が、深くおじぎをした。
芸は、おわったのだ。
ぱち……。
ぱち……。
最初は、小さな拍手だった。
でも拍手は、やがて重なり合い、大きな渦となった。
ああ……。
わかる……。
私も思い切り拍手したい気分だ。
でも、私は司会者。
しっかりと息を吐いて、元気に言わねばならない。
「さあ! まずは審査員のみなさま! 得点をお願いします!」
パネルが上げられる。
歓声が上がった。
10点!
10点!
10点!
10点!
10点!
「つづいて特別審査員のみなさま! お願いします!」
パネルが上げられる。
さらに歓声が大きくなる。
20点!
20点!
20点!
「では最後に、マリーエ様! どうでしょうか!」
ここで会場が静まる。
ここまでマリーエ様は無言だった。
まだ得点どころか、コメントすら何も口にしていない。
みんなの想いは同じだろう。
果たして――。
どうなのだろうか――。
魂にまで届いた、この芸を――。
世界に審判を下す者は――。
どう評するのか。
あ……。
マリーエ様が、すっと席から身を起こした。
会場から息を呑む音が聞こえる。
緊張が高まる。
次の瞬間、マリーエ様の絶叫が広場に響いた。
「やまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁすばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
うおおおおおおおおおおおお!
うわああああああ!
きゃあああああああああああああああ!
大歓声が、割れんばかりに轟いた。
ヤマスバ。
意味はわからない。
意味はわからないけど、山が素晴らしいのだろう。
つまり認められたのだ。
マリーエ様が着席する。
会場の興奮は収まることを知らなかった。
このままではマズイかなぁと思ったところで、空から、まるで雪のように光の粒子が降り注いだ。
合わせて、興奮しすぎていた会場の熱気が冷め止む。
リトがやったのだろう。
「マリーエ様、ありがとうございました!」
私は司会を続ける。
「さあ、というわけで!
すべての参加者の芸がおわりました!
優勝者は――。
あらためてお呼びしますので、まずはご休憩をお願いします!」
フォーン神官の優勝は決まったけど、まだやることがあるので、一旦、ステージ裏に下がってもらう。
「さあ、では! 審査員、特別審査員のみなさまに――。すべての芸を見終えた感想をいただきたいと思います!」
まずは審査員の方から、1人ずつ、語ってもらう。
その後、ユイとエリカと陛下にも。
順番については、あらかじめ決めてある。
まずはエリカ。
次に陛下。
最後にユイがしゃべる。
審査員の方々のトークは問題なくおわった。
次はエリカだ。
エリカのトークは長くなるかなぁと心配していたのだけど、意外にもすべての芸が素晴らしかったと短めでおわった。
そういえば王子騒ぎの間、好きなだけしゃべっていたか。
すでに満足していたのだろう。
陛下の挨拶は威風堂々としたものだった。
とても偉そうなのに見下した感じはなく、参加者と共に聖都の街並みや観客を褒め称えていた。
ユイの挨拶は普通だった。
飾ったところのない自然体で、今日は楽しかった、みんなも楽しんでくれたようで嬉しいと伝えた。
観客からの拍手の密度は圧倒的だった。
さすがだ。
と、ここで私はマリーエ様のことを忘れていた。
陛下やユイの後にコメント――。
マリーエ様というかマリエに振っちゃって大丈夫なのかなぁ……。
と、ほんの少し悩んだけど。
うむ。
面白そうなので、振っちゃうことにした。
「では、最後になりますが――。
マリーエ様!
最高審査員として、締めのお言葉をお願いしますっ!」
さあ!
マリエ!
最高の見せ場、準備してあげたよ!
私に見せて!
マリエの、輝きを!
私だけでなく、他の審査員や観客が見守る中――。
マリエが、すっと立ち上がった。
そして言った。
「ヤマスバ」
と。
会場からは大きな歓声と拍手が起きた。
私も拍手した。
審査員のみんなも拍手した。
意味はわからない。
わからないけど、なんだか盛り上がっているのだ。
それでいいよね。
かくして――。
大いに盛り上がった大会は、表彰式を残すのみとなった。




