474 決着
こんにちは、クウちゃんさまです。
私は今、ソードと名乗って、前に出てきた騎士を打ち倒したところです。
「勝負ありですね」
そう言って前に出たユイが、回復の魔法をかける。
傷が癒えるのに合わせて意識を取り戻した騎士が、振らつきながらも膝に手を付いて身を起こす。
騎士が立ち上がってから――。
1人だけ尻餅をついていた王子にユイが手を差し伸べる。
「さあ、立って下さい」
王子は一瞬、ユイを睨みつけたけど――。
すぐに目を反らして、ユイの手を握り、立ち上がった。
うん。
あれだ。
ユイは光のオーラを使いこなしているね。
ずっと控え目にしていたのに、王子に手を差し伸べたところからそれはもう強烈に出力全開していた。
王子的には、手なんて払い除けたいところだったと思うけど――。
光のオーラに当てられて、完全に萎縮したようだ。
「クソが……」
と、吐き捨てるように王子は言った。
私は騎士に言った。
「まあまあ強かったよ。よく修行していたと思う。まだやるならやるけど、今度は全員でかかってみる?」
「……結構だ。
殿下も納得された様子だしな。
そもそも俺には、すでに武具がない」
騎士が肩をすくめる。
「ならよかった」
他の騎士たちも、私と戦うつもりはなさそうだ。
「それにしても――。さすがは聖女様の騎士。強いものだな」
「まあねー。残念だけど、聖国で好き勝手したいのなら、それこそ悪魔にでもお願いしたらどうだろうね。悪魔は全員、魔界に還ってもらうつもりだから、まだいるなら丁度いいし」
「残念だが――。いや、幸いにも、すでにおらぬ」
「そか」
残念。
騎士がユイに向けて片膝をつける。
「聖女様、回復に感謝を」
「お気になさらず。ただし、騒ぎを起こした以上、聖都に入っていただくわけにはいきません。あとはルールに従っていただきます」
「……我らは、どうなりますでしょうか?」
「そうですね――。門前で衛兵の指示に従わなかった者は、最低でも一晩、投獄されるのが決まりです」
「――殿下も、でしょうか?」
「当然です」
「――禍根になりますぞ?」
「どうぞお好きに。忖度など、一切、するつもりはありません」
ユイは言い切った。
ここでまわりの人たちから歓声が湧き上がった。
ふむ。
ユイはこういう時、けっこう融通が効かないんだよねえ。
まあ、ここは私が間を持ってあげるか。
ユイ――。
と、言いかけて、私は言葉を直した。
今の私は親衛隊の序列一位、ソードだった。
「――聖女様。ここは我にお任せを」
「くう、ソードがですか?」
「すべて、よきに計らわせていただきます」
「わかりました。お任せします」
「聖女様はステージにお戻りを」
「あ、そうだったね」
「はい。今はまだ大切な大会の最中です」
では。
ここから先は問答無用だ。
まずは王子と騎士たちを黒魔法のスリープクラウドで眠らせる。
その後で銀魔法の重力操作を使って、全員、ひとまとめにする。
漏らしがないように、しっかりと集中して――。
転移の魔法を発動。
場所は、トリスティン王国のダンジョン。
以前、悪魔を探していた時、ついでに登録していたのだ。
すぐに銀魔法『離脱』。
魔法の効果でダンジョンの外に出た。
無事に全員いる。
ここで睡眠の魔法を解除して、目覚めてもらう。
「ここは……。見覚えがある――。まさか、我が国のダンジョン町か――?」
「そ。王都近郊のね」
「……ラズイア様、それに、デニス様まで。これは一体」
ダンジョンのゲートにいた衛兵たちが、驚きを隠せない顔で、騎士たちの名前を口にしている。
どうやら顔見知りのようだ。
「じゃあ、元気で。次に会う時は友好的に出来るといいね。でも用があるならまずは使者を立ててね」
「待ってくれ。これは、魔術なのか?」
ラズイアという騎士が私にたずねる。
「そ。私のね」
「……そんなことが」
「できるんだよ。もちろん、聖女にもできます。――あと、そうだ」
私は王子に目線を向けた。
「皆さん、特に王子。
帰ったら明日の朝まで部屋の中で謹慎していて下さいね。
今回はそれで良いこととします。
約束ですよ。
違えば精霊の信用を失いますよ」
「せ、精霊だと……。貴様は、何を言っている――」
王子がつぶやく。
「言葉の通りですよ。聖女とも約束しましたよね? 聖女は光の大精霊と共にある存在です。すなわち、その約束は精霊と共にあるのです。違えば当然、精霊からも見限られてしまいます。世界に精霊が戻ってきている今、それは確実に悲しい結果を招きますよ。逆に約束を守り、真摯でいれば、もしかしたら皆さんにも精霊の加護が降りるかも知れません」
少し脅しておく。
通じるかわからないけど、復讐だとか騒がなくなればいいね。
「では」
一礼して、私は姿を消した。
浮かび上がる。
十分に高度を取ったところで、ユイの家に転移した。
聖都は本当に便利だ。
直接転移できるので時間のロスがない。
なにしろ今は大会の最中!
王子たちには申し訳ないけど、いつまでも構っている暇はないのだ!
ステージに戻ると、エリカが語っていた。
調子よくしゃべっている。
さすがだ。
今やジルドリア王国の最強集団となった『ローズ・レイピア』の設立や運営に関する話のようだった。
今話題の組織のこととあって、観衆も聞き入っている。
ありがとう、助かったよー!




