47 ものづくりたーいむ
朝、頑張って早めに起きる。
手早く身支度を済ませて、パンを食べつつ工房に降りる。
「さてさて」
生成だ。
まず作るのはお礼の品。
たとえ精霊な私を囲いたいだけだとしても、家をもらってドレスをもらって他にもあれこれ面倒をかけて、感謝の言葉だけではダメだろう。
陛下、皇妃様、バルターさん、セラ、ここまで作るのなら姉とナルタスくん、嫌だけど兄の分も作る。
あとは、シルエラさん、メアリーさん、リリアさん、かな。
まずは帝都でお世話になった人たちの分。
そういえばエミリーちゃんに渡す入門魔術書も探さないといけないな。
まあ、それはまた後日か。
「まずは、剣だね」
陛下に献上するのは魔法剣。
高品質のミスリルインゴットをふたつ使って生成するミスリルソードだ。
高品質のミスリルインゴットはひとつで金貨100枚――1000万円することもあるとギルドの鑑定士さんは言っていた。
なので、2000万円くらいの価値はある剣になるはずだ。
安物過ぎて笑われることはないだろう。
さくっと生成する。
高品質で完成。
ミスリル系のレシピは熟練度80前後。
熟練度120の私にとっては、たいして精神集中する必要もなく、確実に高品質で生成できるアイテムだ。
問題はここから。
宝石を1つ取り出して、ミスリルソードの上に置く。
「うーむ。どんな効果を付与しようかなぁ……」
武器や防具やアクセサリーには、宝石1つを媒体として、魔法の効果を付与することができる。
戦闘力を高める大切な要素だ。
とはいえ、どうせ倉庫に入れられておしまいだろうし、実用性より見た目を重視してつけておこうかな。
「付与、ホーリーブレイド」
付与は、最初のひとつなら100%つけることができる。
なので失敗なく、つけることができた。
これがふたつ目になると、成功率は75%に落ちる。
みっつ目では、50%。
よっつ目では、25%。
失敗すれば、媒体の宝石もろともアイテムは壊れて消える。
なので、ミスリルソードでは挑戦しない。
ミスリルは今の私にとって最高の素材だ。
この世界での価値も高い。
無駄にはできない。
さて、それはともかくホーリーブレイドだ。
ホーリーブレイドは、アンデッドと魔族に対して魔法属性の追加ダメージを乗せることのできる付与だ。
追加ダメージはそれなりに出るので、特定のレイドで使われることはあった。
ただ、今はそれはどうでもいい。
なんといってもこの付与は、けっこう派手に光り輝くのだ。
手に取って発動させてみる。
「ホーリーブレイド」
ただでさえ美しいミスリルの刃が、さらに神々しく真っ白に輝いた。
振れば、白い光が尾を引く。
そう。
見た目がよいのだ。
この世界では、どうも白い光が尊ばれているようなので、意外と気に入ってもらえるかも知れない。
「喜んでもらえるといいけど……」
それは渡してみるまでわからない。
私は今のところ、この世界の魔道具のことをほとんど知らないし。
機会があれば、いろいろ見てみたいね。
さあ、次だ。
シルバーインゴットをテーブルに置く。
生成技能『錬金』で分解。
シルバーナゲット10個を生成する。
このナゲット――小さな銀のかたまりがリングの素材だ。
「生成、シルバーリング」
「生成、シルバーリング」
「生成、シルバーリング」
どんどん作っていく。
えっと、何個いるんだっけ。
わからなくなったので10個作った。
「ふう」
一息をついて休憩。
生成や付与には体力を使う。
体力のない精霊さんに大量の作業は厳しい。
まさにエルフの下位互換。
でも精霊さんの見た目は最高に可愛いので、選んだことに悔いはないっ!
ダンジョン町の肉串で栄養補給。
たくさん買っておいてよかった。
「じゃあ、次は付与だねー」
リングにつける付与は決めてある。
「付与、オートガード」
オートガードは、自動的に攻撃を完全防御してくれる優れものの付与だ。
1日に1度だけ発動可能。
リングを取り替えてもリキャストは共通なので連続発動は不可。
優れものではあるのだけど、その条件があるため、ゲームで使われることはほとんどなかった。
だってレイドでは容赦なく後衛にも攻撃が来る。
最初の攻撃を防御したところで意味はほとんどなかった。
でも、死んだらおしまいのリアル世界で、1日に1度、攻撃をなかったことにしてくれるのは大きい。
「付与、オートキュアポイズン」
さらに付与。
ふたつ目なので失敗の確率はあったけど、無事に成功した。
オートキュアポイズンは、オートガードと同じ条件で解毒してくれる付与だ。
リキャストはオートガードと重複しない。
それぞれに使える。
シルバーリングにはこのふたつの付与をつけて贈るつもりだ。
頑張って作った。
まさかの3連続失敗で発狂することもあったけど、どうにか10個の付与シルバーリングを完成させた。
防御と解毒のシルバーリングは、きっとこの世界で価値がある。
あるといいなぁ……。
これでもし、珍しくもないアイテムだったら悲しい。
でも、この世界に来て旅をしたり、いろいろな人と関わってきた経験から考えれば価値はあると思う。
陛下に献上しても大丈夫なくらいに――。
かは、わからないけど。
でも、うん。
大丈夫だと思うっ!
なので、剣と合わせて指輪も、大量生産は無理な逸品ということにしておこう。
制作には、特別なアイテムが必要ってことで。
名前も決める。
「光の剣と精霊の指輪、かな」
うん、いいね。
名は体を表す。
どう考えても大量生産できそうな名前ではないよね。
もしも価値がなかったら……。
名前はなかったってことで。
笑ってごまかそう。
あはは。
お店では、騒動を招きそうなので付与アイテムは売らないつもりだ。
実は貴重じゃなかったら、もちろん売るけど。
でもロックさんとかブリジットさんとか、お世話になった人たちにはプレゼントしたいところだ。
ブリジットさんには、お世話にはなっていないけど……。
でも、うん。
なんか好きになっちゃったから、しょうがないよね。
正直、ブリジットさんの声が聞きたい。
今ごろは、ザニデアのダンジョンに潜って稼いでいるんだろうなあ……。
私も仲間がほしい。
前世では物心ついた頃からユイとエリカとナオと一緒だったし。
死ぬまで4人で頑張ってきた。
1人でいた記憶がほとんどないんだよねえ。
なにをするにも一緒だった。
若くして死んだけど、とても幸せな人生だった気がする。
この世界でまた一緒にやっていくことは、それぞれの立場を考えると、たぶんないのだろうけど。
ユイは愛され聖女だし、エリカは王女だし。
ナオはカメだけど……。
少なくとも私と一緒には来てくれなかった。
それどころか頻繁には来なくていいと言われた……。
嫌われることをしたのかも知れない。
問答無用で斬りかかったからだろうか。
悲しい。
泣ける。
いかんいかんっ!
しんみりしてしまった。
私は完成した品々をアイテム欄に入れて、店の外に出た。
お昼が近い。
午前の内に、おとなりさんへの挨拶をせねば!




