468 得点は!
さあ……。
まずは審査員の得点。
審査員は、リゼス聖国とジルドリア王国から選ばれた大御所芸人の方々だ。
皆、歴戦の猛者。
果たして今のブリジットさんの芸に、どのような評価を付けるのか。
私としても気になるところだ。
なにしろこのクウちゃんさまの目から見ても、評価が難しい。
前半と後半のあまりの格差を、どう見るのか。
緊張の時間が流れ――。
そして――。
「では、どうぞー!」
一斉に得点の書かれたパネルが上がった。
「10点! 10点! 5点! 5点! 10点!」
このような結果だった。
「これは見事に真っ二つです! さあ、では、どなたかに論評をお願いしたいと思うのですが――。では、10点をつけたオドリーナ流舞踊家元! キレイニ・オドリーナさん、お願いします!」
ここはまず、踊りの面から語ってもらおう。
私が指名すると、マイクを受け取ったオドリーナ氏がすっと立ち上がった。
いかにも家元な感じの上品な女性だ。
「人と精霊の絆を感じる見事な踊りでした。私は物心ついた3歳の頃から踊りの世界にいますが、これほどの感動を覚えたのは本当に久しぶりです。まさに10点に相応しい踊りでした」
「ありがとうございましたーっ!」
ここはもう1人いってみよう。
「では次に、5点という厳し目の評価を出した、講談師、6代目シャベーリ・マクリングさんお願いします!」
立ち上がるのは、四角い眼鏡をかけた厳しい顔立ちの男性だ。
「残念ながら構成の失敗ですな。あれでは見ている側は、感動すればいいのか笑えばいいのか、呆れればいいのかわからない」
「ありがとうございましたーっ!」
論評に対する拍手は、両者、どちらも同じくらいに大きかった。
どちらの論評にも共感できるということだろう。
私もそんな感じだ。
ブリジットさんの芸は、本当に素晴らしかった。
踊りには感動した。
後半のギャグも強烈だった。
ただ、うん……。
6代目マクリング氏の酷評は理解できる。
芸は奥が深いね。
難しいところだ。
「さあ、では次に、特別審査員のみなさま、よろしくお願いします!」
ユイにエリカに陛下。
果たして、どんな評価を下すのか。
パネルがあがった。
「これはぁぁぁぁぁ! 高得点です! 高得点が出ましたぁぁぁぁぁぁ!」
ユイ、20点。
エリカ、18点。
陛下、19点。
ユイが最高評価で、エリカと陛下も高得点だ。
観客がざわめく。
ユイの得点は、これまでそれなりに辛口だった。
最高でも17点だった。
そんなユイが満点をつけたのだ。
観客も驚いたようだ。
「では、ここはユイさんにコメントをお願いしましょう!」
「はい。わかりました」
ユイが立ち上がって、マイクを手にする。
「……どう言えばいいのか。
私、思ったんです。
うおだけに、魚。
うん、とてもいいと思います。
でも、ぎょっ!って驚くのもありなんじゃないかなーと思いました。
ついでに、お金をためてみたりとか」
え。
それってまさか。
お金をためる、すなわち、ちょきん。
そして、ぎょ。
それはつまり、前世に存在した……。
ユイ、まさか……。
こんな大勢の前で前世ネタを披露しちゃう気なのですか……!
マズイ……。
ことは別にないけど……。
別に披露したっていいとは思うけど……。
誰にもわからないよ、きっと?
下手すると、私とエリカだけ笑っちゃうよ?
ユイが天を仰ぐ。
そして、言った。
「ぎょーさん、ぎょーさん」
たくさん、たくさん。
ですね。
そっちでしたか。
「というわけで、20点です」
にっこり笑って、ユイはマイクを置いた。
…………。
……。
なんの論評にもなっていないのは、きっと気のせいだろう。
だって会場は割れんばかりの拍手だ。
ぶっちゃけ、アレだよね。
なんでもいいからユイがしゃべれば、みんな感動するね。
「さあ、では!
改めてみなさん、ご注目を!
これより!
最高審査員マリーエ様に評価をいただきたいと思います!
果たしてマリーエ様は動くのか!
世界の審判は下されるのか!
お願いします!
マリーエ様、どうぞー!」
さあ。
どうだろうか。
マリエは今のところ、沈黙を続けている。
1点も出していない。
最高審査員として貫禄たっぷりな、なかなかの演出ぶりだ。
会場の視線がマリエに集まる。
さあ……。
来るか……。
来ないか……。
私は息を呑み、しばしの時を待った。
打ち合わせはしていない。
すべてはマリエの判断だ。
マリエは動かなかった。
「動かず! 今回も最高審査員は動きませんでしたぁぁぁぁぁ!」
ブリジットさんの得点は定まった。
97点!
素晴らしかったです。
とても心に残りました。
これにて前半戦は終了となった。
聖歌隊の合唱を挟んで、次は後半戦だ。




