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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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467 水の舞





 こんにちは、クウちゃんさまです。


 私は今、平和の英雄決定戦で司会者をしています。

 大会は盛り上がっています。

 参加者の芸が披露される度、会場の温度が上がっていきます。

 芸は多彩です。

 コントにかくし芸。

 皿回しのような伝統芸能も披露されました。

 どれも素晴らしいものでした。

 さすがは、大陸全土から集まって予選を勝ち抜いた人たちです。

 私も主催した甲斐があるというものです。


 そして。


 遂に。


 その時が来たっ!


 いよいよ次は、前半戦のラスト!


 15番!


 ブリジットさんの番だ!


 さあ、果たして、どんな形で笑わせに来るのか。

 しゃべってよし、リアクションしてよし。

 一発芸も軽々とこなしてしまう変幻自在のブリジットさんだけに、まったく想像がつかない。


「さあ! 次はいよいよ前半戦のラスト! ブリジットさんでーす!」


 私は元気に紹介する。


 ブリジットさんが脇の物陰からステージに上がる。


 え。


 私は一瞬、自分の目を疑った。


 誰かと思ったのだ。


 ゆっくりした足取りで歩いてきたブリジットさんは、いつもとちがうストレートの髪型だった。

 私の知っているブリジットさんといえば、フードですっぽりと頭を覆っているかエプロン姿にツインテールだ。

 今日のブリジットさんはどちらでもない。


 服装は、貫頭衣。

 麻布を腰のロープでしばってまとただけの実にシンプルな装いだった。

 腕はノースリーブで、腰から下は膝丈。

 靴は履いていない。

 素足での登場だ。

 装飾品はなにも身に着けていない。

 化粧もしていない。

 まあ、ブリジットさんはいつもすっぴんだけど。

 実に素朴というか自然派というか、清楚ないでたちだ。

 古代人のコスプレにも見える。

 一体、その格好でなにをするんだろう。

 想像できない。

 さすがはブリジットさんだ。


 ブリジットさんがステージの中央に立った。


 観客に向けて、ぺこりと一礼する。


「15番、ブリジット。水の舞を披露します」


 ほほう……。


 ブリジットさんとは何度か芸を披露し合ったことがあるけど、今までに聞いたことのないタイトルだ。


 新作なのか、あるいはとっておきなのか。


 ワクワクしてきた。


 ブリジットさんが自然体に立つ。


 その姿勢から、空中にいるなにかをつかむように腕を伸ばした。


 開いていた手を閉じる。


 すると、その手の中から水が弾けた。


 ぱしゅん。


 と、心地よい音と共に、水しぶきが広がる。

 小さな虹が生まれた。


 その手を横に広げながら、ブリジットさんがくるりと一回転する。

 手から水が伸びて、まるでリボンのように舞った。

 水が波打つ度、しゃん、しゃん、と、水のこすれるような音色が響いていく。


 一回転した後――。

 今度はもう片方の手で反対周りに同じことをする。


 水が弾けて、虹が生まれて。

 水が流れて、音色が響く。


 回りおわったところで、今度は両腕を空に向かって掲げた。

 あわせて、両腕から水が広がる。

 広がった水が形を成す。


 おおおおおお……!


 観客がどよめく。


 空中に現れたのは、まるで水の精霊――。

 美しい女性のシルエットをした水のかたまりだった。


 空中に現れた水の精霊が、ブリジットさんの前に着地する。

 2人で一礼。

 そして、手を取り合って踊り始めた。


 踊りに合わせて、心地よい水の音と水しぶき、そして虹が広がる。


 幻想的で、陽気な踊りだった。


 自然と観客が手拍子を始める。


 私も手を叩いていた。


 現れた水の精霊は、あくまでブリジットさんが魔術で作り出したものだ。

 だけど、まるで本当の精霊に見えた。

 だって、水の音を奏でて、楽しそうに踊っている。


 手を取り合う2人の姿は、人間と精霊の絆そのもののようだ。

 精霊が帰ってきた世界を、現している。

 ブリジットさんが素朴な衣装に身を包んだのは、まさに自然と一体化するための表現だったのだ。


 素晴らしい。


 観客の中には涙ぐむ人もいる。


 私もなんだか、泣けてきた。


 ああ、でも……。


 素晴らしい時間は、永遠には続かない。


 やがて――。


 踊りは止まった。


 おわりの時が来たのだ。


 あとはブリジットさんが一礼すれば――。

 万雷の拍手と共に――。


 と思ったら。

 ブリジットさんがしゃべりはじめた。


 最後の挨拶かな?


「うお。うお。うおおおおお……」


 なんだろ。


 なんか、うめき始めた?


「うお! うお! うお! うお! うおおおおおおおおおお!」


 さらには、機関車みたいに手を回し始めた!


 そして!


 回していた手をおもむろに斜め上へと突き伸ばし――!

 体をやや横向きにそらして、素晴らしい身体能力で、空高くジャンプ!


 あわせて水の精霊も飛んだ。

 いや、魚の姿に変わっているぞこれは魚のジャンプだ!


 そして!


 空中でブリジットさんは叫んだ!


「フィィィィィィィッシュ!」


 と。


 華麗に着地!


 魚に変わった水の精霊は、頭から床に飛び込むように消えていった。


 きらきらと輝いて、一面に水しぶきが広がる。

 弾けて消える魔術の水しぶきだ。

 審査員や観客を濡らすことはない。

 ごく自然に、とても繊細で難易度の高い操作が行われている。


 流石だ。


 着地して姿勢を正した後、ブリジットさんは言った。


「うおだけに、フィッシュ。

 まさに、水入らず。

 って、水あったやん!

 水まみれやったやん!

 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

 さかな!」


 最後に魚のポーズを決めて――。


 おわりのようだ。


 一礼して、ブリジットさんはステージの脇に消えていった。


 会場は静まり返っている。


 うん……。


 わかる。


 だよね。


 だけど私は司会者。


 わかってばかりはいられない!


「というわけで、ブリジットさんでした。

 まずは審査員のみなさん、得点をお願いしまーす!」






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