466 閑話・審判者マリーエは楽しむ
どうして私、こんなところにいるんでしょう。
消えたいです。
いえ、半分、消えてはいるんですけど。
私、マリエは今、聖国で始まった一大イベント「平和の英雄決定戦」のステージの上にいます。
しかも、最高審査員として。
何故か、ユイさんやエリカさんや皇帝陛下よりも上座にいます。
おかしいですよね!
おかしすぎて、頭の中はずっと真っ白です!
砂漠よりもひどい状態です!
砂嵐すら吹きません!
おかげで逆に冷静です!
……はい。
幸いにも魔法で姿を誤魔化してもらっているので、私が私だと気づかれることはないようなのが救いです。
でもクウちゃんには、思いっきりマリーエと紹介されましたけど。
私、マリエです。
マリーエって、一文字どころか「ー」を加えただけですよね。
ほとんど変わってないですよね。
もっと別の名前にしてくれてもよかったと思うんですけど、クウちゃん的にそのあたりはどうだったんでしょうか。
もう今さらですけど。
とにかく私は、じっとしていましょう。
なんか100万ポイントとか与えられちゃいましたけど、私ごとき空気が審査なんてとんでもない話です。
でもこれについては私、すぐさま、対策を思いついたのです。
私、こういう処世術は得意です。
そう!
100万ポイントだろうが10万ポイントだろうが。
みんな、同じだけ入れちゃえばいいんです!
そうすれば私は空気!
審査に参加しつつも、審査に参加しないで済むんです!
みんな満点!
そうしておけば、どこにも角は立ちません。
我ながら完璧です。
気楽な気持ちで楽しみましょう。
そう!
消えたくなっている場合ではないよ、私!
私は楽しむために来たのです!
こんな一生に一度のこと、楽しまなきゃ損ですよね!
もう二度とはないことなんだからっ!
たった一度のことなんだからっ!
と思ったのだけど……。
よく考えてみれば、私の満点って100万点!
うそっ、私の得点、多すぎ……?
それって、ユイさんやエリカさんや皇帝陛下の何倍なんでしょうか。
……マズイです。
お三方より高得点をつけるなんて、許されません!
いえ、それどころか、私ごとき路傍の小石が、プロの先生方より高得点をつけるだけでもきっと極刑です!
なら、いっそ、みんな1点に……。
それなら角、立ちませんよね……。
でもそれだと、参加者の人たちに恨まれそうです……。
角、立ちまくりです。
どうすればぁぁぁぁぁぁぁ!
ああああああ!
悩んでいる内、いつの間にか最初の参加者の芸がおわっていました。
会場が拍手に包まれます。
私、まったく見ていませんでした……。
どうしましょう。
やっぱり1点……つけちゃいましょうか……。
「さあ! 得点をどうぞー! 7点、8点、9点、9点、7点! 12点、14点、15点! さあ、残るはマリーエ様だけですが――」
様って誰のことですか、クウちゃん?
なんで私、いつの間にか様付けされているんですか?
「マリーエ様は見学! 見学です! 審判者、動かず!」
あ、それ、いいんだ?
私、もしかして、見学オーケー?
私がなにもしないでいる内、得点は決まりました。
私、安心しました。
見学でいいなら先に言ってほしかったです。
よーし。
芸大会、楽しんじゃうぞー!
お。
次の人が来ました!
なんだか元気のないお兄さんですね……。
どんな芸をするんだろう……。
ギターを手にしているので、演奏家さんでしょうか。
「2番、ゼットファイター・ニト。残念トークをします」
へー。
おしゃべり芸なんですね。
ギターをリズムよく鳴らしてから、ニトさんが言います。
「ボク、影が薄いってよく言われるんですが、ちがうんです。だってボク、幽霊ですから……。実体ないですからぁぁぁぁ!」
えええええええええ!
会場は笑いに包まれましたけど!
幽霊って!
大変なことじゃないですか!
今、昼間ですよ!
太陽、思いっきり出てますよ青空ですよ!?
おひさまパワー全開ですよ!
クウちゃんもユイさんも笑っていないで!
2人なら浄化してあげられますよね、ターンアンデッド!
してあげてくださいよ!
「ボク、お化け屋敷で、井戸のお化けをしているんですけど……。3日間、寝過ごしても……。誰も気づいてくれませんでしたぁぁぁぁ!」
オバケ屋敷ぃぃぃ!?
そんなものがあるんですか聖国にはぁぁぁぁぁ!?
ていうか、お化けって寝るんですか死んでるんですよねぇぇぇぇぇ!?
「ボク、最近、ゾンビをライバル視してます」
ウケているけど!
なんかドッと会場が沸いてるけど!
そもそもゾンビが発生していたら大問題ですよね!?
…………。
……。
そんな感じで、ニトさんの自虐的なボク幽霊芸は続きました。
そして、最後、言われました。
「ボク、審判者様が100万点くれたら……。
今度こそ、天に還れる気がするんだ……。
ボクの願いは、天に還ることなんだ……」
審判者とは、私ですよね。
たぶん。
うん。
だってニトさんの目、私に向いてますし。
…………。
……。
いやそんなことしなくたって、ですね!
クウちゃん!
ユイさん!
天に還してあげてくださいよ!
私には無理ですけど!
2人には!
楽勝ですよね確実に!
「さあ、得点のお時間です! 審査員のみなさま、おねがいしまーす!」
クウちゃんが陽気な声をあげます。
得点が掲げられていきます。
高得点です。
おめでとうございます。
きっと天に還れますよね、これなら。
「さあ! 審判者マリーエ様はいかに!」
え。
私?
私はいいよ、クウちゃん。
見学者マリエです。
審判者マリーエ様とは誰なんでしょうね。
「残念! 審判者マリーエ様は見学! またも見学でしたぁぁぁぁ!」
「……ちっ」
え、あれ。
今、幽霊さんから舌打ちが聞こえたような……。
ステージから降りていく幽霊さんの足元に影があるような……。
…………。
……。
まあ、いいです!
私は見学していますから!
楽しんじゃいますから!




