464 平和の英雄決定戦、特別審査員紹介
プロの人たちの自己紹介は、とてもとても真面目に終わった。
とてとてだ。
いきなり裸になったり、私やユイに絡んでくる人はいなかった。
芸もギャグも出なかった。
むしろ、ピリピリとした空気すら感じた。
みんな真顔で、誠心誠意、一生懸命、精霊様に捧げるこの記念すべき大会の審査に挑むことを誓った。
観客のみなさんは拍手で応えた。
ふむ。
もっと気楽でテキトーな催しでよかったんだけど、なんというか、かなり真面目な芸大会の雰囲気だ。
まあ、でも、審査員は真面目な方がいいのか。
ここは私が盛り上げていこう!
「さあ、続きましては! 特別審査員のご紹介です!」
私はとなりに立っていたユイに両手を向けた。
「まずは、みなさんご存知! 光の大精霊の契約者にして、このリゼス聖国が誇る世界に選ばれし聖女! ユイさんでーす!」
わーっ!
ってなるかと思ったけど、観客のみなさんは無反応だった。
なぜだ。
私は小声でユイにささやいた。
「……ユイ。面白いこと言って」
「……え? ここで? 今?」
「……うん。盛り上げて。会場の空気を熱くして」
「……いきなり言われてもぉ」
「……じゃあ、アレでいいから。前のバーガー屋の小話。あれやって」
あれは面白かった。
前世ネタも入っているけど、それを抜きにしてもウケるはずだ。
「……恥ずかしいよぉ」
「……お願い。ね?」
まさか陛下にお願いするわけにはいかない。
ここはユイしかいないのだ。
「……うう。わかったよぉ」
気を取り直すように咳払いして、ユイが一歩、前に出る。
会場は静まり返っている。
子供ですら騒いでいない。
「これからみなさんに、ひとつのお話をさせていただきます。
これは、聖国の辺境――開拓村で実際にあった話です」
ユイの話が始まる。
主義主張の違いから袂を分かった2人のハンバーガー職人の元に、1人の食通が来る話だ。
このバーガーを作ったのは、誰だァァァァァァァ!。
……このバーガーは出来損ないだ。食べられないよ。
という某食通漫画に出てきたような展開を経て、2人が和解する話だ。
「――めでたしめでたし」
話がおわって、ユイは一礼する。
万雷の拍手が起きた。
ユイはそのまま特別審査員の席に座る。
うむ。
笑いの渦とは違うけど、会場が温まったことは確かだ。
助かったよ、ユイ。
ありがとう!
さあ、次は陛下の番だ。
というところで、ステージの隅にいたエリカと視線が合った。
あぶな、エリカのことを忘れていた。
エリカも特別審査員としてステージに上がるんだった。
「さあ、次の特別審査員にご登場いただきましょう! 本日はジルドリア王国より来てくれました! 王国の薔薇姫こと、エリカさんでーす!」
わーっ!
私が拍手すると、観客のみなさんも拍手してくれた。
わーっという歓声はないけど。
それは私の脳内イメージです。
真紅のドレスに身を包んだエリカが、優雅な足取りで私の横に来た。
そして、堂々と語る。
「聖国の皆さん、こんにちは。今日はわたくしたちにとって素晴らしい日です。こうして今、千年の月日を超えて、再び精霊さんが、この世界に遊びに来てくれているのですから。精霊さんは陽気で楽しいことが大好きです。みなさんも今日は思う存分に楽しんでくださいませ。わたくしも今日は、わたくしの大切な友人であるユイリアと共に、思い切り楽しませてもらいますの」
わーっ!
おお。
ついに歓声と共に拍手が起きた!
エリカへの黄色い声も飛ぶ!
エリカ、やりますね!
会場の反応を受けて、エリカがドヤ顔で特別審査員席についた。
エリカって、帝国での人気はさっぱりだけど……。
山脈を越えた東側では人気あるんだね……。
自国での人気は捏造できるとしても、他国ではさすがに無理だよね……。
私、正直……。
エリカは空回りばかりの可哀想な子だと思っていたけど……。
今度、訂正して謝ろう。
まあ、今は司会だ。
「さあ、特別審査員、最後の3人目を紹介させていただこうと思います! リゼス聖国、ジルドリア王国と来て、次はどこかなー?」
私は観客に振ってみた。
しかし返事はなかった!
ぐすん。
「そのヒトは、この度、わざわざこの大会のために、というわけではなくて、むしろ明日のオマケなんですけれども! それでもわざわざ、はじめて、この聖国に来てくれたヒトなのです!」
私はもったいぶった。
「誰かなー? わかるかなー?」
もう一度振ってみる。
反応はない。
ぐすん。
まあ、仕方ないか。
「では!
ステージにあがっていただく前に!
あらかじめ、私の方から紹介させていただきまーす!
そのヒトとは!
今回、はじめて聖国を訪れた!
バスティール帝国皇帝!
ハイセル・エルド・グレイア・バスティール陛下!
そのヒトなのでありまーす!」
私は言い切った。
威勢よく言い切った。
さあ。
どうかな。
ふふ。
特別審査員のことは、なにも知らされていなかったはずだ。
予想通りに会場がざわめく。
さすがに静かにはしていられなかったようだ。
勝ったぁぁぁぁぁ!
はっはっはー!
驚かせたのなら、私の勝ちだよね!
まあ、うん。
王国聖国と帝国は、つい何ヶ月か前まで険悪だったしね。
戦争の噂もあったくらいだし。
まさかと思うのは、当然の反応だろう。
ユイとエリカが先に帝国に来ているとは言っても、それはあくまで個人的にお茶会に参加するためだ。
公の場で姿を見せたわけではない。
さあ、陛下、見せ場ですよぉぉぉぉぉぉぉぉ!
「それではご登場いただきましょう! どうぞぉぉぉぉぉぉ!」
ユイがしゃべったバーガー屋の小話は、
「297 審判者マリエ(マリエ視点)」にあります。
よかったら読み返してみてください\(^o^)/




