459 ミハエル・ボンバー・シャルレーン
私が不思議そうな顔をしていると、ボンバーが自ら名乗った。
「マイエンジェルには名乗っていませんでしたね。私、本名はミハエル・ボンバー・シャルレーンと言います」
「ボンバーは余計でしょ。ミハエル・シャルレーン」
すかさずお姉さんがツッコム。
「なにを言いますか、姉上。ボンバーは私の魂のミドルネームですぞ」
「ちなみにお姉さんのお名前は? あ、私、クウといいます」
クウちゃんでいいですよ。
お姉さんは、シャルロッテというそうだ。
シャルと呼んでいいらしい。
「ねえ、ボンバー。もしかしてボンバーっていいとこのボンボン?」
「いえ。普通の木材屋の倅ですぞ」
「それにしては豪華な名前と名字だよね?」
しかも姉上とか。
たずねると、お姉さんことシャルさんが教えてくれた。
「おじいちゃんが大の演劇好きでね。お金を払ってわざわざ変えたのよ。当時大人気だった主人公の名字に。私とミハエルの名前もおじいちゃんが付けてね。ミハエルはおじいちゃん子だったから色々と影響されて、今では、なんだかよくわからないこんな感じになったわけ」
「なるほど」
「こんな感じとは失礼ですぞ、姉上。私は立派に育ちましたぞ」
ボンバーがマッスルポーズを決める。
まあ、うん。
立派に育ったことは確かだね。
「ていうか、ボンバー。あんた、顔は広いんだからさ、冒険者のお客くらい連れてきてあげなよ」
「あ、クウちゃん。私、そういうのはいいから」
すぐさまシャルさんが拒否する。
「手伝おうとすると姉上は怒るのです。困ったものです」
「……で、ミハエル。なんの用なの?」
「はい。実は私、冒険者として依頼を受け、明日から聖国に向かう商隊の護衛をすることになって、しばらく来れないのです」
ボンバーたちが聖国へ向かうことは、私は知っていた。
装備の手入れをしたからね。
「それで、これを」
ボンバーが懐から取り出すのは――。
じゃらり。
お金の音がする革袋だ。
それなりに入っている。
「母上と私から当面のお小遣いです。無駄遣いしないようにしてくださいよ」
「わーい!
チャリチャリだー!
私、チャリチャリだーいすきー!
ありがと――」
笑顔で受け取ろうとして……。
「……う」
シャルさんが、そばにいた私の存在に気づいた。
目が合う。
「ち、ちちち、ちがうの! これはアレよ! 私がミハエルにあげたお小遣いなの今回はただの返却なのっ!」
「いえ、あの……。べつに私は気にしないのでいいですよ」
ただの一見の客ですし。
「……そ、そうだよね」
シャルさん、意地を張るかと思いきや、あっさり受け取った。
「姉上は、いい加減に家に帰ったほうがいいと思いますよ。父上はともかく母上が心配しています」
「いいの私は! ここでバーガー屋をやるって決めたんだから! ほらもう、お客さんもいるんだし帰って!」
「私、もう食べ終えたので帰りますよ」
お邪魔のようですし。
「まだデザートがあります!」
あるんだ?
シャルさんがボンバーの背中を押して、店から追い出す。
その後で「ふう」と息をついた。
ボンバーはしつこくせず、そのまま帰ったようだ。
ふむ。
気のせいか、ボンバーが大人に見えたね。
お店に沈黙が降りた。
…………。
……。
「えっと、シャルさん、デザートは?」
「え?」
あ、ないのね。
じゃあ、帰ろうかな、と、思ったのだけど。
うーん。
放っておくこともできないか。
「あの、よかったら、うちのお店で宣伝しましょうか? ボンバーのヤツを見返してやりましょう?」
チャリチャリをもらっておいて見返すもなにもない気はするけど、とりあえず私はそう提案してみた。
「クウちゃん、お店やってるんだ?」
「はい。エメラルドストリートのふわふわ工房です」
私も聖国には行くけど、半月くらいは宣伝できる。
移動は魔法なので。
「って、えええ!? それって今話題の、精霊ちゃんぬいぐるみの!?」
「はい。そうです。あと、ハンバーガー屋ってすぐにわかる、可愛い感じの立て看板も作りましょうか?」
「……そんなの作れるんだ?」
「はい。工房なので」
「ちなみに、おいくらなんでしょうか……」
「んー。そうですね……。初回サービスで銀貨1枚でいいですよー」
「ぜひお願いします!」
迷うことなくジャンピング土下座された!
私以外でやる人、初めて見たよ!
ようやく私、陛下の気持ちがよくわかりました。
いきなりこんなことされると本気で困るね……。
これは、うん。
今度、謝罪のジャンピング土下座を、またせねばだね……。




