457 バーガー2番。
大通りから外れた人通りの少ない路地にそのお店はあった。
小さな店舗だ。
古びた看板にはこう書かれている。
手作りバーガーショップ。
バーガー2番。
真っ先に私が思ったのは、一番じゃないんだね……ということだ。
まあ、うん。
心では一番なんだけど、謙遜しているだけかも知れないけど。
ともかく、バーガーだ。
バーガーは私の中で、最近、それなりに熱い。
大祭がおわって生活が落ち着いたら、バーガーの総本山っぽい気がするドワーフの里に行こうかと思っているくらいだ。
窓から店内を覗いてみる。
店内は薄暗い。
でも、小さな照明は灯っていた。
お客さんはいないようだけど、営業はしているっぽい。
今はお昼時。
姫様ドッグは大賑わいだった。
ふむ。
とはいえ、お客さんがいないから不味いとは限らない。
立地や建物の問題もある。
バーガー2番があるのは人通りの少ない路地だ。
しかも古びた雑居ビルの一階。
一階というだけよいのだろうけど、立ち止まって看板を見なければバーガー屋だとわからない。
わかっても店内が暗いから、やっているのかわからない。
実際、通り過ぎる人たちは完全スルーしている。
私が見つけたのも本当に偶然だ。
これは、アレだ。
せっかくの絶品なのに、世に知られていない可能性があるね。
と、なれば。
うむ。
発掘するのも、このバーガーハンター、クウちゃんさまの使命だろう。
そう。
たった今、私はバーガーハンターとなった!
未知なる美味のバーガーを見つけ、世に広めるのだ!
それがバーガーハンター!
それが私!
というわけで、今日の昼食は決まった。
手作りバーガーショップ、バーガー2番だ!
私はドアを開けた。
からんからん。
ドアチャイムが心地よい音色を奏でる。
薄暗い店内に入った。
店内には、ひび割れた木のテーブルが4つ置いてある。
当然ながら椅子も置かれている。
そのうちのひとつの席についた。
しばし、待つ。
カウンターの奥は無人だ。
テーブルにはなにも置かれていない。
メニューは、カウンターの上に張り出されていた。
可愛らしい手書き文字だ。
メニューはとてもシンプルだった。
ハンバーガー。
そして。
ジュース。
シンプルすぎて、ちょっと怖くなるくらいだ。
まあ、でも、迷う必要がないからいいか。
なにはともかく、ハンバーガーをひとつ、注文してみよう。
と思うこと3分。
店員さんの出てくる様子はない。
休日だったかな?
「すいませーん!」
呼びかけても返事がない。
ダメか。
残念だけど、他の店にしようかな。
と思ったところで、私が入ってきた外に繋がるドアが開いた。
からんからん。
入ってきたのは姫様ドッグの入った紙袋を手に持った女性だ。
年齢は20代半ばくらいだろうか。
清楚な感じのお姉さんだ。
胸にはエプロンをかけて、頭には三角巾を巻いている。
目が合った。
「あのー」
店員さんですか?
と、聞こうとしたところ……。
「ご、ごごご……」
お姉さんがなにか言い始めたので、待つことにした。
ご。
なんだろか。
「強盗さん?」
でした。
「いや、あの……。お客さんですけど……」
「うち、バーガー屋ですよ?」
「はい」
バーガーを食べに来ました。
「あのー。お姉さんは、ここの店員さんなんですか?」
「はい……。というか店長ですけど……」
「ふむ」
「なんでしょうか……?」
「どうして、姫様ドッグなんて持ってるんですか?」
「これは昼食にしようかと」
「ダメですよね?」
「え?」
「いや、ダメですよね!? なんでバーガー屋なのに姫様ドッグなんて買ってるんですかライバルですよね明らかに!」
「だって美味しいから……」
「だぁぁぁぁぁ! そういう問題じゃないでしょぉぉぉぉ!」
「あと、安いし……」
なんなんだこのお姉さんはぁぁぁ!
バーガー屋!
バーガー屋なのに、姫様ドッグを買ってきて昼食だとぉぉぉぉぉ!
たしかに安くて美味しいけどぉぉぉぉ!
…………。
……。
いかん、落ち着け、私。
こほん。
「とにかく、ひとつください」
私は気を取り直して言った。
すると……。
「うーん。じゃあ、ひとつだけだよ?」
と、お姉さんが渋々ながらも姫様ドッグをくれた。
あ、どうも。
ぱくり。
うん。
いつも通りに美味しいね。
…………。
……。
「じゃ、なーい!」
「あれ、不味かった?」
「美味しかったですけど! 美味しかったですけどー! 私がいただきたいのはここのハンバーガー! ハンバーガーをひとつ所望します!」
「え?」
姫様ドッグを食べていたお姉さんの動きが止まった。
「今、なんて?」
まばたきして、お姉さんが聞き返してくる。
「ハンバーガーをひとつ。セットメニューがあるなら、セットでお願いします」
私はできるだけにこやかに言った。
「……まさか。お客様ですか?」
「はい。そうですけど」
「ホントに? うち、かれこれ半月は開店休業中なんですけど」
「それはそれですごいですね」
「ほんとーに、お客様?」
「はい。ハンバーガーのセットをください」
「うちで? ハンバーガーを食べたいっていう話なの?」
「はい。ハンバーガーのセットをください」
沈黙が流れた。
外を歩く人達の笑い声が、聞こえる。
「あのー」
お姉さん?
「はっ! いけないっ! あまりの出来事に気を失いかけた! すぐに準備するのでしばらくお待ちくださーい!」
食べかけの姫様ドッグを口の中に突っ込んで――。
お姉さんはお店の奥に走っていった。
と、盛大に転んだ。
「大丈夫!?」
あわてて駆け寄って、助け起こす。
鼻血が出ていたので、こっそりとヒールをして治してあげる。
「いたた……。あれ? 痛いけど、平気? 不思議だね?」
「そうですねー」
「いやむしろ! 力がみなぎってきたぁぁぁ! これはきっと、アレよね! 精霊様が私に、バーガーを作れと言っている! よーし! お姉さん、久しぶりにお客さん用のバーガーを作っちゃうぞぉぉぉ!」
「ねえ、お姉さん。作るの、近くで見ててもいい?」
「興味あるんだ?」
「うん」
「いいよ! プロの腕前、見せてあげる!」
一抹の不安はあるけど、これはこれで楽しくなってきた。
なかなかに素敵なお姉さんだ。
果たして、どんなバーガーが出来上がるのか。
横で拝見させてもらおう。




