455 最高のモーニング
「おはよう、エミリーちゃん」
「おはよう、クウちゃん」
朝。
腰にひっついて寝ていたエミリーちゃんと一緒に起きて、あれやこれやの支度をした後でお店のテーブルに着いた。
こほん。
一息をついてから、私は語る。
「さて、エミリーちゃん。いよいよ集大成です。これより我々は、最高のモーニングに挑もうと思います」
「これで一日の最高メニューが完成だねっ!」
「なのです。ここに至る道程は大変でしたが――。いよいよなのです」
実に感慨深いことだ。
「ねえ、クウちゃん。今回は、どんな集団にするの? 昼は軍隊、夜は冒険者パーティーだったけど」
「その前に大切なことを伝えます」
「はい……」
エミリーちゃんが姿勢を整え、緊張の表情を浮かべた。
「今回は、必ず食べられる量で行こう」
「うん。そうだよね。残すのはよくないよね」
「なのです。それは、とてもとても罪深いことなのです」
とてとてなのだ。
「ちなみにエミリーちゃんは、いつもはどんな朝食を取っているの?」
「芋が多いかなぁ。蒸したお芋。あ、でも、帝都に来てからは、パンとスープのこともあるよ! あと、たまにフルーツも! すごいよね、帝都! なんでも普通に売ってるんだから!」
「だねー」
「クウちゃんは、いつもはどんな朝食なの?」
「私もパンとスープかなー」
朝はシンプルなことが多い。
「じゃあ、最高のモーニングもパンとスープかな?」
ふむ。
そこは悩みどころだ。
たしかに、それが無難だろう。
しかし、面白みがない。
最高とは、すなわち、特別。
いつもの、よりは、たまのごちそう、で、あるべきだろう。
しかし、果たして、本当にそうなのだろうか。
最高だからこそ、いつもの幸せ、で、あるべきなのかも知れない。
考えてみれば、昼はラーメンだった。
夜はタコ焼きだった。
どちらも、いつもの幸せ、だ。
いや、ちがうか。
ここは異世界。
どちらも、ここでは、たまのごちそう、だ。
いや、ちがうか。
べつに元の世界でも、ラーメンとタコ焼きは、たまのごちそうだ。
いや、まて。
ラーメンといっても種類はある。
即席麺やカップラーメンは、いつもの幸せだ。
しかし、外で食べるチャーシューメンは、明らかにたまのごちそう。
こ、これは……。
「うううううううう。ああああああぁぁぁああ」
「クウちゃん!? どうしたの!? ヒオリちゃん呼んでこようか!?」
「……う、ううん。いいの。大丈夫」
私は頭を振って、湧き上がった矛盾をいったんは排出した。
「ちなみにエミリーちゃんは、今、なにが食べたい?」
「私?」
「うん。素直な気持ちで」
「……うーん。そうだなぁ。わたしね、クウちゃんと同じのが食べたい」
「私?」
今度は私がたずねた。
「うん。クウちゃんと同じのがいい」
「そかー」
私の食べたいものかぁ。
「ていうと、そうだなぁ……。うーん。たとえば、おにぎりとか……」
「おにぎり?」
「お米を固めて、中に具材を入れて、海苔で巻いたものだよー」
「じゃあ、私もそれがいいっ!」
「ならおにぎりにしよっか」
「やったー!」
作るのは簡単だ。
お米と海苔と塩と具材を準備して、生成するだけ――というのは味気ないので自分で握ろうかな。
ともかく。
問題は具材をどうするか……。
「うーむ」
「どうしたの、クウちゃん」
「うん。おにぎりに入れる具材をどうしようかと思ってね。最高なんだから特別なものがいいんだけど」
「普段はどんなものが入っているの?」
「そうだねえ……。私的には、酸っぱいものか塩っぽいものかなぁ……」
私はおにぎりと言えば、梅干しと塩昆布が定番だ。
「そかー」
2人で考える。
「とりあえず、おにぎりは2つにしようか。今回は、コンビで」
「コンビ! わたしとクウちゃんの?」
「うん。そう。最高のモーニングは、私たちのコンビでいこう!」
「やったー!」
「あ、そうだ。なら、お互いにひとつずつ決めよう」
「わかった! 考えるね! 酸っぱいものと塩っぽいものだよね?」
「ううん。せっかくだし、別のものでもいいよー。今回は、いつものというより特別なものだし」
「わかった! じゃあ、別のものにするね!」
うーむ。
私もその路線で考えてみるか。
酸っぱくなくて、塩っぽくもないもの。
か……。
まあ、いろいろあるよね……。
ただ、「これは!」というものを選ぼうとすると……。
意外と難しい。
「クウちゃん、わたし、決めたよ。わたし、辛いものがいい。姫様ドッグのスパイスなんてどうかな?」
「おお。いいかも。なら私は甘い物にするか! 姫様ロールのシロップ!」
姫様ドッグと姫様ロールは帝都の大切な味。
最高のモーニングに組み込む素材として、不足はまったくない。
むしろ最適と言える。
早速、作ってみよう。
まずはキッチンに移動する。
ご飯は調理技能で生成。
その後、ご飯、海苔、塩、スパイス、シロップを並べた。
おっと。
ニギニギしやすいように、水を入れたボールも置かねば。
スパイスは本当に激辛だ。
ツーン、と、鼻に来る。
シロップは本当に激甘だ。
見ているだけで、口の中が甘くなってくる。
これでおにぎりを作れば、最高の味のコントラストになることは請け合いだ。
しかも、大切な帝都の味。
まさに、最高のモーニング!
…………。
……。
いや、待て、私……。
本当に、本当にそうなのか……?
本当に、激辛スパイスと激甘シロップで最高のおにぎりが出来るのか……?
想像してみよう。
その味を。
…………。
……。
ふむ。
「ごめん、エミリーちゃん。私は気づいたよ。やっぱりね、定番は最高だからこその定番だと思うんだ」
「そうなんだ?」
「うん。だから、これにしよう。私の定番。すなわち、最高の具材」
私はアイテム欄から、ユイに貰った梅干しと塩昆布を取り出した。
梅干しを初めて見たエミリーちゃんが、これは本当に食べ物なのかと心配した顔を私に向けてくるけど。
任せて!
大丈夫!
酸っぱいけどね!
なんと言っても、安心と実績の定番アイテムだからっ!
ニギニギ。
完成。
コンビ:梅干しおにぎり。
コンビ:塩昆布おにぎり。
あと、お茶。
「クウちゃん、ヒオリちゃんの分も作らないと」
「あ、そうだね」
ヒオリさんはたくさん食べるから、たくさん作ってあげた。
完成したところでヒオリさんが降りてくる。
朝の挨拶もそこそこに、ヒオリさんの興味はおにぎりに向かった。
「今朝はおにぎりですか。美味しそうですね」
「いっぱいあるから、いっぱい食べてねー! 最高のモーニングだよー!」
「ありがとうございます! もちろん、いただきます!」
ヒオリさんも席についた。
みんなで一緒に、いただきまーす!
最高のモーニング。
最高の朝。
私、幸せ者だねー。
ぱく。
うん、おいしいっ!
やっぱりこれだね!
最後は定番で。
クウとエミリーが考える最高の1日メニュー、堂々完成。
やったぜ\(^o^)/




