454 最高のディナー
「さあ、エミリーちゃん。今度こそ勝とう」
「うん。わたし、やるよ!」
最高のランチに挑んだ数日後、エミリーちゃんが再びお店に来た。
今夜はお泊まりだ。
というわけで、リベンジ。
最高のディナーを作ろうということになった。
「ねえ、クウちゃん。わたしね、前回は軍隊にしたから失敗したと思うの」
「なるほど。そうかも知れないね」
軍隊は規模が大きすぎた。
とてもじゃないけど、私たちに食べ切れる量ではなかった。
「とすると……」
私は腕組みして考える。
なにがいいのか。
規模としては、冒険者パーティーくらいだろうか。
「たとえばエミリーちゃんは、今まででに食べた中だと、最高のディナーってどんなのだった?」
「うーんとぉ……。わたしは……。そうだなぁ……」
しばらく考えてからエミリーちゃんは答える。
「わたし、あれが最高だった! 夏の旅行の時の、海辺のバーベキュー! クウちゃんのタコ焼きがあって、いっぱい海の幸があって! おいしかった!」
「あー、あれかー。あれはよかったねー。じゃあ、今夜はタコ焼きにする?」
「うーん。タコ焼きかぁ」
あれ。
喜んでもらえるかと思ったら、悩まれた。
「ねえ、クウちゃん。最高のディナーを考えているんだよね? それだとタコ焼きは合わないと思うの」
「ふーむ」
「だって、最高だったのは、みんながいて、海が綺麗で、そういうのも含めてのことだから。タコ焼きは美味しいけど、やっぱりその美味しさはあの時の環境もあってのことだと思うの」
「なるほど。それはそうだね」
前世でも、夜のお祭り会場で食べるタコ焼きは絶品だった。
もちろん普通に食べてもタコ焼きは美味しいけど、「最高」を追求するのであれば自宅では条件が合わない、ということか。
私は納得した。
「クウちゃんは、どんなのが最高のディナーだったの?」
「私かぁ……。そうだなぁ……。なんだろう……。私も、エミリーちゃんと同じ旅の夜のバーベキューかなぁ……。あとは、いつもの陽気な白猫亭の、いつものソーセージセットとか……」
私もどうやら、みんなで楽しく食べる夕食が好きみたいだ。
ただそれだと話がおわってしまう。
このまま陽気な白猫亭に行けばいいだけの話だしね。
というわけで。
最高のディナーを決めるにあたっては、環境は条件から外した。
純粋に料理だけで決めよう。
「となると大切なのは、やっぱり構成かな」
「軍隊?」
「ううん。今回は、もっと小さな規模で考えてみよう。すなわち、ディナーとは冒険者パーティーなり!」
「さすがはクウちゃん! それなら規模も小さくて完璧だね!」
「うむ。6人。すなわち6品で考えてみよう」
「うん。わかった!」
「まずはパーティー編成だね。一般的に言えば、前衛3人の後衛3人かな」
「前衛って、前で戦う人なんだよね?」
「うん。剣や盾を持って、魔物とぶつかるの」
「パワー?」
「うん。パワーだね」
「なら、ステーキ!」
「いいね! なら最初はステーキだね!」
ステーキは、アレかな。
敵の攻撃を正面から受け止める、まさに盾役。
うん。
ぴったりだ。
となると、あとの2人はアタッカーか。
普通に考えるなら、ご飯。
あるいは、パン。
うーん。
あまりにもありきたりで、それだと面白みがない。
なにかもっとこう――。
最高であるのならは、他とはちがう個性。
尖ったなにかがほしいところだ。
尖ったもの……。
「串焼き!」
私はひらめき、叫んだ。
「串焼き、美味しいよねー!」
エミリーちゃんも同意してくれた。
「だよねー」
「でも、クウちゃん。それだと肉と肉でかぶっちゃわない?」
「ふむ。それなら海鮮串焼きにしようか」
「うん。いいかもっ!」
「しかも二刀流!」
「やったー! 最強の剣士だね!」
「だねー」
アタッカーの1人、二刀流の剣士に決定!
さあ、あと1人だ。
「……ねえ、クウちゃん」
「どうしたの、エミリーちゃん?」
「やっぱりタコ焼きをパーティーに入れてみない? わたしね、やっぱりタコ焼きが食べたくなっちゃった」
「ふむ」
タコ焼き。
ステーキを挟んで、海鮮串焼きと並び立つには――。
かなりの異色だ。
イメージする限りは合わない。
しかし、共通項はある。
それは、海。
広大なステーキという島を、海で囲む。
それは絵になる。
すなわち、イメージできるということだ。
「わかった。これはなかなかの挑戦になるけど――。もう1人のアタッカーはタコ焼きで行こう」
「やったー!」
「あと後衛だね。斥候、弓使い、各属性の魔術師……。どう組み合わせるべきか……。これは難問だよ……」
だけど、答えはすぐに見つかった。
エミリーちゃんが言った。
「わたしとアンジェちゃんとセラちゃんがいいっ! 土と、風と火と、光の魔術師で後衛は固めよう!」
「いいね、それ。そうしよう!」
「わたしはね、蒸したおいも!」
「いいね!」
土っぽい!
「アンジェちゃんはね、野菜たっぷりの激辛スープ!」
「いいね!」
風と火っぽい!
「セラちゃんは、ケーキ!」
「いいね!」
白いところなんて、まさに光!
「エミリーちゃん、私は感動したよ。エミリーちゃんは天才だね。ぴったりすぎてなんの議論の余地もなかったよ」
「えへへ。ありがとー」
「じゃあ、これで! 冒険者パーティーは成立! 冒険の旅に出よう!」
「おー!」
というわけで、最高のディナーは決まった。
盾役:ステーキ!
前衛:海鮮串焼き2本!
前衛:タコ焼き!
後衛:蒸かし芋!
後衛:激辛野菜スープ!
後衛:ケーキ!
素晴らしい!
まさに最高としか言い様のない完璧で隙のないメンバー構成だ!
私は早速、あふれる情熱のまますべてを生成した。
素材は揃っている。
問題なく、すべてをテーブルに並べた。
「……ねえ、クウちゃん」
「……うん。そだね」
完成して、すべてを目の前にして、私たちは冷静になった。
冒険者パーティー、恐るべし。
どうやら私たちは、Sランクパーティーを育て上げてしまったようだ。
強い。
これは勝てそうにない……。
と思ったところで。
「ただいま帰りましたー! いやー、いい匂いがしていると思ったら、これはなんとも豪華ですねー!」
お店のドアが開いて、ヒオリさんが現れた。
「おかえりー!」
「こんばんはー、ヒオリちゃん!」
「こんばんはです、エミリー殿」
「ヒオリさん、すぐに食べれる?」
「もちろんですっ! 某のお腹はいつでも準備万端です!」
ささっとヒオリさんが水の魔術で手を綺麗にする。
さすがだ。
隙がない。
というわけで、最高のディナー✕2は、ヒオリさんがほぼ1人で食べた。
とても美味しそうに食べてくれた。
私とエミリーちゃんは、タコ焼きを楽しんだ。
表面はカリカリ。
中はトロトロ。
その中に、プニッとしたタコの弾力。
最高でした。
しかし、うん。
ちゃんと食べれる量だけ作らないと駄目だよね……。
反省……。




