451 アンジェとダンジョン
メガモウパーティーのボス戦は、いよいよクライマックスだ。
ワルダスという悪党っぽい人が囮になって、メガモウの渾身の一撃で勝利を掴もうとしている。
「……テメェが聖戦士だって聞いた時には笑ったが、俺を連れて行くと言った時にはもっと笑ったぜ」
「ハッ。テメェも道連れだ」
「馬鹿がよ。だが――。悪くねぇ」
ワルダスが動いた。
爪が迫る。
もちろん私の鉄の爪ではない。
巨大な、魔物の爪だ。
ワルダスが爪を剣で受け止める。
一瞬、耐えた。
だけど弾き飛ばされ――。
かけたところを、気合と共に必死の力で耐えた。
おお。
これは大したものだ。
どうみても善人には見えない悪党面の男だけど、戦士としての鍛錬は欠かしていないのだろう。
だけど、駄目だ――。
動きの止まったワルダスの体に、黒い獣が噛みつこうとする。
かわすことはできない。
「ぐわぁぁぁぁ!」
食らいつかれた。
いや、ちがう。
これはわざとだ。
鉄を組み合わせた肩当てにうまく噛みつかせている。
だけど、耐えきれるのだろうか。
肩当てが割れた。
黒い獣の牙が深く体にめり込む。
まさか、捨て身なのか。
ワルダスが剣を捨てて、獣の頭を両腕で抱え込んだ。
「今だぁぁぁ! メガモォォォォォォォォ!」
「うおらぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
メガモウの大剣が輝く。
私はなにもしていない。
メガモウの気合に、剣に込められていた光の力が反応したのだ。
その渾身の一撃が――。
黒い獣を両断する。
その姿が散って、魔石といくつかのアイテムが落ちた。
勝利だ。
だけどワルダスは重傷だ。
口から血をはいて、前のめりに倒れた。
「ワルダス!」
とっさにメガモウが支えるけど――。
「へっ……。さすがは……聖戦士様だぜ……。けほっ、けほっ」
「ワルダス! しっかりしろ!」
「おい……」
「ワルダス!」
「俺を選んでくれて……。ありがとよ……」
えっと。
部屋の隅からこっそりと、小さな声で……。
エリアヒール。
全員回復した。
さすがは私だ。
見つからないように『透化』したまま、そそくさと奥の部屋に戻った。
そして、アンジェの手を取って、アンジェの姿も消して、こそこそとボス部屋を後にしたのだった。
洞窟を歩きながらアンジェと話す。
ボス部屋までの通路だ。
雑魚敵はいない。
「さっきの人たち、勝てたのね……」
「うん。自力で勝ったよ」
「激闘だったわね」
「だねー。そして、私たちの激闘はここからだよー」
「わかってる。気合が入ったわ」
さてさて。
私も格闘デビューだ。
洞窟の広場に出た。
魔物発見。
「ねえ、クウ。ホントにその武器でやるの?」
「う、うん……」
敵は巨大なナメクジでした。
「他のとこ行ってみる?」
「そ、そうだね……」
姿を消したまま通り過ぎようとすると――。
足音か匂いで気づかれたぁぁぁ!
ナメクジがアンジェに襲いかかる。
アンジェは反応するけど少し遅い。
このままでは攻撃を食らう。
間違いなく、私の魔法障壁で跳ね返せるとは思うけど――。
私は動いた。
鉄の爪でナメクジを切り裂く。
体液が噴水のように飛び散る。
びしゃり。
生温くて臭い体液が、私の全身にへばりついた。
さすがにボス前の敵だ。
スキル一桁の通常攻撃では、いつものように即消滅は無理だった。
「この――!」
アンジェが剣を振るう。
私の魔法で強化されたミスリルソードの一撃だ。
それでナメクジは魔石へと変わった。
「やった!
私の攻撃、通った!
ねえ、クウ――!
クウ……?
だ、大丈夫……?」
思わずのけぞりつつも、アンジェは私を心配してくれた。
うん。
わかる。
私、ベトベトのネバネバで、臭いよね。
『透化』して、解除。
ふう。
私の場合、まあ、さ、これで全身綺麗になるからいいけど。
この後は、ちゃんと消音魔法と消臭魔法もかけて、広場にいたナメクジはすべてやり過ごした。
次にいたのはスライムだった。
その次にいたのは、気持ち悪いにも程があるムカデみたいな敵だった。
もちろんパスだ。
「ねえ、クウ……。私、あんまり遅くなると怒られちゃうんだけど……」
「だ、だよねえ……」
結局、『転移』の魔法でいつものマーレ古墳に飛んで、そこでスケルトンのボスを討伐して、この日の冒険はおわった。
ぐだぐだでごめんよー。
私は謝ったけど、アンジェは大いに楽しかったようだ。
さらにはレベルアップも果たしたようで、帰りはぐったりとしていた。
外に出ると、すっかり夜だった。
これは私も謝らないとだな……。
ご家族は絶対に心配されているどころか下手をすれば捜索されている。
私はアンジェを抱えて、アンジェの家に行った。
ところが話は早かった。
アンジェのおじいさんが、あまりにも簡単に理解してくれたのだ。
え。
いいの?
って感じだったのだけど……。
アンジェのおじいさんは、陛下から私のことを聞いていたようだ。
しかも今後の許可までくれた。
ただし、必ず、家に一言は伝えてから、という条件付きで。
はい。
誠に申し訳有りませんでした。




