443 教えて、エリカ先生!
「しかし、意外だ」
「なにがですの?」
「エリカが大人しく引き下がるなんて。もっとこう、飢えた野良犬みたいに噛みついてくると思ったけど」
「……一体、クウがわたくしのことを普段からどう見ているのか、とても気になるところですの」
「だから、飢えた野良犬?」
「まったく本当に」
エリカがあきらめたみたいに紅茶を口につけて、私が笑っていると。
なぜかセラがふうと息をついた。
「どうしたの、セラ?」
「クウちゃんは誰とでも仲良くなれて羨ましいです。どうすればクウちゃんみたいになれるのでしょうか」
すかさずエリカが、
「クウは考えなしだから逆に誰とでもしゃべれるだけですの。立場ある人間は真似しないほうがいいですの」
とか言ってくるけど、あえて気にしない。
きっとセラが反論してくれるよね。
と思ったら。
「それは……。そうですね……」
あっさり肯定されましたが!
「セラフィーヌは皇女の義務としてお茶会を開かなければならないのに、怖がって未だに開いていないのです。困ったものですわ」
お姉さまが教えてくれる。
「その話って前にも聞いたけど、まだやってなかったんですね」
私がお姉さまに言うと、セラがうなだれて嘆いた。
「ううう……。だってわたくし、貴族の女の子となにを話せばいいのか、まるでわかりません……」
「ここに何人もいるから聞いてみたら?」
「そんなこと恥ずかしくて聞けませんー」
それもう、聞いているようなものだけどね。
まあ、いいか。
ここは私は聞いてあげよう。
「エリカは普段、どんなことを話しているの?」
「そんなもの、わたくしの話に決まっていますの。わたくしがいかに気高く美しく麗しいのか。そして、どれだけの貴金属を持っているのか。いつも皆、目をキラキラとさせて聞き入っていますわ」
「なるほど……。ユイはどうなの?」
「私?」
ユイがキョトンと聞き返す。
「うん。普段、国の友だちとはどんなことを話しているの?」
質問して、気づいた。
しまった。
ユイには国に友だちが1人もいないんだった。
ユイはニコニコとしている。
私にはわかる。
マズい、泣きそうだ!
「……あの、ユイさんにはお友だちがいないんですか?」
純真なセラが純真にたずねたぁぁぁ!
「うん。私、友だちいないんだ」
ユイの笑顔が決壊寸前だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
「そうなんですかぁ。わたくしと同じですね……」
「2人とも、私がいるよね!?」
お友だちだよクウちゃんは!
「ちがうよ、クウ」
ユイに笑顔のまま否定されたぁぁぁぁ!
「はい。クウちゃんはちがいます」
セラにも否定されたぁぁぁぁぁ!
「なななななな! なんでえぇぇぇぇぇ!?」
さすがのクウちゃんさまも、ちょっとだけショックですよそれは!
「だってクウは、国の友だちじゃないよね」
「クウちゃんは、知らない貴族の方ではないですし……」
「……ごめん、そうだね」
そういえばそうでした。
「まったく、しょうがない人たちですこと」
エリカに笑われた。
くぅぅぅぅ。
クウちゃんだけにくぅぅぅぅぅ。
なんかエリカに笑われると、人一倍負けた気になるぅぅぅぅ。
「わかりました。ここはひとつ、このわたくしが、友達の作り方というものを伝授して差し上げますの」
エリカが自信満々にそんなことを言う。
「本当ですか! ありがとうございます!」
「……じゃあ、せっかくだし」
セラとユイはお願いするようだ。
私には確信がある。
エリカの話は、きっと、どうしようもない上から目線の話だ。
あれでも、いいのかな。
よく考えてみれば、セラもユイも超お嬢様か。
上から目線でもオーケーなのか。
むしろセラとユイの場合は、上から目線で2人の方から友達認定してあげたほうが上手く行く気がする。
いや、まてまて!
セラがエリカみたいになったら困る。
私は、セラにはいつまでも純真な良い子でいてほしいのだ。
私が、そんなことを考えている内……。
エリカ先生の講座が始まった。
どうせたいした内容じゃないでしょ。
なんて私は斜に構えていたんだけど。
エリカが語る内容は意外にも普通だった。
というか、はい。
インターネットで『友達の作り方』って検索すれば出てきそうな……。
常に笑顔で、ポジティブに。
人に優しくする。
相手の話はちゃんと聞く。
趣味を作って、いろいろな場所に顔を出す。
みたいな。
ただ、この世界にインターネットはない。
なのでセラもユイも、うんうん、と、真面目に聞いている。
「と、まあ、こんな感じですが、実際には、何をしたところで出来ないものは出来ませんわね。さあ、お茶会に戻りましょう」
「ありがとうございました、エリカさん! 参考になりました!」
「うん! 私も頑張ってみるね!」
とりあえず2人は元気になってくれたようだ。
よかった。




