437 10月のこと
「――というわけで、エリカ。いいよね!?」
「わかりましたからぁ! そんなに顔を近づけないで下さいませ!」
「――というわけで、ユイ。いいよね!?」
「クウの言うことはちゃんと聞くからぁ! 怒らないでえ!」
というわけで。
ジルドリア王国とリゼス聖国のダンジョンは好きにしていいことになった。
かわりにこっそりと強化魔法付きの指輪をあげた。
陛下にあげたのと同じものだ。
帝国だけ強くなりすぎてもいけないよね、というバランス取りのためだ。
町中にばら撒くわけじゃないからいいよね。
エリカのメイド隊にも、ユイの聖戦士にも、強くなってもらおう。
エリカの方はハースティオさんが張り切っていたから、近日中には噂通りの最強集団になりそうだ。
ハースティオさんは高度な回復魔術を余裕で扱う。
蘇生魔術も行使できる。
さらには強化魔術をかけることもできる。
鍛え方は教えてあげたので、あとはもうやっていくだけだ。
さらになんと。
ハースティオさんの活躍に興味を持った2人の竜の人が、メイドとして働くことを希望しているそうだ。
私の許可が必要だというので許可しておいた。
4人までならいいよーと言っておいた。
ハースティオさんをメイド長として、その下にメイド四天王!
なんかカッコいい気がする!
ユイの方は……。
聖戦士ウンモ……。
ごめん……。
正直、私……。
ユイが信頼する相手のことを笑ってしまった……。
だって、メガモウだもん……。
ごめん……。
さすがに本気で謝りました。
聖戦士様の今後のご活躍を期待しております。
セラとお姉さまのことは鍛え上げた。
加えて、メイヴィスさん、ブレンダさん。
お兄さま、ウェイスさん、ロディマスさん。
あとはおまけで、妖精のミル。
たまにヒオリさんも。
ほぼ毎日、放課後に1時間。
ダンジョンで死ぬほど。
エミリーちゃんが帝都に来てからはエミリーちゃんも加わった。
アンジェは……さすがにアーレまで迎えに行くのは大変すぎた。
転移魔法で近郊のダンジョンを経由しても遠い。
なので誘わなかった。
ごめん。
ただ、たぶん、致命的に大きな差にはならなかったと思う。
一定までレベルが上がったらしき後は、明らかに、レベルアップ疲れする頻度が減少したから。
今回はあくまでお姉さまのダイエットが目的。
騎士団や魔術師団の人とのバランスもあるので、高難易度ダンジョンに連れていくのはやめておいた。
アンジェには、今度、補完しよう。
アリスちゃんは残念ながら、まだダンジョンに行くのは早い。
ゼノが基礎の指導中だ。
闇の魔術師は、魔力が安定するまでは、どうしても邪悪に落ちやすい。
そうならないように、ゼノは慌てず急がず、ゆっくりとアリスちゃんを育てていくつもりのようだ。
スオナは誘わなかった。
再会は、学院に入ってからだと約束した。
スオナは天才だ。
妖精のアクアもそばについている。
私の補助がなくても、確実にセラに並んでくるはずだ。
ブリジットさんたちとは楽しんだ。
「クウちゃん。私、行くよ」
いつもの『陽気な白猫亭』で夕食を取りつつ、ブリジットさんが言った。
「どこにですか?」
「聖都」
「ていうと、まさか……」
「うん。第一回、平和の英雄決定戦。私、出るよ」
「おおおおおお!」
これには興奮した。
ブリジットさんの参戦宣言!
「クウちゃんは?」
「私?」
「来うる? クウちゃんだけに」
「すいません、私は無理なんです……」
密かに司会なのでぇぇぇぇ!
「そかー」
「あ、私のマネ」
「バレた。クウちゃんだけに、くぅぅぅぅ」
「もー。ブリジットさんはクウちゃんじゃないでしょー」
「くぅぅぅぅぅん。実は犬だよ」
「あはは」
「というわけで、クウ。この俺様も年末年始は帝都からいなくなるからよ。おまえは寂しがって泣くなよ」
ロックさんは当然ながらブリジットさんに付き合うようだ。
なんとまさかの2人旅らしい。
火魔術師のノーラさんと盾役のグリドリーさんと重戦士のダズには、帝都での人付き合いが多くあるようだ。
ルルさんはこの機会に、ザニデア山脈を超えた故郷――。
大森林に帰るそうだ。
商隊を率いて故郷に物資を届けるのだそうだ。
「でも、2人旅かー。いいねー。ロックさん、この機会に、ちゃんと男らしいところを見せてやりなよー」
「おいおい、俺はいつだって男の中の男だろうがよ」
「じゃなくって。ほら、アレ的な」
「なんだよ」
「何番目かってさ」
「むほっ! ゲホゲホゲホっ!」
むせてごまかした!
「おーし! みんなー! 今夜も飲もうぜー!」
飲みに逃げた!
駄目だこのヘタレ!
Sランクパーティーのリーダーだろ、しっかりしろぉぉぉぉ!
マリエにも、ちゃんと大会のことは伝えた。
「ごめんね、マリエ。私、うっかりしていて」
「なに? どうしたの、クウちゃん?」
「私、マリエが審判者っていうことを忘れてちゃってて。ついうっかり陛下と聖女を特別審査員にしちゃったんだよ」
「陛下ってまさか、皇帝陛下のこと?」
「うん」
「なら、当然だと思うよ……? どこに私の入る余地が……?」
「それで私、考えたの。最高審査員を置こうって」
「え。まさか、あの……」
「お願いね、マリエ」
「……え? ……クウちゃん、まさか」
「来るべき、第一回、平和の英雄決定戦、最高審査員――。それはマリエにしかできないことだよ」
「……あの、クウちゃん」
「どしたの?」
「私、気絶してもいい? いいよね?」
「え? 駄目だよ? あと11月のお茶会も楽しもうねっ!」
かくして。
10月は、怒涛のように過ぎていった。




