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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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435 閑話・冒険者レックはメイドの少女を見た






 やられた――!


 ネームドモンスター、リリーリーンに腹に食いつかれた時、俺は自分の人生がこれでおわるのを感じた。

 俺は冒険者のレック。

 田舎の村から仲間と共にジルドリアの王都に出て、ここまで生き延び、Cランクにまでなった。

 あと少し、成果を出すことができれば――。

 Bランクになることができる。

 そうなれば一流の仲間入りだ。

 村にも堂々と凱旋できる。

 年老いた両親に、成功した自分の姿を見せることができる。


 ――俺は、焦っていたのかも知れない。

 いや、焦っていたのだろう。


 トカゲの巣は、高難易度のダンジョンではない。

 構造は単純で、危険な罠も少ない。

 敵も、多数生息しているトカゲはノンアクティブかつノンリンクで焦りさえしなければ危険は少ない。

 とはいえ力は凄まじいし、特殊能力を持つ個体もいるので、確実に勝利できるというわけではない。

 殺される奴もそれなりにはいる。


 俺もどうやら、その中の1人になるようだ。

 難敵が現れたことを承知の上で、リリーリーンに挑んでしまった。

 急いで倒そうとして、しくじった。

 噛み付いてきたリリーリーンは仲間のサポートで振り払うことが出来た。

 だけど傷は深い。

 もうまともに動けそうになかった。

 もはや、これまでだ。


 あとはどうにか、仲間だけは逃さないとな……。


 そう思った時だ。


 一緒に田舎から出て苦楽を共にしてきた魔術師のヒルダが、俺の傷口にポーションを振りかける。

 すると一瞬で傷がふさがった。

 信じられなかった。


 そのポーションは先程、情報提供の見返りとして、エリカ王女のメイドがヒルダにくれたものだ。


 俺の傷は深かった。

 死を覚悟するのに十分な損傷だった。


 それが一瞬で治るとは――。


 一体、どれだけの高級品をくれたのだろうか。


 だが考えている余裕はなかった。

 戦いは続いている。

 俺は気持ちを切り替え、目の前の白いトカゲに集中した。


 ドスン――。


 ドスン――。


 地竜ググードの足音はゆっくりと近づいてきている。

 ググードは月に一度の頻度で現れる。

 リリーリーンとは比べ物にならない強さを持つ、まさにこのトカゲの巣の主とも呼べる存在だった。

 討伐には、Bランクの冒険者が20人は集まる必要がある。

 それほどの強敵だった。

 ただ、滅多なことで絡まれる敵ではない。

 何故ならググードは、攻撃体制に入らない限りは鈍重だ。

 足音を響かせてゆっくりと移動するから、事前に気づくことは容易い。


 俺達はリリーリーンを倒した。


 白いトカゲが姿を消し、2枚の白い皮と大きな魔石が現れる。


 出た。


 しかも2枚という極上の戦果だ。


 だが同時に、ググードが広場に入ってきた。


「俺が囮になる。その隙におまえらは逃げろ」


 剣を構えて、俺は言った。


「レック?」


 ヒルダが俺の行動を理解できないように聞き返してきた。


「……ここは俺に任せて、おまえらは行け」

「そんな! 一緒に逃げればいいでしょ!」

「無理だ。もう気づかれる」


 ググードは動く獲物に敏感に反応する。

 ここで走れば、確実に狙われる。

 狙われれば、ググードは凄まじい速度で距離を詰めてくる。

 そうなれば確殺だ。


 とはいえ、じっとしていても助からない。

 あと少し、ググードが進めば、俺達は奴の視野に入る。


 だが逃げる方法はある。


 誰か1人が囮になればいいのだ。


 俺の作戦をヒルダが拒否する。


「嫌よ! 今まで一緒に頑張って来たのに、どうして今更!」

「いいから行け!」

「嫌よッッ! Bランクになったら――。一緒に村に凱旋しようって約束は――。どうする気よ――!」

「頼むから行け。これは責任なんだよ。俺が功を焦ったばかりに、おまえらまで殺すわけにはいかねぇ」


「……あのお。盛り上がっているところ申し訳ないんですけど」


 そこに声がかかる。

 見れば、水色のメイド服を着た先程の少女だった。


「どうしてまだいるんだ!」


 思わず俺は怒鳴った。


「えっと、ちょっと質問いいですか?」

「今はそれどころじゃ――」

「あいつって、勝手に倒しちゃってもいい子なんです?」


 メイドが指差すのは地竜ググードだ。


 ググードの目が俺達を捉えた。


 クソ! 手遅れか!


 ググードが凄まじい勢いで突進してくる。


 俺は目を閉じた。


 仲間を逃がすこともできず、俺は、俺達はここでおわるのか!


 洞窟が揺れた。

 凄まじい音が響いた。


 だが――。


 痛みも終焉も、俺には訪れなかった。


 おそるおそる目を開けた俺が見たのは――。

 信じられない光景だった。


 俺の目の前で――。


 水色のメイド服を着た少女が――。


 その細い片手だけで、地竜の突進を軽々と受け止めている。


「ねえ、これって倒してもいいの?」

「…………」

「あとで怒られたりしない?」


 俺は呆然としつつも、うなずくことで答えた。

 少なくとも、ネームドの討伐は自由だ。

 誰かに権利があるものではない。


「じゃあ、あとはこっちでやるから、みんなは逃げてもいいよー」


 少女が気楽に言う。


 そんな無謀な――。


 と、言える現状ではなかった。


 俺達はリリーリーンとの戦いで満身創痍だし、なにより少女は片手でググードの動きを止めている。


「……あんた、姫様の、メイドなのか?」

「うん。そだよー」


 エリカ王女のメイド隊といえば、今や王国で最強の超人集団だ。

 逸話は事欠かない。

 1000人を超える暴徒をたった1人のメイドが楽々と鎮圧した話は、俺の耳にも何度も届いた。

 さすがにそれは誇張だろうと笑い飛ばしたものだが――。


「……ポーション、助かった。感謝する」

「いいえー」


「――レック、行こう。あとは姫様に任せよう」


 ヒルダが俺の背中を押す。


「あ、ああ……」


 にこやかに微笑む少女を残して、俺達は走って広場を後にした。


 ダンジョンの外に出た。


 待機していた冒険者達がわっと寄ってくる。


「レック、無事だったか!」

「よく生きて帰れたな!」


「ハッ。俺らを舐めてんじゃねーぞ」


 俺は強がったが、すぐにヒルダに頭を叩かれた。


「ちがうでしょ。助けてもらえただけ」


「どういうことだ?」

「なにかあったのか?」


 冒険者達に聞かれて、俺は肩をすくめた。


「エリカ王女に助けられた。ほんと、すげーよ。メイドがよ、片手でググードを受け止めてな」


「はぁ!? なんだそりゃ!?」

「……いや、有り得るだろ。……メイドって、あのメイド隊だろ?」





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― 新着の感想 ―
[一言] クウちゃんだよね? あんた姫様のメイドなのか?のくだり  「うん、そだよー。」が〇じゃ・・・
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