430 クウちゃんさま、捕まる/クウちゃんさま、提案する
「あ、メガモウ。ちょうどいいとこに来たよー」
「はぁ? なんだよ。って、おい、そのガキ」
メガモウがクノを見下ろす。
「ひぃ」
クノが怯えて私のうしろに隠れる。
「ちょっとー。怖い顔で見ないでよねー。クノが怯えちゃったでしょー」
「あー、やっぱりか。おい、ガキ」
「だーかーらー」
蹴るよ?
「いいから来いっ!」
「もー!」
メガモウが強引にクノを腕を取ろうとするから、私は蹴った。
「ぐはっ!」
メガモウは吹っ飛んで、倒れた。
「自業自得だからね?」
私は腰に手を当てて、そんな大男を見下ろした。
返事はない。
メガモウは目を回してしまったようだ。
ふむ。
ボンバーの方がメガモウよりもタフなのか。
意外だ。
む、いかん。
まわりの視線が痛い。
どうしたものか。
メガモウのことは放っておいて、どこかに行こうか。
んーでも、広場にはいないと、クノのお父さんかお母さんが探しに来た時に困るよねえ。
迷っていると白い軍服の人たちが走って来た。
どうやら衛兵のようだ。
ちょうどよかった。
と、思っていたら囲まれた。
市民の人が言う。
「こ、このエルフの娘です! このエルフの娘が冒険者をいきなり!」
ん?
「隊長、刺されたのはメガモウ。聖都の冒険者です」
「先程、迷子探しに協力を申し出た者です」
「見たところ、その獣人の娘が迷子のようだな。この聖都で人攫いか。許せることではないな。拘束しろ」
んん?
気がつけば私、広場の脇の衛士詰所に連れて行かれましたが。
バーン。
なんか密室に放り込まれましたが。
まあ、うん。
はい。
無事に両親と再会できたクノが証言してくれて、メガモウも別に刺されてなんていないので。
すぐに解放してもらえたけど。
「とはいえ、公の場で他人に暴力を振るうなど許されることではない。今回はこのまま許すが次はないと思え」
なんか隊長さんには説教されたけど。
釈然としない。
しないけど……。
まあ、うん。
たしかに、それはそうだよね。
公の場で他人に暴力を振るえば逮捕されるよね。
すいませんでした。
外に出ると、クノとご両親が待っていてくれた。
私はお礼を言われた。
どうやらクノは、親とはぐれた場所を間違えていたようだ。
ご両親は別の場所でクノを探していた。
まあ、うん。
再会できてよかったね。
私は笑顔で、3人を見送ってあげた。
3人は衛兵さんの紹介で、これから滞在施設に行くそうだ。
聖都には、都市の外にはなるけど、トリスティンから逃げてきた獣人を受け入れるための場所があるとのことだ。
「おう、大丈夫だったか、ガキ」
見送ったところで建物の中からメガモウが出て来た。
「メガモウのせいで酷い目にあったんですけど!」
「はぁ!? いきなり人を蹴るテメェが悪いんだろうが! この俺様に大恥をかかせやがって!」
「ざーこ」
「おい、喧嘩売ってんのか!?」
「そーゆー台詞は、売れるくらいになってから言ってくださーい」
「……ったくよ。なんでおまえ、そんな強ぇんだよ」
「ねえ、それよりメガモウって、迷子探しを手伝ってたの? 凶暴な見た目のくせにいいとこあるじゃん。さすがは聖戦士」
「おいやめろ」
「あはは」
まあ、いいや。
許そう。
治安がしっかりしているのは、良いことだ。
…………。
……。
夕方、家に帰ってきたユイと合流して、一緒に食事を取りつつ、私は昼にあったそのことを語った。
するとリトがしみじみと言った。
「クウちゃんさまが怒らなくてよかったのです。怒っていたら、聖都は確実に滅んでいたのです」
「だよねえ……。クウ、大人になったね」
ユイにまで言われた。
「いや、うん。言っちゃ悪いけど、ユイよりは大人だと思うよ、私」
少なくとも、わんわん泣いたりしないし。
「あ、でも、獣人たちの受け入れとか頑張ってるんだねー。偉いねー、ユイも」
「今はまだ少ないしね。数が多くなると、どうなるかわからないけど」
「だよねえ」
無制限の受け入れが無理なのはわかる。
「最近ではね、いっそ、獣人国の復興を許してはどうかって案も出てるんだよ。クウはどう思う?」
「許すも何も絶対に復興すると思うよ。ナオがいるんだし」
「あー、そっかぁ。そうだったよー」
ユイは深々とため息をついた。
祖国の復興は、ナオが転生の時に願った人生の目的のひとつだ。
「問題があるんだ?」
「そりゃあるよ。今はトリスティンの領土だし」
「でも、元々はちがうよね?」
奪ったものだし。
「それはそうなんだけどね。復讐果たすべし! なんて勢いで建国されたら大変なことになるでしょ。それこそ今度はトリスティンが滅ぼされるよ」
「自業自得でしょ」
「それはそうなんだけどね。じゃあ、放っておく?」
「いや、うん。そう言われると、ね……」
「だよねえ」
難しい問題だ。
「ニンゲンなんて、好きにさせておけばいいのです。どうせいつも殺し合っているんだからいつものことなのです」
リトは達観している。
「私も人間だよぉ」
「ユイはユイなのです」
「私は精霊だよぉ」
「なのでニンゲンの争いになんて関わっちゃいけないのです」
「……関わるつもりはないんだけどね。友だちの手助けはするけど」
「なんとかしてよクウえもーん!」
「今言われても」
困るというものだ。
「うう。もー。私、どうしたらいいのー」
ユイがテーブルにへたれる。
「がんばれ。なにかあれば、ちゃんと助けてあげるから」
「私も気分転換したいよぉ」
「お祭りがあるんだよね? そこですれば? そうだ! ねえ、ユイ。せっかくのお祭りならさ、私もイベントしていい?」
「……クウがやるの?」
「うん! 第一回、平和の英雄決定戦! とかどう? 人族に獣人に亜人に竜に妖精に……とにかくみんなでギャグとか演芸を披露して笑い合うの。一番ウケた人が平和の英雄として優勝ね」
「面白そうだねー。クウがやってくれるならいいよー」
「よし! 決まり! 私が司会やるから、ユイは特別審査員ね」
「うん。わかった」
「賞品はどうしようね。すごいものじゃないと注目されないよね。ユイがキスすることにしようか」
「えー! それはヤダー! クウでいいでしょー!」
「私はユイほど有名じゃないし」
どう考えてもユイの方が食いつきはいいよね。
でも、却下になった。
とはいえ、武具が賞品というのは、平和の祭典に相応しくない。
結局、賞品はなしになった。
よく考えてみれば、賞品目当てで参加する祭典ではない。
栄誉と祝福。
適度な賞金。
それをプレゼントすることで決まった。
あと開催は、さすがに当日では無理があるということで、大祭の前日12月19日に決定した。
お笑い祭りで大いに盛り上がって。
仲良くなって。
より素晴らしい大祭にしようという計画だ。
完璧だね!
今からその日が楽しみだ!




