43 セラに剣を教える
朝。寝覚めはよかった。
セラと一緒に起きて、身支度して、食堂に移動する。
さあ、豪華な朝食だ。
今日の朝は私とセラの2人だけのようなので、すごく気楽です。
と思ったら、いきなり陛下が現れた。
「おはよう、セラフィーヌ」
「お父さま! 朝はご一緒の予定ではなかったと思いますが」
「早く話したがっていると思ってな。残念ながら今日は忙しくて昼に時間が取れそうにないから来てやったぞ」
ああ、せっかくの気楽な朝食が。
陛下が来たらラフに食べられないじゃないかぁ。
「はっはっは。朝から露骨に嫌そうな顔をするな、クウちゃん君」
「し、してませんけどっ……」
「――それでお父さま、あの」
「魔術を習いたいのだろう? よかろう。やってみろ」
あっさりすぎるほどに即答だった。
「いいのですか?」
「ああ。話は通しておくから、今日の午後すぐに魔術師団長のところに行って学習の予定を立てるといい」
「はいっ!」
「ただし、当分の間、他言は無用だ。いいな?」
「はい。その理由はわかります。……でも、てっきり、ダメだと言われると思っていました」
「クウちゃん君が手助けしてくれるのだよな。それならばよかろう」
「いいんですか、クウちゃん……?」
申し訳なさそうに言われた。
「いいよー。手伝えることがあれば手伝うから遠慮なく言ってよー」
「ありがとうございますっ!」
「はっはっは。よろしく頼むぞ、クウちゃん君」
「あのお……。ところで、陛下……。昨日のことなのですが……」
セラの陰でヒールして、また騒ぎを起こした件について。
怒られる前に謝っておこうと思ったら、セラのことを助けてやってくれと言われたので元気よくうなずいた。
「さあ、俺に構わず好きに食べろ。昨夜はアイネーシアと無礼講だったのだろう? 俺とも無礼講にしてやる」
「遠慮しておきます。陛下に無礼講とか他の人に刺されそうですし」
「簡単に刺されるクウちゃん君ではなかろう?」
「そういう問題じゃないです。私は空気が読めて争い事を好まない、静かで控えめで大人しい子なんです」
なぜか、思いっきり笑われた。
セラまで困った顔をして、フォローしてくれない。
まあ、いいか。
遠慮せず、しっかり食べさせてもらおう。
今日も勉強だ。
エネルギーがないと、すぐに力尽きてしまうこと確実だし。
しかし世の中には、どれだけエネルギーがあっても無理なことはある。
午前。
セラと2人で専門家から経理を学んだ。
もはや暗号を飛び越えて、アシス様からいただいた言語理解機能が壊れてしまったのではないかと思いました。
お昼になったところでバルターさんが来てセラと3人で食事を取る。
セラは午後から魔術師のところに行く予定だ。
魔術の勉強、応援しているよ。
私は法律と商業の勉強……。
憂鬱だったけど、食後、会議室に移動してバルターさんにアイアンインゴット200本を渡すと、その場で金貨20枚をくれた。
アイテム欄のダミーとなるバッグもいくつかもらった。
元気100倍!
心の中で、うおおおおおおお、と叫ぶくらいにテンションが上がった。
いやあ、だって私、ずっと貧乏だった。
それが一気に解消!
小銅貨に変換して2万枚ゲット!
しかも素材はまだまだある。
うん。
勉強、頑張ろう。
きちんと覚えて、きちんと商売をして、ガッツリ儲けよう。
お金は、あればあるほどよいものだ。
と、思っていた瞬間が私にも確かにありました。
午後の遅い時間。
奥庭園でセラと合流する。
「お疲れですね……クウちゃん……」
「私は燃え尽きたよ……。セラはどうだった?」
「今日はお話だけかと思ったのですが、基礎を学びました。わたくし、自分の中の魔力を認識できるようになったんです」
「おお。たった半日でそれって、すごいことじゃない?」
「師団長にも驚かれました。クウちゃんと比べればまだまだですけど、でも本当に自分が魔術師になれると確信できて、今は興奮が止まりません。わたくしっ! わたくしわたくしわたくし――っ!」
抑えていた感情が爆発したらしく、拳を握ってセラが顔を寄せてくる。
どうどう。
「ならせっかくだし、剣士としての第一歩も今から踏み出してみよっか」
ショートソードの木剣は何本か製作済みだ。
アイテム欄から2本を取り出して、1本をセラに渡す。
もう1本は自分で持った。
「好きなように私に打ち込んでみて」
「……いいんですか?」
「うん。平気」
「わかりました……」
セラが覚悟した顔で剣を構える。
「やぁ!」
という掛け声と共に、ヘロヘロっとした一撃が私の木剣に届いた。
「どんどん来ていいよっ!」
「やぁやぁやぁ!」
一分もしない内にセラは疲れ切った。
「ありがとう。一応、どれくらいできるか見てみたかったんだ」
「……生まれて初めて剣を振りました」
「最初から教えるね」
まずは剣の握り方と基本の構えを、その後は4つの型をセラに教えた。
小剣の基本は突きと払い。
力に頼りすぎない、体のバネと遠心力を利用した身のこなし。
これらを効率的に学べる4つの型がゲームにはあって、繰り返すことで最初の武技を覚えるところまで熟練度を上げることができた。
あくまでゲームの型ではあるんだけど、私も過去にこれで基本的な動きを覚えたので最初の練習には最適だと思う。
セラはすごかった。
剣にも才能があるのかも知れない。
体力がないので連続は無理だったけど、日が暮れるまでの短い時間で、それなりには動けるようになった。
「セラは魔術がメインだし、剣は無理せずにまずは型を繰り返して一般人相手に護身できるレベルを目指そう」
「……ありがとう、ございます。……魔術とは別の意味で、キツイですね」
「セラは体力もつけないとね」
「はい……。頑張ります……」
息も絶え絶えだったけど、セラの表情は爽やかだった。
「木剣はあげる。よければ鍛錬に使って」
「はい。ありがとうございます」
「剣だけど、セラの予定が合うなら明日も同じ時間にやらない? 型がしっかりと身につくまでは見ていたいし」
剣と魔術を両方やるのは大変だと思うけど、セラはこなしてしまう気がするので正しく教えておきたい。
「はい。お願いします」
「じゃあ、私はそろそろ帰るね」
「……今夜も泊まっていかれればいいのに」
「ありがたいけど、さすがに連泊は遠慮しておくよ。私も仕事があるし」
「工房ですよね。頑張ってください」
「ありがとう。なるべく早くオープンできるようにいろいろやってみる。お互いにこれから大忙しだね」
「そうですね。わくわくしますねっ!」
「うんっ!」
私は浮かび上がった。
「まったねー!」
「またですー!」
ソウルスロットに銀魔法をセットして『飛行』。
夕闇の空を一気に飛んだ。
市街地に差し掛かるところで『浮遊』と『透化』に変更。
あとはふわふわと我が家まで帰った。
「……ただいまー」
正面のドアを鍵で開けて、1階のお店のフロアに入る。
中は真っ暗だった。
どこかに照明のスイッチがあるはずだけどわからないので、白魔法のライトボールで部屋を明るくする。
がらんとした空白だらけの店内が私の前に広がる。
私はここに商品を並べて、これからお店をやっていくわけか。
できるのだろうか……。
不安になってきた。
経理とか法律とかは、さっぱりわからなかったし。
かろうじてセラに教えてもらった基本の部分だけはなんとか……頭の片隅に残っている気がしなくもないけど。
メイドのお姉さんたちは、もう誰もいない様子だ。
お店の照明のスイッチはカウンターの奥にあった。
オンにして明るくする。
移動するだろうし、ライトボールは浮かばせたままにしておく。
ショーウィンドウに武具を置いてみる。
竜の里にいた時にお試しで作った鉄防具一式と、目玉商品のミスリルソードを立てかけて並べる。
うん。
いいんじゃなかろうか。
武具の工房だと通行人は理解してくれるだろう。
お店にも、商品を並べてみよう。
まずは生成技能で棚を作る。
完成した棚に、青銅の武器と鉄の武器を何種類か置いた。
別コーナーにはアクセサリーを並べた。
付与はしてない見た目だけの品だけど、どれもオシャレで綺麗だし、なかなかよいのではなかろうか。
なんか、一気にやれる気がしてきた!




