427 ジルドリア王国の近況
落ち着いて話の出来ないまま、朝食の時間はおわった。
部屋の外では王様たちが騒いでいる。
『エリカー! 顔を見せておくれ、エリカー!』
『お姉さまー! お姉さまのお顔を見ないと一日が始まりませーん!』
『エリカ! どこか具合が悪いのかい? 我慢の必要はないよ! なんでもいいから相談してくれたまえ!』
「……愛されてるね」
「そうですわね」
ため息まじりにエリカはうなずいた。
「顔、見せてきたら? 私、待ってるし」
「ハァ。申し訳ないのですけれど、少し行ってきますわね」
エリカが元気な姿を見せて、ようやく王様たちは安心したようだ。
みんな帰ってくれた。
「……お待たせしました。朝から疲れましたわ」
「いやー、私も朝からごめんねー」
「ねえ、クウ。どこか風光明媚な場所でお話ししませんこと? クウなら行くのも簡単ですわよね」
「任せてっ!」
というわけで、ハースティオさんも連れて、転移。
場所は私のお気に入り。
帝国の初心者用ダンジョン『マーレ古墳』から外に出て、山の中に広がる湖を見下ろす大岩の上。
以前、ナオを連れてきた場所だ。
エリカは一般人というか普通のお姫様なので、転落しても怪我しないように防御魔法をかけておく。
日焼け防止も兼ねて一石二鳥だ。
しばらく景色を堪能した後、エリカの話を聞くことにした。
「実は、わたくしが竜の里に引きこもっている間に、お父様達がとんでもないことをしてくれたのです」
なにかと思えば、税金の話だった。
エリカは竜の里に引きこもる際、税制を元に戻すようにお願いした。
エリカが自信満々に導入した消費税等の前世の知識を元にした税制が有効に機能していなかったからだ。
王様達はエリカの願いを聞いた。
現行の税制に、過去の税制を追加する形で。
恐怖の二重取りだ。
当然、市民の生活は逼迫した。
時を同じくして、ユイがトリスティン王国のラムス王を名指しで悪魔に取り憑かれていた者と宣言。
激怒したラムス王が、ユイこそ洗脳されているのだと聖女救出の大義名分を掲げて出兵を決めた。
王家直属部隊として王都に在った自慢の戦力「獣人突撃隊」を先発隊として向かわせようとしたところで――。
突如として、王都にいた獣人達の奴隷化が解けた。
王都は大混乱に陥り、火の手が上がった。
獣人突撃隊を始めとした大勢の獣人達は、大暴れした後、悠々とした態度で王都から姿を消した。
神官達はそれを精霊の怒りだと喧伝した。
愚かなる王が精霊の怒りに触れたのだと。
その熱気に煽られて、ジルドリアでも市民の怒りが爆発した。
それは大半の場合は重税反対を叫ぶ集会や行進だったが、場合によっては暴動に発展することもあった。
エリカは市民達の前に立ち、無駄な税の撤廃を約束して、治安を乱す行為をやめるように訴えて回ったという。
「ほんとーーーに、大変だったんですの。
お父様達は相変わらず都合の良いことしか教えてくれませんから。
急いで情報網を構築して。
幸いにも、文官達は協力してくれましたけど。
何より、わたくしにはハースティオがおりましたから。
人々の激情を魔法で鎮めてもらえたのは、本当に助かりました。
その上で、誠意、説得をして。
扇動していた者達を突き止めて逮捕して。
あとはもう、ユイに泣きついて聖女の勅令をもらって……。
連日、人々に向けて演説を行って。
それでどうにか……。
収めることができたのですわ……」
「大変だったねえ」
「ハースティオとユイの力添えがなければ、本気でジルドリア王国が崩壊するところでしたわ……」
「ハースティオさんもお疲れ様」
「正直に申しますと、新鮮で楽しい体験でした」
「あはは。そかー」
しかし、私。
話を聞いていて、思った。
「でも、アレだなぁ……。私、そのあたりのこと、全然知らなかったよ」
「それはそうでしょう。大陸の西と東は山脈に隔たれた別の生活圏です。どうしても情報は届きにくいですの」
「リトにでも伝言してくれれば、私もふわふわっと手伝ったのにー」
「クウ、人間の争いは人間に任せておいて下さいませ」
「ハースティオさんは?」
「ハースティオはわたくしのメイドですの。言うなれば、わたくしの一部なので問題はないのですわ」
その通りです、と、ハースティオさんがうしろでうなずいた。
「リトもいるよね?」
「リトさんはユイの契約者なのですから、問題はないのですわ」
ふむ。
「……ちなみに私は何枠でしょうか?」
「もちろん心の友枠ですの」
「なるほど!」
「本当に困った時には、こうやっていろいろ言いつつも、結局はお願いしてしまうと思いますの。その時には、お願いしますの」
「もちろんっ! なんでも言ってね!」
本当になんでもは困るけどね!
「クウは人のことよりも、自分の商売はちゃんと出来ていますの? そういえばわたくしのぬいぐるみはどうなりました? 考えてみれば、わたくしのぬいぐるみがあるのですからクウの商売は安泰ですわよね。ふふ。安心して下さいな。べつにライセンス料なんて取りませんから」
さすがはエリカ。
すごい自信だ。




