426 久々のジルドリア王国
次の日の朝、私は家を出た。
精霊界を経由して、ジルドリア王国の王都近郊の森に出る。
とりあえず空に上がった。
眼下に広がる王都は一見すると平穏そうだ。
破壊された様子もない。
王城も、美しくそびえ立っている。
エリカの部屋は知っている。
とりあえず、行ってみよう。
まだ朝だし、きっと部屋にいてくれるだろう。
姿を消して、銀魔法の『飛行』で一気に一直線に向かった。
おっとその前に!
敵感知。
これを忘れてはいけないね。
王城には反応がない。
まずは一安心。
続けて、都市の方をざっと確かめたけど……。
反応は、なかった。
素晴らしい。
暴動騒ぎは収まったのかな。
これは、エリカの話を聞くのが楽しみだ。
ジルドリアには、リゼス聖国でいうメガモウみたいな、気軽に話を聞ける現地人がいないのが寂しいところだ。
友達、作らねば。
でも今はエリカだね。
というわけで、ベランダにバラの咲き誇るエリカの部屋に入った。
エリカはいた。
下着姿で鏡を見てポーズを決めていた。
「ふふ。あぁ、今日もわたくしはなんて美しいんでしょう。日々美しさの増していく自分が怖いくらいですわ。いいえ、しかし、だからこそ、気を引き締めて笑顔の練習から始めましょう」
ふむ。
なるほど。
エリカの王女様スタイルには、こんな努力があったんだね。
私は練習を待つことにした。
ベッドに腰掛けて、エリカの後ろ姿を眺める。
エリカは発育が良い。
どちらかといえば小柄な私やセラと比べて、同い年とは思えない。
くねくねだ。
しばらく待っていると、練習がおわった。
「さあ、今日もわたくしは完璧ですの。完璧な1日の始まりですの!」
エリカが振り向いた。
「やっほー」
私は笑顔で手を振った。
目が合う。
エリカが固まった。
「エリカって、毎朝、そんなことしてるんだねー。さすがだねー」
「……クウ、いつからいましたの?」
「あぁ、今日もわたくしは、って、ところから?」
と――。
風を巻くように竜の人のメイドさんが現れた。
ハースティオさん、だっけ。
7000年を生きる古代竜のお姉さんだ。
「これはクウちゃん様でしたか。失礼いたしました」
ペコリとお辞儀して、すっと消えた。
ふむ。
「エリカって、プライベートがなくて大変だね」
「……そうですわね」
頬を赤らめて、エリカはため息をついた。
「あ、私に気にせず着替えちゃっていいよ。というか、エリカって1人で着替えとかできるの?」
服は部屋にあるみたいだけど。
「普段着くらいは自分で身につけますわ」
「へー。すごいね」
1から10までメイドさんにやってもらってると思ってたよ。
「クウはわたくしを何歳だと思っていますの?」
「ていうか、王女様的にね?」
「……そうですわね。実は、10歳まではそうでしたの。でも、さすがに着替えすら出来ない自分はどうかと思いまして」
「そかー」
話しつつ、エリカは手早く服を着た。
「それで、今日は遊びに来てくれたのかしら?」
「エリカー」
「なんですの?」
「王都を確かめたけど、敵感知に反応はなかったよー。おめでとー」
「当然ですわ。わたくしの努力の賜物ですの」
「そかー」
「なんですの、その微妙な声は」
「いや、だって、さ。いろいろやらかしてたよね?」
消費税とか。
「それはそうですけど、今は違いますわ。わたくしが一体、父と兄の尻拭いでどれだけ苦労したと思っているんですの」
「そかー」
「またもう。信じて下さいませ」
「あはは」
「クウっ!」
「ごめんごめん。もちろん信じてるよー。たぶん。あ、そうだ。あと、例のお茶会が11月の1日に決まったんだけど、忙しいなら延期しようか? 私としては別にそれでもいいんだけど」
「……クウが送迎して下さるんですのよね?」
「もちろん。移動時間は考慮しなくていいよ」
「それならお邪魔させていただきますの。気分転換に丁度良いですし、帝国ともお話ししたいですし」
「了解っ! じゃあ、決まりだね!」
「ユイも誘いますの?」
「あ、どうだろ。正直、ユイのことは完全に忘れてたよ」
あっはっはー。
「そんなこと言ったら、ユイがまた泣きますわよ」
「じゃあ、ついでに誘うよ」
「本当にクウと来たら。聖女ユイリアを忘れてたとかついでにとか言えるのは貴女だけですわよ」
「そうだ。エリカ、朝食は取った? まだなら帝国で人気の姫様ドッグを出してあげるよ。私が原案を出してね、知り合いのおじさんが作り上げたんだー。これがまた美味しくてねー。あ、姫様ロールっていうのもあってね。ついでだからロールの方も食べさせてあげるよー。あとさ、マクナルさんとモスさんっていうドワーフの兄弟がいてね、すごいと思わない!? あとあと最近、なんとびっくりホブゴブリンと知り合ってね! 知ってた? ホブゴブリンって妖精でね!」
「クウ、話をポンポンと飛ばしすぎですの! わたくしの話は、ちゃんと聞いて下さるのよね!?」
「あ、うん。そうだね。聞く聞く」
いかんいかん。
エリカとも久しぶりだからちょっとテンションが上がってたね。
とりあえず、朝食を取ることになった。
ベランダで2人で。
食べていたらエリカ大好きな家族のみなさんがエリカに体調不良でもあるのかと心配して駆けつけてきたけど――。
竜メイドのハースティオさんが容赦なく排除した。
エリカ、相変わらず愛されてるね……。
そして、ハースティオさん、王様でもお構いなしなのね……。




