425 大陸東部のこと
「……棒、どう?」
食べ終わった肉串をキャロンさんに差し出すと、
「うーん。惜しい! それは串!」
と言われた。
ふむ。
なるほど、たしかに。
「あと、クウちゃん。今のはギャグのフリじゃないからね?」
ちがうのか。
「ていうと、もしかして真面目な話?」
「まあね」
「そかー」
キャロンさんの口から出たのは、ぼうどう、という言葉だった。
「私もちらっと聞いただけなんだけどな、トリスティンとジルドリアで暴動が起きたんだってさ。クウちゃんには関係ないだろうけど、そっち方面に行く人がいたら十分に注意するように言っておいた方がいいぞ」
関係は大いにある話だ。
トリスティン王国はともかく、ジルドリア王国はエリカの国だし。
最近、エリカには会ってないけど……。
大丈夫なんだろうか。
竜の人が付いているからエリカ自身は平気だろうけど。
「それに似た話なら俺も冒険者ギルドで聞いたなぁ」
ロックさんが言う。
「どんな?」
私がたずねると教えてくれた。
「ジルドリアは知らねーけど、トリスティンの方は王都で獣人奴隷が大暴れしたらしいぜ。なんでも、奴隷化する魔道具の多くが力を無くして、かなりの数の獣人が自由になったそうだ」
「……それ、ホントの話なのか?」
キャロンさんが疑わしげにたずねる。
「さあ。噂だしな。俺に真偽の程はわからねーさ」
「そりゃそうか。山脈の向こう側、東の話だしな。でも、本当ならざまぁとしか言いようがない!」
「まったくだ!」
ロックさんとキャロンさんが笑う。
悪魔たちにご帰還いただいたからだろうか。
だとすれば、大陸中で同じような事態になっているはずだけど。
「ねえ、それって大変なことになりそう?」
「どうなんだろうな。俺にはわかんねーけど、少なくとも魔道具で奴隷にされてた連中が自由になるのはいいことだろ。そんなことしてた連中が復讐されるのは自業自得以前に当然だしよ」
「それは、まあ、そうだねえ」
同情する気には私もなれないかな、正直。
笑う気にもなれないけど。
私が複雑な心境でいると、キャロンさんが話を続けた。
「あと、これも噂なんだけどな。かの獣王様の血筋が、どこかに隠れて生き残っているらしいんだ。もしその方が御旗を立ててくれれば、獣王国の復活も夢じゃないかも知れないんだよなー」
「その時には、キャロンも参陣するのか?」
ロックさんがたずねる。
「いや。私は生まれも育ちも帝国だし、その気はないよ。ただ、復活するなら嬉しいことではあるさ、同じ獣人として」
獣王の血筋。
ナオだね。
ナオが先頭に立って獣人を率いる姿は想像できないけど。
でも、私は知っている。
それは、ナオが転生の時に掲げた目的のひとつだ。
ナオの運命は、確実にそちら側に動いているのか。
ナオのところにも、今の話は届いているんだろうか。
ナオはどうするんだろう……。
「クウちゃん、くう?」
私が1人で考え込んでいると、ブリジットさんが串に刺したソーセージを私の目の前に持ってきた。
ぱく。
食べた。
「おいひい。ありがと」
もぐもぐ。
食べつつ、決めた。
明日、とにかくエリカのところに行ってみよう。
話を聞けば色々とわかるだろう。
「ま、なんにしてもクウが心配することじゃねーさ! 暗い顔すんなって!」
「そうそう。楽しくやろうぜー!」
それはそうか。
と、言えるほど他人事ではないけど。
とりあえずは明日だね。
明日!
明日から本気だそう!
「そういえばクウ。あの青い妖精を連れた子は、どうなったんだ? 貴族に連れて行かれて元気にしてるか?」
「あれ、ロックさんってスオナを知ってるんだ?」
「あの子、孤児院に何日かいただろ。その時に会ったぞ」
「そかー」
「みんなが心配してるんだよ。知ってるなら教えてくれねーかな」
「元気にしてるよ。来年から学院に通う予定。セラ――セラフィーヌ殿下と首席争いするみたいだよ」
私も会ってはいないけど、バルターさんから元気にしているとは聞いた。
嘘ではないだろう。
「そりゃすげぇな。……というか、クウ。おまえ、なんで、その、知り合いというか仲がいいんだ?」
ロックさんが言葉を隠しつつ私にたずねる。
セラのことだね。
「友達だからねー」
「友達ってな」
「それ以外に理由なんてないよー。むしろあったら嫌でしょ」
お金のためとか権力のためとか。
「ま、そりゃそーか」
わはははは!
と、いつものようにロックさんが豪快に笑う。
この後は騒いだ。
久しぶりにブリジットさんもいるので、ギャグ対決も盛り上がった。
いつもと同じ、楽しい夜だった。




