424 クウちゃんさまの9月
こんにちは、クウちゃんさまです。
突然ですが。
私、思う。
世界は平和だ。
何日か降ったり止んだりして曇っていた空も、今日は晴れた。
私はお店を頑張っている。
今は9月のおわり。
スオナの一件から、それなりに時間は過ぎていた。
最近は頑張ってお店を開いた。
おかげで、かわいいもの目当てのお客さんも戻ってきてくれた。
やっぱりアレだね。
何時やっているかわからないお店では、どうしても客足は遠のくよね。
「ありがとうございましたーっ!」
ぬいぐるみを買ってくれたお客さんをお見送りして、一息をつく。
売れ行きは好調だ。
当然ながら、私の精霊ちゃんぬいぐるみが一番に売れている。
ナオの銀狼ちゃんぬいぐるみとエリカの王女さまぬいぐるみは、その次に同程度の売り上げだ。
エリカのぬいぐるみは、最初こそ人気がなかったけど……。
それは、エリカが嫌われているというより――。
そもそもエリカの顔や姿を知っている帝国人はほとんどいないし――。
お客さんが、精霊ちゃんぬいぐるみと動物のぬいぐるみを目当てにしてお店に来ていたからのようだ。
エリカのぬいぐるみは次第に人気が出て、今では普通に売れている。
もっとも、エリカのぬいぐるみとしてではない。
お姫さまのぬいぐるみとして、だけど。
あと密かに人気上昇中なのが、ノーマル精霊ちゃんぬいぐるみだ。
ノーマル精霊ちゃん、略してノマちゃんのぬいぐるみは、動物ぬいぐるみシリーズを生成した時に棚から下ろしてそのままだった。
アイテム欄の在庫整理も兼ねて、最近、久しぶりに棚に戻した。
ノマちゃんは、精霊界にいる丸い子たちを模したものだ。
まんまるで、ふわふわで、それだけだと味気ないので、かわいい感じに2つの目をつけてある。
冒険者の人たちも、それなりに武具を買いに来てくれる。
評判になりすぎて殺到されると困るので、私もちゃんと、できるだけ、お値段相応に気をつけている。
まあ、うん。
「おい、店主という小娘はおまえか? 光栄に思え。おまえの噂を聞いた貴族のエクレア様が特別におまえとお話してくださるそうだ。さあ、早く来い! 今すぐに連れて行くぞ!」
というウェルダン二世みたいなおっさんも来たけど、
「うるせえ! チョコでも乗せて食ってろ!」
蹴っ飛ばして追い返した。
覚えてろ!
と、逃げていったので、うるせえ二度と来るな!と、さすがのクウちゃんさまも憤慨したのだけど。
結局、その日の内にエクレアが謝りに来たので許した。
エクレアは車椅子の女の子だった。
同い年くらいの病弱な子だ。
最近まで地方に暮らしていたのだけど、精霊の祝福が再び降りることを信じて帝都に来たとのことだった。
まあ、うん。
許した。
エクレア自身は、いい子に見えたし。
ウェルダン二世も土下座してきたし。
エクレアが欲しかったという精霊ちゃんぬいぐるみは売ってあげた。
ぬいぐるみには魔力でマーキングをしておいた。
で、夜、こっそりとエクレアの病気は治した。
精霊の祝福が降りたってことで。
次の日、ウェルダン二世が大喜びで私のところに来たのには辟易したけど、まあよかったね。
でも二度と権力を振りかざすんじゃねーぞ!
あとはバルターさんもお店に遊びに来た。
なんとびっくり。
エリカの希望していたお茶会が、11月の1日に決まった。
いや、うん。
正直、提案してみたものの、やらないと思っていた。
だって、アリーシャお姉さまが、ね。
お腹、プヨプヨなので……。
どうやら、エリカとディレーナさんをぶつけることで、アリーシャお姉さまを必死にさせる作戦のようだ。
私の生成したローカロリースイーツは、しばらく封印となった。
というわけで。
世界は平和なのだった。
夜はヒオリさんと、いつもの『陽気な白猫亭』だ。
今夜はなんとブリジットさんがいた。
ロックさんも一緒だ。
四人で一緒に食事を取る。
気のせいか、ロックさんが挙動不審だね。
「ねえ、ブリジットさん。質問してもいーい?」
「うん。いいよ」
「私は何番目でしょーか」
「ぶほっ! ゲホッ! ゲホッ!」
くくくくっ!
ロックさんが盛大に吹いた!
「お、おい……。クウちゃんさま……?」
「クウちゃんだけに、9番?」
ロックさんのことは気にせず、ブリジットさんが質問に答えてくれる。
「ざんねーん。私は100番でしたー!」
「ゲホッ! ゲホッゲホッ!」
「ロック殿? どうされました?」
「い、いや……。なんでもねーよ? 気にしないでくれ、ヒオリちゃん」
「それならばよいのですが……」
「私もまだまだ修行不足。どうしてクウちゃんが100番なのか、考えても答えが出てこない」
「ごめんね。これ、ダジャレとかじゃないんだー。ねえ、ロックさん、どうして私が100番なんだろうね?」
「ゴホッ!」
「あ、うん。だよね。ロックさんにもわからないよねー!」
わっはっはー!
「ねえ、クウちゃん。私は何番?」
ブリジットさんが自分から聞いてきた!
「んー。どうだろうねー。ロックさんに聞いてみようか?」
「ゲホゴホガホっ!」
「どうしてロックなの?」
「なんとなく? ねえ、ロックさん、知ってるー?」
ロックさんがさらにむせる!
私は笑いを堪える!
ヒオリさんは、気にせず食事に戻った!
「よー! クウちゃんとその仲間たち! 今夜も楽しそうだな!」
キャロンさんが私たちのテーブルに来た。
陽気な雰囲気の中――。
私はこの後、キャロンさんの口から、驚くべき噂を聞くことになる。




