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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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421/1360

421 スオナの一歩は





 バロット孤児院の前には、すでに馬車が止まっていた。

 豪華な馬車だ。

 下町の景色からは完全に浮いている。

 まわりには騎士の姿もあった。

 魔術師までいる。


 近所の人たちが、一体何事かと、遠巻きにして様子を窺っている。


 孤児院の子たちも同じだ。

 建物の中から、窓ごしに様子を見ている。

 アニーの姿もあった。

 この数日で仲良くなったのだろう。

 姿は消しているけど、アニーのそばに妖精のアクアもいる。


 スオナの姿は、孤児院の庭にあった。

 となりには院長先生がいる。


 そして――。

 正面には――。


 温厚な印象のバルターさんと――。


 豪華な衣装に身を包み、全身から威圧感を溢れ出させている、いかにも大貴族な中年の男性がいた。

 ディレーナさんのお父さん、アロド公爵だ。


「――スオナ、君には祖父の想いを継ぐという矜持すらないのかね? 君の祖父がどのような願いを込め、君を一流の魔術師に育てたのか、それすらわからない程に君は愚かなのかね?」


 アロド公爵が冷たくも厳しい眼差しを向けているのはスオナだ。


 スオナはうつむいている。

 小刻みに肩が震えているのがわかる。

 ――怯えている。


 私はその様子を、姿を消したまま、少し距離を置いた樹木の陰から見つめる。


「答えなさい、スオナ。君は愚か者かね?」


 容赦なきパワハラ質問がスオナにのしかかる。


「はい……。僕は愚か者です……」


 ああ……。


 うん。


 そう答えちゃうよね……。


「実家から逃げ出し、祖父が他界して逃げ出し、また逃げ出す。一体、君はどこまでその愚かさで逃げるつもりなのかね?」

「……申し訳有りませんでした」

「エイキス家は、長く帝国に仕える魔術の名門。君の祖父の代まで、その栄光は揺らぐこともなかった。私は悲しさを覚える。その名門の家が、私の代で途絶えようとしているのだ。君にはわかるかね? 一族の長として、私がエイキス家を失くさぬ為にどれだけの骨を折ったのかを」

「……申し訳有りませんでした」

「謝れとは言っておらぬ! 想像してみよと言っているのだ!」


 アロド公爵が怒鳴った。

 びくり、と、スオナが全身を震わせる。


「まあまあ、アロド殿。ここは孤児院。そのように声をあげては、子供たちが驚いてしまいますぞ」


 ここでバルターさんが取りなすように会話に入った。


 バルターさんが優しくスオナに語りかける。


 逃げたのには理由があるのでしょう?


 まずはそれを、素直に伝えてみてはいかかでしょうか?


 と。


 さすがは人格者。

 よい誘導だ。


 スオナ、がんばれ。


 まずは、ちゃんと言葉にしないと。

 相手にも伝わらない。


「……申し訳有りませんでした」


 だけどスオナは言えなかった。

 震えるばかりで、まったく頭が働いていない様子だ。


 幼年期のトラウマのせいなのだろう……。


 その恐怖が、心と体を縛ってしまっているのだ。


「何かあるのでしょう? 言わねば、伝わりませんよ?」


 私の言いたかったことをバルターさんが言ってくれる。


 だけど駄目だ。


 スオナは何も言えない。


「何もないのであれば、もういいだろう。君は連れて行く」


 あ。


 窓を少し開けたアクアが、その隙間から外に出てきた。

 姿を見せてスオナの肩に座る。

 心配したのだろう。

 まるで慰めるようにスオナの頬に触れた。


「……噂の妖精か。まさかこんなところにもいたとは。ふんっ。愚か者でも一族の役には立ちそうだな」


「スオナさんは、将来は何になりたいのですか? 言ってご覧なさい」


「……僕。……僕は」


 がんばれ!


「……申し訳有りませんでした」


 駄目だぁぁぁぁ。


 スオナぁぁぁぁ。


 どうするか。


 もう私もアクアみたいに飛び込んじゃおうか。


 スオナには神秘の探求っていうやりたいことがあるんだよぉぉぉ!


 って、代弁しちゃおうかぁぁぁぁ!


 …………。


 ……。


 いや、それは駄目だ。


 スオナが自分で言わないと。


 じゃあ……。


 私は見ているだけ?


 スオナがこのまま何も言えなければ、それでおわり?


 見捨てる?


 それともどこかに幽閉されたところを助け出して……。


 竜の里にでも連れて行く?


 カメ4号、爆誕させちゃう?


 甲羅は4つあった。


 まだひとつ、余っている。


 …………。

 ……。


 余ってないかぁぁぁ!


 だって4つ目の甲羅って、どう考えても私のだよね!?


 私だけ甲羅なしなんて悲しすぎるよね!


 あれは私の!


 カメになりたいわけじゃないけど!


 でも甲羅は譲れないよ!


 …………。

 ……。


 ふう。


 落ち着け、私。


 なにを無関係な甲羅で発狂しているんだ……。


 カメの王様に怒られちゃうぞ。


 こうらぁ!


 って。


 甲羅だけにね……。


 って、ちがーう!


 とにかく!


 スオナが恐怖に囚われているなら、その恐怖は私が払おう!

 かしこい精霊さんとして!

 友人として!


「リムーブフィアー」


 私はこっそりと、スオナに呪文を唱えた。


 スオナの体が、一瞬、薄く輝く。


 そして。


「ブレス」


 祝福を。


 スオナの体が、さらに一瞬、強く輝く。


 スオナは瞬きした。


 体の中から、すうっと、恐怖の感情が消えて――。

 正気に戻ったのだ。

 体の内側から力も湧いているはずだ。


「何かね、今のは」


 アロド公爵がたずねる。


「精霊の祝福が彼女に降りたのでしょう。この帝都には、大いなる精霊の加護が満ちております故」


 バルターさんが答える。


 うん。


 間違いなく、バルターさんにはモロバレだよね。


 手を出してごめんね。


 でも、これくらいならいいよね。


「さあ、スオナさん。貴女の気持ちを聞かせて下さい。どうして貴女はここにいるのですか? 何がしたいのですか?」


 恐怖は取り払った。

 力も湧いている。

 だけど、それだけじゃ、まだ足りない。


 前に進むには、あとひとつ、いる。


 そして、それだけは、スオナが自分の手で持たなければならないものだ。


「くくく……。ははは……」


 長い黒髪をかきあげて、スオナが笑い声を上げた。


「あー。この魔力には覚えがあるなぁ。どうやらお節介な友人が、僕のことを心配してくれたようだ」


 うん。


 そうだよー。


 姿は現さないけどねー。





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― 新着の感想 ―
クウちゃん...。橋で静かに暮らしていた子を巻き込んだんだから責任があるよ。陛下に任せたとしても事の発端はクウちゃんなんだし。 悩むことないでしょ。自分で撒いた種は自分でなんとかしないと。相変わらずい…
[一言] 影からサポート、クウちゃん。同じクウちゃんでも野生〇弾のクウちゃんだと・・・何ぬかしとんねん、ゴラぁー。尻からボリボリ喰っちまうど・・・クウちゃんだけに。
[一言] > 甲羅は4つあった。 甲羅カルテット
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