42 ゆ、ゆびが……。きれたー!
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「お母さま。お父さまにお願いする前に、ご相談したいことがあります」
「何かしら?」
「実はわたくし、魔術の適性があるようなのです」
「あら。ないのではなかった?」
「はい。たしかに以前はそうだったのですが、覚醒したようなのです――クウちゃんが教えてくれました」
「クウちゃん、それは本当なのかしら?」
「ん? なんですか?」
しまった。
またも聞いてなかったというか聞くことを放棄していた。
セラが補足してくれる。
「ああ、はい。それは確かです。セラには白い魔力の光――光属性ですよね? の魔力がありますよ。私、能力を使えば見えるので確実です」
「…………」
皇妃様は黙ってしまった。
どうしたんだろう?
さっきまでの楽しげな表情が消えてしまった。
「わたくし、学びたいのです。本当に光の魔術が使えるのなら、人々のために」
「それは多方面に大きな影響を与えることになるでしょう。ハイセルには伝えておきますから明日に相談なさい」
「はい。わかりました」
「それと、現段階では他言しないように」
「はい――」
「クウちゃんもお願いしますね」
「は、はいっ!」
さすがは皇妃様。
真顔で迫られると本気で怖いです。
「……あの、お母さま。あとわたくし、クウちゃんから剣を学びたいのですが」
「空いた時間に行うなら遊びの一環です。好きになさい」
「ありがとうございます」
場の空気が重くなってしまった。
私の一発ギャグ、「指が切れちゃった!」で場を和ませるか……。
やめとこう。
ナルタスくんは1人マイペースに食事をしている。
目が合うと微笑んでくれた。
「お母さま、僕、クウさんと結婚してもよいですよ」
「ぶっ!」
いきなりの発言に思わず噴き出した。
よかった口に何も入ってなくて。
「あらまあ。そうなの?」
「はい。お美しいですし、お可愛らしいですし、楽しい方なので」
「あらあら。これは大変ね」
「いや待って。私、かなり年上だからね!? しかも精霊だからね!? 結婚とか興味ないのでパスです!」
「わかりました。それでは辞退します」
ぺこりとおじぎして、ナルタスくんは食事に戻った。
「あら残念だわ」
「あはは……」
びっくりした。
すぐに話がおわってよかった。
「そういえば、セラフィーヌには意中の方はいるのかしら?」
「いません。わたくし、今は自分のことだけで精一杯です。それに出会う機会もありませんでしたし」
「そうでしたね。ごめんなさい。これからでしたね、セラフィーヌは」
「わたくしは当分先でいいです」
「あらダメよ。すでに婚約者のいるご令嬢も多いのだから、社交の場に出て自分の相手を探していかないと」
「そもそもわたくしに選択の自由はないと思うのですが」
「ハイセルは、意中の相手がいれば考慮すると言っていたわよ」
ナルタスくんのおかげで場の空気がまた明るくなって、セラと皇妃様は再び普通に会話を始めた。
ナルタスくんと目が合うと、また微笑んでくれた。
あれもしかして、場の空気を和ますために、あえて言ったのだろうか。
そんな気がする。
ナルタスくん、まだ幼いのに、実は切れ者かも知れない。
覚えておこう。
食事の後はメイドさんたちを連れて浴場に行った。
私は皇妃様とセラに競い合うように洗われた。
私、ただの人形。
されるがまま綺麗になりました。
お礼として、2人の髪を洗ってあげた。
2人ともさらさらだった。
さすがは皇族。
その後は湯船でゆったり。
皇妃様はプロポーション抜群だ。
しかも年齢不詳に美しい。
そのことを口にしたら、皇妃様は目を閉じてつぶやく。
「……わたくし、本当に祝福には感謝しているの。ずっと肌の具合が悪くてね、慢性的に疾患があったの。どうしても治らなくて絶望していたわ。だって、そうでしょう? 美を競う世界にいるのだもの」
「今は平気なんですか?」
「ええ。クウちゃんがもたらしてくれた祝福のおかげで若い頃と同じよ」
「よかったですね、お母さま」
「セラフィーヌも本当によかったわ。呪いが消えて」
「はい」
「えっと、私の力じゃないですからね? あれは全部、アシス様の力なので」
「ええ。でも、もたらしてくれたのはクウちゃんよね?」
「はい、それはまあ……」
「感謝しているわ。ありがとう」
あまり否定するのも失礼なので、受け取っておいた。
「クウちゃんは、セラフィーヌが光魔術を習得することについてどう思うのかしら」
皇妃様に問われた。
なんだか怖い質問だけど、正直に答えた。
「いいことだと思います。セラは立派な聖女になれます」
私には確信があった。
ユイには悪いけど、セラは聖女として申し分がない。
「それが大陸に1人しかいない特別な力だとしても?」
「よくわからないですけど、私もたぶん同じことはできるので平気ですよ。少なくとも1人だけじゃないです」
言えないけど、実はナオもいるしね。
「――そう。わかったわ」
湯船を揺らして、皇妃様が立ち上がる。
「よい時間だったわ。2人とも、また一緒に入りましょうね」
皇妃様が浴場を出ていき、私とセラは2人になった。
シルエラさんは普通に脇にいるけど。
湯船でまったりする。
沈黙が流れた。
セラは、私に話しかけて来ない。
「そうだっ! セラ、いいものを見せてあげるよっ!」
「……何ですか?」
物憂げな表情のセラを笑わせたくて、私は必殺の芸を披露した。
「ゆ、ゆびが……。きれたー!」
さあ、どうかな!
あれ。
再びの沈黙が、流れたよ……。
もしかして……。
白けさせてしまったのだろうか……。
と思ったら、違った!
「あああああああああ! 大変です! 何ということでしょう! クウちゃんの指がぁぁぁ! 指が切れてしまうなんてぇぇぇぇ! シルエラ! シルエラ、早く水魔術師をここに!」
「ちょーっと待ったぁぁぁぁぁ!」
「何を言っているのですか、クウちゃん!」
「見て! これを見て!」
私は指を見せた!
「え。あの」
私の指が健在なことを知って、セラは落ち着いてくれた。
「芸! 今のはね、芸なの!」
「え。芸……?」
「うん! 指が切れちゃうフリの芸! ほら、こんな感じにね!?」
私はネタバラシをした!
セラは納得してくれた!
「く、くくく、クウちゃん……」
「うん。ごめんね」
「何ということでしょう! わたくし、完全に騙されてしまいました! クウちゃんの芸は、まさに真実を超えた真実なのですね! わたくしは今、そのあまりの素晴らしさに感動すら超えて――。体が震えるのを感じます!」
「う、うん……。ありがとね……?」
「ああ! わたくしはこの気持ちを、どう表現すればいいのでしょうか!」
「まずは落ち着こうか。ね」
ともかく、セラは元気になってくれた。
よかったよかった。
お風呂から出る。
前回と同じように私の服は洗濯に持っていかれていた。
用意されていた下着とパジャマを着用する。
廊下を歩いてセラの部屋に戻る。
部屋に戻った後は、今日の復習。
……をセラにお願いした。
セラは学んだことをしっかり覚えていて、噛み砕いて私に教えてくれた。
ありがたや。




