419 現実的に
「とりあえずお腹空いたね、なんか食べようか」
気を取り直して、私は笑った。
話に夢中になりすぎて、気がつけば夜だ。
私はアイテム欄からまずは布を取り出し、床に広げてから、その上に屋台料理の数々を並べた。
「さあ、セラもスオナもどうぞ」
「ありがとうございます、クウちゃん。いただきます」
「……これは豪華だね。僕もいただいていいのかい?」
「どうぞー」
夕食になった。
「スオナさんは、普段は何を食べられているのですか? 家を見る限り、食べるものはないようですけれど……」
「このあたりでは精霊神殿の施しがあるし、ガラクタを売ったお金でパンくらいは買えるから、生きていくことはできているよ」
「そうなんですか……」
「セラのお父様のおかげで治安も良いし、慣れれば快適なものさ」
スオナの人生は、なかなかに波乱万丈だ。
私は、セラとスオナの話を聞きつつ、どうしたものかと考えていた。
さすがは私。
いい案は、なにも浮かばないけど。
「わたくしがお父様にお願いしてアロド家に口を利きましょうか? 最近では随分と関係も緩和されているようですし、上手くいくかも知れません」
「いいね、それ! 名案かも! 私も手伝うよ!」
そうだよね。
まずは当事者にお願いしてみよう。
「クウちゃんが手伝ってくれるなら千人力ですね! いえ、もはや成功は約束されたようなものです! よかったですね、スオナさんっ!」
「……気持ちは有り難いけど、遠慮しておくよ」
スオナが肩をすくめる。
「どうしてですか?」
「だってそれじゃあ、皇帝が僕の身柄をアロド家から奪って、保護しているのと同じになってしまうよ。解決どころか軋轢になるよ。関係が上手く行っているのなら尚更皇族が関わるべき問題ではないよ」
「う。……それは。……そうかも知れません。すいませんでした」
セラがうなだれてしまう。
うーむ。
でも確かに、スオナの言うことには一理あるか。
難しいね。
「酷い方のようですが、お兄さんがいるんですよね? たとえば、そちらの方がエイキス家を継ぐというのは?」
「それは無理だね。アレは好き放題した結果、犯罪者として身分を剥奪されて帝都追放済みさ。復帰の芽はないよ」
「そうなんですか……」
「おっと。悲しんでもらう必要はないよ。自業自得だからね。ざまぁさ」
ちなみにミルは話に飽きて今は食事に夢中だ。
アクアと一緒に仲良く食べている。
「では、公爵と交渉して、婚姻は取り消し、家は単身で継ぐという方向を目指してはどうでしょうか?」
「それも難しいよ。僕の話なんて聞いてもらえないよ。というか……」
「なにかあるのですか?」
「僕は駄目なんだ。父や義兄のような人間を前にすると、どうしても恐怖で身がすくんで、なにも言えなくなってしまうんだ」
「わたくしが仲介を――」
「それだと、さっきの話と同じで軋轢の元になるよ」
「そうですね……。すいません……」
「僕としては、しばらくこうして隠れ住んで、ほとぼりが冷めた頃に帝都を出てどこかに行きたいと思っているよ」
「当てはあるんですか?」
「当てはないけどね。僕は世界で、神秘の探求をしてみたいんだ」
ふむ。
「ねえ、スオナは冒険者になる気はないの?」
私はたずねた。
「冒険者か。いいね。でも、身元が割れてしまうからね。難しいかな」
あーそかー。
鑑定が必要なんだよねえ。
町の子供たちとパーティーを組んで、というのも考えたけど。
そもそも無理か。
それ以前に、実力が違いすぎて合わないだろうし。
ジルドリア王国かリゼス聖国でなら、エリカかユイに頼んでゴリ押しでどうにかなりそうだけど。
ただ、私としては――。
家を継ぐにしても、継がないにしても。
どこで生きるにしても。
なにをするにしても。
できれば、きっちり話をつけてほしい。
逃げたままでは、人生、楽しめないよ。
ただ、それを口にするのは、正直、憚られた。
身寄りのない少女が大貴族の当主に相対するなんて、スオナが言う通り、とても無謀なことだ。
とはいえ、私に任せろ! とも言えない。
なにしろ私は皇帝一家と親しい。
すっかり仲良しだ。
勝手に動いてアロド家と揉めれば、かなりの迷惑になるだろう。
結局。
いろいろと話をするだけで、その日はスオナとお別れした。
姿を消して、空を飛んで……。
大宮殿に戻ると、夜9時を過ぎていた。
着地した願いの泉のほとりには執事さんたちが待っていた。
私とセラは連行された。
陛下と皇妃様にこってり絞られたのは……。
言うまでもない結果でした……。
ごめんなさい。




