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417 スオナの半生




 まずは妖精のことをしゃべった。

 とはいえ、私にもセラにも説明できることは少ない。

 そもそも秘密にするべき事柄が多い。

 特に妖精郷のこととか。

 と、思ったら、ミルが普通に妖精郷から来たことを言ってしまった。

 スオナが大いに興味を持って、ミルにあれこれ質問をする。

 あっという間に、妖精郷のことから始まって、果実の取り引きまでもがスオナに知られてしまった。

 加えて、セラがセラフィーヌだということも。

 私が精霊ということも。

 それはもう、全部、ミルが調子よくペラペラとしゃべった。

 正直、止めることはできた。

 セラからも、そろそろ止めたほうがいいんじゃないでしょうか、という視線を向けられていた。

 ただもう途中から、いいかなーと思った。

 なぜなら私は、スオナと友達になりたいと思っている。

 となれば、どうせ知られることだ。

 それならば、最初から知っておいてもらったほうが楽というものだ。


 スオナは驚きながらも熱心に話を聞いた。

 スオナが話の内容を疑うことはなかった。

 妖精が自らの口で語っているのだ。

 それは当然だろう。

 もっとも、私とセラの素性については、さすがに聞き返されたけど。


 ともかく話はおわった。


「ありがとう。実に興味深い話だった。しかし、困ったな。一体、僕はどうすればいいんだろうか」


 腕組みしてスオナが首をひねる。

 何のことかと思えば、私たちとの接し方だった。

 そこは今まで通りでお願いした。

 セラに対しても普通に接してもらうように頼んだ。


「では、そうさせてもらおう。知り合ったばかりの僕に包み隠さず話してくれたことに改めてお礼を。情報については秘匿することを誓うよ。誓ったところで今の僕には賭ける名誉もないがね」

「……そのことなんだけど、どうしてこんな暮らしをしているの?」


 スオナは、外見だけで言えば、みすぼらしい少女だ。

 長い黒髪はボサボサ。

 身につけた衣服は古びている。

 体躯は華奢で、しっかりと栄養が取れているようには見えない。

 だけど目には光がある。

 知性も高い。

 何より魔術師として、完成された腕前を持っている。

 明らかに高度な教育を受けてきた子だ。


「そうだね……。面白くもない話だが、では、聞いてくれるかな?」

「うん。聞かせて」

「では、まずは自己紹介を、僕の本名はスオナ・エイキス。少し前までは中央貴族の娘として贅沢に暮らしてきた者さ」

「……エイキスとは、エイキス子爵家のことでしょうか?」

「ああ。そうさ。セラには聞き覚えのある家名なんだね」

「はい。あの……」


 どうしてかセラは言い淀む。


「はははっ! 安心してくれたまえ。さっきも言ったが、僕は陛下には感謝こそすれ恨みなどないよ。何しろうちの両親は、僕の目から見ても、明らかに頭のおかしな人達だったからね」

「へー。どんな風におかしかったの?」


 さすがはミル。

 なんの遠慮もなくたずねた。


「選民意識が服を着て歩いているような存在だったのさ。

 それでも祖父が存命の間は事件になるほどではなかったんだけどね――。

 祖父が他界してタガが外れて。

 やりたい放題になって。

 ついには呼び出した商人に支配の首輪を嵌めて――。

 財産を奪うという蛮行まで犯してね――。

 結果、家は取り潰し。

 財産も没収されてめでたしめでたしというわけさ」


「なんか、すごいね。……その商人さんは無事だったの?」

「ああ、幸運にも。財産も返却されたそうだよ」


 エイキス子爵家は魔術の名門で、多くの当主が帝国魔術師団で高い地位を得てきたのだそうだ。

 先代であるスオナのおじいさんも副団長という地位に就いていた。

 セラも名前は知っていたそうだ。

 ただ、スオナの父親には、まるで才能がなかったらしい。

 その劣等感を隠すために選民意識が肥大化してしまったのだろうとスオナは冷静に分析していた。


 話の途中で暗くなってきたので、私は照明の魔法を使った。


「僕は父がメイドに産ませた子でね。

 生後すぐに母と共に家を出されて、仕立て屋での仕事を与えられて地味に暮らしていたそうなんだけど――。

 幸か不幸か、魔術の才能を父方から受け継いでしまってね。

 3歳の時に魔力覚醒して、家に呼び戻されたのさ。

 正妻と義理の兄からは虐待されたものだよ。

 母から受け継いだこの黒髪は、本当にバカにされたものさ。

 祖父が助けてくれなければ、僕はとっくに死んでいたね」


 おじいさんに助けられてからのスオナは平和だったそうだ。

 実のお母さんと共におじいさんの邸宅に引き取られて、そこでおじいさんから魔術を学んだ。

 おじいさんの指導は厳しく、魔力枯渇で倒れるのは日常だったそうだ。

 ただ、苦しくはなかったらしい。

 実のお母さんもスオナが魔術師になることを応援してくれていた。


 実のお母さんは残念ながら、おじいさんよりも先に病気で他界してしまったそうだけど。

 水の魔術は、傷を塞ぎ、損傷部位を修復し、痛みを和らげることはできても、病の根源は消せない。

 どうにもできなかったそうだ。


「そういえばセラは、噂通りの聖女様――光の魔術師なのかい?」

「はい。そうです」

「そうかぁ。ねえ、セラ。光の魔術でなら病の根源も治せるのかい? 噂では治せるというよね?」

「それは……。クウちゃん、どうでしょうか?」

「治せると思うよ。セラも覚えたはずだよ」


 光の魔法には病気専門の魔法がある。


「ああ、そうでした! キュアデジースですね!」

「そうそう。それそれ」

「あるのかぁ。セラとは、あと何年か早く出会っていたかったよ」


 スオナのその言葉に、セラは小さな笑みだけで答えた。

 私と出会う前。

 セラは呪われて苦しんでいた。

 それは世間には隠されている事実だけど。


「ねーねー。それで、スオナはおじいさんが死んじゃった後、どうしたの?」


 好奇心旺盛なミルが話を急かす。


「祖父が死んだ後、僕はすぐに居場所を変えた。

 祖父の頼みを受けて、知人の女性が僕を密かに引き取ってくれたんだ。

 僕は帝都を出て、地方の町に住んだ。

 彼女の元でさらに魔術の腕を磨いた。

 でも、そんな折、エイキス子爵家断絶の報せが届いてね。

 彼女は僕をさらに逃してくれようとしたけど――。

 その頃には僕にも考える力はあったから。

 さすがに迷惑になるから、あきらめて拘束されることにしたんだ。

 僕は連れて行かれて。

 結果として、血の繋がりのある他の貴族家の庇護下に置かれた。

 大貴族だったから驚いたよ」


「……なんという家だったのですか?」


 セラがたずねる。


「アロド公爵家さ」


「ぶほっ!」


 瞬間、私はむせた。


 知っている家だったぁぁぁぁぁ!


 ディレーナさんのところだぁぁぁぁぁぁぁ!





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