414 神秘の探求者
「あ、この子はセラね。うしろにいるのはメイドのシルエラさん」
「セラです」
私が紹介すると、セラがぺこりとお辞儀をした。
そんなセラをスオナがまじまじと見つめる。
「君たちは2人とも魔術師なんだね。これは本当に驚いた」
「ねえ、君って何歳?」
私はたずねた。
「11だけど」
「やっぱりかー! 同い年だね!」
外見的には!
「それは運命的だね。何か導かれるものでもあったのかな」
「ねえ、友達になろう!」
「いきなりだね」
「ここで出会ったのも何かの縁だよね!」
そう。
先日、ヒオリさんと話していたのだ。
ヒオリさんはサポート枠ということで除外すると――。
私には水系の友達がいないね、と。
もしかしたら、出会いがあるかも知れないなーと思っていたのだ。
そして、出会った。
これはもう、友達になるフラグ成立だよね!
「しかし、君たちは良家のお嬢様だろう? 見ての通り僕は貧乏人でね。下層生活の真っ只中さ。残念だけど、いろいろと釣り合わないと思うよ。一期一会ということにしておこう」
「そこをなんとか! ね? ね?」
「クウは押しが強いね。彼女は、いつもこうなのかい?」
スオナがセラにたずねる。
「そうですね。クウちゃんはだいたい、いつもこうですよ」
「それは困ったね」
頭を掻きつつ、スオナが顔をしかめた。
「スオナさんは、こんなところで何をしている――。いえ、どうして死霊に魔力を与えているんですか?」
「良い質問だね。どうしてだと思う?」
「それは――。犯罪のため、ではないのですよね?」
「どうだろうね」
「でも貴女にも、その死霊にも、敵意はありませんよね」
「悪意はあるかも知れないよ」
おっと、いかん。
友達どうこうの話をするのは、まだ早すぎたか。
まずはスオナが死霊相手に何をしているのかを知らねば、だよね。
「ねえ、もしかしてさ。死霊を育てて、悪いことをさせようとしているの?」
私は念のために確認してみる。
「君たちは僕の妖精さんを死霊と断じているけど、根拠はあるのかい?」
「私には色でわかるんだよ。それに、ここに本物がいるけど、見た感じからして全然ちがうでしょ?」
「見た目なんて存在の本質ではないよ。でも、とはいえ、君たちの言う通り、この子は死霊だけど」
スオナが黒い影に向き直る。
私たちが現れても、子犬のような黒い影に変化はない。
揺らめくのみだ。
敵感知が反応することもなかった。
「この家にはね、10年前まで老人が暮らしていたそうだよ。老人が他界した後は相続人もおらず、放置されていたようだ。
この子と出会ったのは、何か金目のものはないかとこの廃屋に初めて忍び込んだ夏の始めなんだけどね――。
ちょうどこの場所に小型犬の死骸があって、放置しておくのも可愛そうだから庭に埋めてあげたんだ。
でも霊魂は残っててね。
最初は、ほんの微かな、ただのモヤみたいな揺らぎだったんだけど……。
話しかけても反応はなかったんだけど、交流を模索する内、魔力を受け入れてくれることを発見したのさ。
今ではこんなにも鮮明になって、輪郭までハッキリとしてきている。
実に興味深い結果だろう?」
「……育つものなんですね。たしかに不思議です」
「だねー」
セラの言葉に私はうなずいた。
「きっと、老人とは仲がよかったんだろうね。だからこうして、肉体が朽ちて死霊となっても尚、人間や生物に憎悪を抱くこともなく、ただ静かに1人で、老人の帰りを待っているのだろう」
「それはわかるけど……。育てるのは危険じゃない? 力をつけたら襲われるかも知れないよ? 魔力の美味しさに味をしめて」
「その時はその時さ。僕には特に失うものもないしね」
「自分の命があるでしょ」
「ああ、それはそうか。うん、そうだね。命は失うね」
たいしたことのないように納得された。
「やめといたほうがよくないかな……?」
「残念だけど、見つかった以上はやめるしかないのが現実的だろうね。なにしろ僕は不法侵入者だ。あれ、でも、それは君達も同じかな?」
「まあ、それはね」
「それはよかった。お互い様だね。そうだ。いっそ、僕と一緒にこの子を育ててみる気はないかい?」
「んー。正直、浄化すべきだと思うよ」
今は大人しくても、成長すればどうなるかわからない。
自発的に魔力を求め出したら大変だ。
確実に事件になる。
私は、そのあたりの心配をスオナに伝えた。
「しかし、それは、犬は噛み付くから危険というのと同じだよね?」
「犬はしつけができるけど……。死霊はどうなんだろ……」
「ふむ。それはそうか」
「試してみたら?」
「いいのかい?」
「いいよ。せっかくだし、やってみなよ」
「ありがとう。では」
スオナが死霊に語りかける。
「ねえ、僕のかわいい妖精さん――。
僕の話を聞いておくれ」
スオナは子犬のような死霊に手のひらを差し出す。
そして、言った。
「お手」




