411 クウちゃんさま、からかう
「よう、おまえらここにいたのか。怪我とかしてねーかー」
空き地にロックさんが来た。
呑気な態度だ。
「やっほー」
私は手を振った。
「クウ? なんでおまえまで、こんな裏路地にいるんだ? また狙われるぞ。そんなお嬢さんまで連れて。て、おい……。その子、どっかで見たような気がするな……どこの誰なんだ?」
セラに気づいたロックさんが、訝しげな目を向ける。
「そんなことより、そっちこそどうしたの?」
「院長先生が、子供たちが負けたら奴隷になる勝負に行っちまったっていうから様子を見に来たんだよ」
「あー。なるほどー」
「で、この様子だと、勝ったのか?」
「んー」
なんと言えばいいのか。
私が迷っていると、
「「「兄キー!」」」
声をそろえて、アニーたちがロックさんの元に駆け寄った。
「おまえら、怪我はしてねぇようだな」
「あったりまえさ! アタシらは兄キに鍛えてもらって最強だからな! それよりも兄キ! アタシ、将来って美人になるのか? 10年経ったら兄キの101人目のカノジョにしてくれるか!?」
他の子たちも、男女問わず、102人目! 103人目! と立候補する。
本当にモテモテだ。
「またその話かよ。おまえらなぁ……」
「だってクウが言ったぞ! アタシは美人になるって!」
「ねえ、ロックさん」
「おう。どうした、クウ。……なんか怖いくらいに笑顔だな、おまえ」
「ブリジットさんって、何人目なの?」
私はにっこにこでたずねた。
「おまえ……。それはまさか……」
「まさかもなにも、ねえ? 私、100人目なんだって? いやー、聞いた時には驚きました」
「いや、それは、な? わはははははは」
目を逸らして笑って誤魔化しましたよ、天下のSランク冒険者が!
「兄キってホントすげーよな! 正直さ、兄キから話を聞いた時、空色の髪の美少女なんているわけねーだろって思ったけど、ちゃんといたし! しかも、本気で綺麗なお嬢さまだし! こんな子が泣いて頼んでカノジョにしてほしいって言ってきたんだよな! 兄キはやっぱ最高!」
うわ。
アニーたちによる、さ・い・こ・う! コールが始まった。
「……あ、あのな、クウ。……つまりだ。言葉のアヤってやつでな……」
「で? ブリジットさんは何人目なの?」
「いや、それは、な……」
「あ、ごめんねー。数が多すぎてわかんなくなるよねー。あとでブリジットさんに何人目か聞いてみるよー」
「なんでもするからそれだけはやめてくれー! ていうかクウ! おまえ、そのわざとらしい笑顔、わかって言ってるだろ!」
「あははー。わかんないよー。私、純真な子供だしー」
もう少しからかってやろう。
私は肩をすくめて、そっぽを向いた。
「勘弁してくれよー! 俺が悪かったからー!」
両手を合わせてロックさんがひたすらに頭を下げてくる。
ふむ。
そこまでブリジットさんにはバレたくないのか。
「じゃあ、何人目か教えてくれたら、特別に聞かないであげるよ」
「だぁぁぁぁぁぁ! 今夜も奢りにするから勘弁してくれよぉぉぉぉぉぉ!」
そこまで困るなら言わなきゃいいのに。
とは思うけど、うん、まあ、あるよねこういうの。
それはわかる。
しょうがないので、許してあげるか。
あと少し楽しんだら。
と思ったところで、セラがロックさんに話しかけた。
「――Sランク冒険者ロック・バロット。お会いするのは式典以来ですね」
あれ、セラの様子がおかしい。
皇女様モードだ。
「あ。え?」
ロックさんはわずかに戸惑って、気づいた。
「こ、これは皇――!」
「今は、ただのセラで結構ですよ」
「……セラ様。……どうして、こんなところに?」
「ここに来たのは、ただの成り行きです。お気になさらず」
「はぁ……」
さすがのロックさんも皇女様には恐縮するようだ。
「それで?」
セラがにっこりと言う。
「それで……とは……」
戸惑いつつもロックさんが聞き返す。
「ロックさんは、わたくしの一番のお友だちであるクウちゃんとは随分と親しいご様子ですが、一体、どのような経緯で100人目などにしたのですか? 詳しくお話し下さいませ」
「いえ……。それはさっきも言ったように……ですね……」
それはただの見栄で嘘なんですと言えば済む話なのかも知れないけど、近くにはアニーたちがいる。
見栄で嘘とは言い難い状況なのだ。
まさに絶体絶命。
挙動不審のロックさんが面白すぎて、私は笑えてきた。
というか、笑った。
「あははははは! ロックさん、カッコいいー! 最強ー! ねえ、ほら、早く教えてよー私も気になるー!」
「くぅぅぅ。てめぇ、覚えてろよ……」
「残念だけど、クウちゃんだけに、くぅぅぅぅは私の専売特許なので、ロックさんが言っても無駄だよ?」
「ふふ。本当に仲良しなんですね。さあ、お話し下さいませ」
セラの圧力が強まる。
ロックさんは、「う」とたじろいだ後、ついに四つん這いに倒れた。
「……クウぅぅ。……なんとかしてくれぇぇ」
はぁ。
しょうがないなー。
「セラー、それはただの冗談だから気にしなくていいよー。そもそも私、そういうの興味ないしー」
「そうなんですか?」
「うん。今は、セラたちと遊んでいるのが一番楽しいし」
「わたくしもですっ! クウちゃんと遊んでいる時が一番ですっ!」
「あはは。だねー」
セラは機嫌を直してくれた。
「ほらロックさんも立って」
「ふう……。助かったぜ、クウ」
「これに懲りたら、いろいろと控えめにね」




