410 クウちゃんさまは恋愛マスター!
「はーい。みんな、集まってー」
パンパンと手を叩いて私はみんなを集めた。
アニーたち孤児院の子も、ダイルたち町の子も、両方だ。
「えー、というわけで、これよりこのクウちゃんさまが、答え合わせをしてあげようと思いまーす」
「はぁ? なんだよそれ。いいから邪魔するなよー」
アニーが文句をつけてくるけど、私はまあまあと笑顔でいなす。
大人の余裕なのだ。
みんなが集まったところで私は語る。
「つまり、若気のいたりなのです。いいですか、アニーさん。こちらのダイルくんはアニーさんのことが大好きなのです。でも、素直に好きということが恥ずかしくて出来なくて、代わりに、どうにかアニーさんに自分を見てもらうために悪い言葉を使ってしまっていたのです」
と、こういうことだよね。
私にはわかる。
わかってしまったのだ。
伊達に前世で大学生をしていたわけではないのだ。
ふふ。
ダイルが顔を真っ赤にして、そんなわけあるか!と怒っております。
若いね。
まさに男子小学生の反応だ。
「え? なに? どういうこと? こいつが、アタシを大好きだって?」
「誰がおまえみたいなオーク女! オーク女! オーク女!」
「はぁ!? 自分のツラみて言えや! このゴブリン野郎!」
「なんだとぉぉぉ!」
「ぶちのめしてやる! かかってこい!」
「まあまあ、2人とも」
私は再び、2人を引き離した。
「ダイルも恥ずかしい気持ちはわかるけど、そんなんじゃ、いつまで経っても仲良くなれないよ?
「だからなんで俺が!」
「あーはいはい、少し黙っててねー。麻痺」
「ぎゃっ」
小さな悲鳴を上げて、ダイルが地面に崩れ落ちた。
ついでに仲間の子たちも倒れた。
ごめんね。
数分だけ痺れて待ってて。
仲間の子たちも邪魔になるといけないから、ついでにごめんね。
「アニーも腹が立つのはわかる。ホント、男子ってどうしようもないよね。でもここはひとつ、大きな心を持って、まずは一点、ダイルの純粋な心だけは認めてあげようじゃないですか」
「……ってもよお。こいつ、悪口ばっかりじゃん。アタシのこと、オークとか言ったぞこいつ! ゴブリンのくせに!」
アニーは怒りの収まらない様子だ。
「そうなんだけどねー。困ったもんだよねー。アニーは日焼け肌が素敵な行動系美少女なのにねー」
「美少女はいいよ。アタシが、クウやそっちのお嬢さまみたいじゃないのは自分でもわかってるからさ」
「ジャンルが違うだけだよー。私とそこのセラはたしかにお嬢さま系だけど、アニーは自然派。太陽の下がよく似合う美少女でしょー」
「え。そ、そうかな?」
「そうなのです」
私は真面目にうなずいた。
アニーは、その手のゲームなら必ず1人は出てくるボーイッシュ元気タイプの美少女に間違いない。
しかも、不良属性と悪友属性がついている。
豪華なのだ。
「で、でも、ロックの兄キには10年早いって言われて」
「10年経ったらすごいってことだよね」
「……そ、そうなのか?」
私だけでの同意では、ちとパワー不足のようだ。
「うん。ね、セラ」
というわけで、セラにお願いしてみる。
「え。わたくしですか!?」
「セラもそう思うよね?」
「はいっ! もちろんですっ!」
「ほら」
私の友達もそう言ってるよ。
「っても、それならアタシ、兄キがいいし……。兄キ以外の男なんてカッコ悪すぎて興味ねーし……」
そう言えばそうか。
アニーは、ロックさんが大好きだったね。
「じゃあ、断ろう。ちゃんとしてあげたほうがダイルの為だしね」
「はぁ……。わかったよ……。しゃーねーなー」
ため息をついて、アニーがダイルのそばにしゃがんだ。
ダイルは麻痺したままだ。
ごめんね。
もうすぐ解けるから。
「なんつーかさ、好意は嬉しいけど。
いや、全然嬉しくなかったけど。
おまえって、アタシの中ではただのゴブリンなんだよなぁ。
うるせーし、噛み付くし。
わりぃな?
そういうわけだから、アタシのことは忘れてくれよ。
まあ、なんだ。
おまえが実はアタシのことが大好きだったってことに免じて、さ。
今までのことは忘れてやるからよ」
アニーが私のところに戻ってくる。
「これでいいか、クウ?」
「うん。オーケー」
ぱちぱちぱち。
私は拍手で頑張ったアニーを讃えた。
セラも拍手をしてくれる。
「さすがはクウちゃんですっ! 恋愛なんて、とても難しくて大変な問題のはずなのに、ここまで見事に簡単に解決してしまうなんてっ! わたくし、感動のあまり拍手が止まりませんっ!」
「いやー。あははー。まあねー」
「さすがはクウちゃんですっ! 恋愛マスターですっ!」
「もう、やめてよー、セラー。恥ずかしいからー」
でも、うん。
私ってすごいよね。
わっはっはー。




