409 ケンカの本音?
「なあ、もしかして、お嬢さまってクウって名前か?」
「え。あ、うん。そうだけど」
対決の場所へ向かう道中、アニーに唐突に聞かれた。
そう言えば、自己紹介をしていなかった。
「やっぱりかー! 実は、そうじゃないかと思ってたんだよー! だって、そんな空色の髪をしたヤツ、そうそういないよな!」
「もしかしてロックさん?」
なにか私の噂話でもしていたのかな。
俺の知り合いに、空色の髪の超絶美少女がいる、とか。
「うん。そうそう!」
アニーは満面の笑みでうなずいて、こう言った。
「クウって、ロックの兄キに泣いて頼んで100人目のカノジョにしてもらったんだよな!」
なにやら、とんでもない話が飛び出しましたよ。
「クウってアタシと同い年くらいだろ? いいよなー。羨ましいよー。アタシなんて10年早いって言われたのに。アタシもクウくらい美人で可愛かったら、101人目になれたのになー」
「……アニーさん、その話、詳しく聞かせていただけますか?」
「セラ、声も目も怖いよっ!」
「クウちゃん!? まさか真実なんですか!?」
「いや、そんなわけないよね?」
わかるよね?
「それならどういうことか聞かないといけませんね……。事の次第によっては、どのような手段を使ってでも……」
「だからセラ、声も目も怖いからねっ!」
「兄キってホント、すげーよなー。アタシも尊敬してるんだー」
「クウちゃん、真実なんですか!?」
「ちがうからね? そもそもロックさんって、だいたい毎晩、行きつけのお店で深夜まで騒いでるんだよ? そんな人間がいつどこで彼女100人とか作って相手しているのかという話だよね」
これはロックさん、子供たちに見栄を張りまくっているね。
ロックさんがモテるのは確かだろうけど、未だにブリジットさんすら彼女にできていないチキンだし。
子供たちに最強だのカッコいいだのモテモテだの言われて否定できなくなった結果にちがいない。
ていうか、せめて10人にしておけばいいのに。
しかし、これは面白い。
ククク。
今度、ブリジットさんのいる前でネタにしてやろう。
どんな反応をするのか楽しみだ。
さて。
対決の現場に到着した。
空き地で待ち構えていたのは同年代の子供たちだ。
人数はアニーたちと同じで6人。
ただ、相手は全員が男の子だ。
アニーたちは、女の子が4人で、男の子が2人。
性別の分、不利かな?
でも10歳前後なら大した差はないか。
「よう、ダイル。来てやったぞ」
「待ってぞ、アニー。どうせ逃げるかと思ってたのに、よく来たな」
真ん中にいたダイルと呼ばれた男の子がアニーに声をかける。
「はんっ。誰が逃げるか。今日は特におまえをぶちのめして二度とアタシらの悪口を言えないようにしてやる」
「俺が勝ったら……。その、わかってるよな……?」
あれ。
気のせいか、ダイル少年から敵意を感じないね。
むしろ照れているような態度だ。
「わかってるよ! 奴隷でもなんでもやってやるぜ!」
「はぁ? なんだよ奴隷って」
「おまえが言ったことだろうが! この人でなしのロクでなしが!」
「言ってねーし。おまえ、なに言ってんだ? 俺がその、おまえに言いたいのはそういうんじゃなくて――」
「うるせぇぇぇぇ! やっちまえええええ!」
「おおおおお!」
木剣を振り上げたアニーたちが、男の子たちに襲いかかる!
「ちょっと待ったぁぁぁぁぁ!」
私はあわてて真ん中に入って、両手を広げた。
「なんだよ、邪魔すんなよ、クウ。クウに怪我でもさせたら、アタシが兄キにぶん殴られちまうだろ」
アニーが足を止めて不満げに唇を尖らす。
「いやいや、待ってね? なんか私が思うに、重大な誤解が発生しているような気がするんだけどね?」
「そんなもんあるか! こいつら、いつもアタシらのことをバカにしてきて、もう我慢の限界なんだよ!」
「まあまあ」
私がアニーをなだめていると、ミルが男の子たちの方に飛んでいった。
「みんなー! ひさしぶりー!」
「あれ、おまえ」
「ミルだよー! 今日も遊びに来たんだー!」
どうやらミルは、空き地にいた男の子たちと知り合いのようだ。
と、男の子たちがセラのことに気づいた。
男の子たちがざわつく。
なんだろか。
さすがに普通の子供が一目でセラの正体を見抜くとは思わないけど。
知り合いでもない限りは。
ダイルが、まるで降参するように両手をあげた。
「きょ、今日は日が悪いなっ! 俺、やーらないっと! 俺、喧嘩なんてするつもりないからなー!」
空き地にいた男の子たちが、次々と同じような態度を取る。
「はぁ! なんだよおまえら! 今さら怖気づいたのか!? おい、かかってこいよダイル!」
「……おい、やめとけって。……俺の負けでいいからさ」
「なんだそりゃ! 納得できるか!」
「……いいから頼むよ。な?」
ダイルが怯えた様子で、意気旺盛なアニーをたしなめる。
あーこれ。
ダイルたちはセラの正体を知っているね。
明らかにセラを気にしている。
「ねえ、セラ――」
「彼らは以前、ミルちゃんを騙して売ろうとした子たちです。際どいところでわたくしが駆けつけましたが」
「なるほど」
そういえば、そんな話は聞いていた。
この子たちなのか。




