405 セラとお店
「クウちゃーん! 来ましたーっ!」
「おはよー」
「おはようございます、セラ殿、ミル殿」
今日は朝からセラが私のおうちに遊びに来た。
昨日、大宮殿から遣いの人が来たので、来ることは知っていた。
「セラも一緒にどう?」
私とヒオリさんは、お店のテーブルでまだ朝食の途中だった。
お店で食事って行儀はよくない気もするけど、こうして誰か来た時に便利なので習慣づいてしまった。
「あ。すいません、わたくし、早すぎましたね……」
「あはは。それはいいんだけどねー」
セラは、朝食は済ませてきたみたいなので少し待ってもらう。
ぱくぱく。
もぐもぐ。
ごちそうさま。
ヒオリさんは今日も学院だ。
「それでは行ってまいります」
「いってらっしゃーい」
ヒオリさんを見送って、お店でセラと2人になる。
正確にはシルエラさんがいるし、たぶん、外には忍者な人たちも潜んでいるのだろうけど。
あと、姿を消してセラの肩に座っている妖精さんもいるか。
つまみ上げて、にっこり。
「さすがはクウ様。バレちゃうかー」
「逆になんでバレないと思ったのかなー?」
そもそもヒオリさんが普通に挨拶していたよね。
「ごめんなさいクウちゃんっ! わたくしもダメって言ったんですけれど、駄々をこねるものだからつい……」
「大人しくしてるからー。だって、セラが遊びに行って私がいけないなんて私が可哀想すぎるでしょー」
「ちゃんと大人しくしてるんだよ。あと、外では姿を消すこと」
「やったー! はーい!」
ダメと言ったら勝手にどこかに行きそうだし。
セラの肩に置いておく方が無難だろう。
「じゃあ、今日はなにしよっか。どこいく?」
「実は今日は、わたくし、やりたいことがあるんです」
胸の前で拳を握って、セラが言った。
「そなんだ。なんだろ?」
「今日はお店のお手伝いをさせて下さい! わたくし、頑張ります!」
「いいけど……。退屈かも知れないよ……?」
「そんなことはありませんっ! 今からドキドキしてますっ!」
「いいの?」
念の為、シルエラさんにたずねる。
「はい。今日は自由にして良いと陛下からもお言葉を頂いております」
「ならお願いしようかな」
せっかくだし。
「やりましたー!」
セラが飛び跳ねて喜ぶ。
「なーんだ。今日、仕事するだけなのー?」
ミルは残念そうだけど。
「ミルは大宮殿に帰って、お花畑でのんびりしていてもいいよー」
「ううん。せっかくだから見てる。クウ様の仕事なんて、よく考えてみれば、面白いに決まってるし」
「まあ、いいけど、お客さんが来ても静かにしてなよー」
「はーい」
お店を開いた。
外に看板を出して、さあ、お客さんようこそ!
一時間が過ぎた。
「……あの、クウちゃん、書類仕事があればお手伝いしますが。わたくし、そういうのも勉強していますし」
「平気だよー。うち、そういうのないし」
「そうなんですか? お店なのに?」
「うん。そだよー」
知らないけど。
「そういうものなのですね……。では、お掃除をしましょうか?」
「今のところ綺麗だから平気だよー」
埃を払う程度なら、私かヒオリさんの魔法で簡単に済む。
あとは定期的に大宮殿からメイドさんが来て大掃除してくれるので、基本的に我が家は綺麗なのだ。
「では、あの……」
基本、そんなにやることはないのだ。
ぬいぐるみやオルゴールのストックも今は十分だし。
ミルはいつの間にか寝ていた。
二時間が過ぎた。
「……お客さん、来ませんね」
「まだ朝だしねー」
カウンターに置いたモスさん制作の高級時計が示す時刻は9時だ。
「うう。すいません、早く来すぎちゃって」
「いつも通りだよー。朝から家にいる時は、朝から開けてるし。あ、そうだ。セラに伝えることがあるんだった」
アリスちゃんのことを忘れていた。
アリスちゃんが闇の属性を持っていたこと、ゼノにそそのかされて闇の魔法少女になってしまったこと。
セラとは光と闇のコンビになるかも知れないし、伝えておかないとね。
最後にアンジェが頼りになったことを言うと。
セラが泣いた。
「ふえーん!
どうしてアンジェちゃんなんですかぁぁぁ!
わたくし、帝都にいたのにぃぃぃ!
わたくしに相談してほしかったですぅぅぅぅぅ!」
「あー! クウ様がセラを泣かせたー!」
鬱陶しいことに、目を覚ましたミルまで私を非難し始めた。
「あ、えっと、ごめんね? でも、セラは皇女さまでしょ。相談した時には、どうしていいのかわからなくて秘密にするかも知れなかったし。そうなるとセラは困ることになるでしょ」
「クウちゃんの秘密は死んでも守りますぅぅぅ!」
「今度っ! 今度は相談するからぁ!」
「なーかした! なーかした!」
「あーもう! ミルはうっさい!」
騒いでいるとドアが開いた。
すかさず泣き止んで姿勢を整えるセラはさすがだ。
すかさず涙を拭き取って、それでは私は奥で待機しております、と、一礼して下がるシルエラさんもさすがだ。
「ミルは消えててね」
「はーい」
素直に言うことを聞いて、ミルがぱっと消えた。
「「いらっしゃいませー」」
セラと口を揃えてご挨拶。
あれでも、ドアの前に誰もいないね……。
これは一体……。
と思ったら。
横からすべるように、マッスルポーズでボンバーが現れた!
よりにもよってセラがいる時に!
えいっ。
とりあえず蹴っ飛ばしてっと。
「ふう」
「あの、クウちゃん……。今のは……」
「セラは気にしなくていいよ」
「あの、でも……」
「今のはホントに気にしなくていいからね? ただの変態だから。関わるとロクなことにならないから。ね?」
「は、はい……」
お店の脇には、タタくんたち若手冒険者がいた。
「……いつもボンバーがすいませんっす。今日はお金が入ったので、装備品の追加に来たんっすけど」
「いらっしゃいませー。さあ、どうぞー」




