398 闇の魔力
庭のテーブルに戻ると、お腹いっぱいのミルが寝ていた。
大満足の様子だ。
指でつついて起こす。
「んー。なぁにぃ?」
「ミル、テーブルの上で寝ちゃうのはお行儀が悪いよ」
「ふぁい」
魔法をかけて、ミルがお腹を元に戻す。
本当に妖精は羨ましいね。
「ふー。でも本当に美味しかった。ありがとね、アリス!」
「……うん」
お茶会を再開する。
「にくきゅうにゃ~ん」
アリスちゃんは私の芸を気に入ってくれたようだ。
早速、披露してくれた。
「なにそれ、かわいいー!」
ケーキに夢中だったミルは、練習の様子を見ていなかったようだ。
「ししょうがおしえてくれたの」
「クウ様?」
「うん」
「へー。いいなー」
「アリスちゃん、教えてあげたら?」
「いいの……?」
「うん。いいよー」
「やったー! 教えて教えてー! 私もやるー!」
アリスちゃんの指導を見つつ、私はケーキをいただくことにした。
ミルを連れてきたのは正解だった。
アリスちゃんとの相性はバッチリのようだ。
ミルが覚えてからは、3人でにゃ~ん祭りを開催した。
楽しかった。
息が合った時の充実感がたまらいね。
残念ながらアリスちゃんが芸を披露する機会は少なそうなので――。
ウェーバーさんに、挨拶代わりに芸をするのは問題があると言われてしまった。
ごめんなさい。
言われてみればその通りです。
アリスちゃんはお嬢様だし、尚更だ。
なので今、存分に堪能しよう。
というわけで堪能した。
満足したところで、普通のお茶会に戻った。
紅茶が美味しい。
「ねえ、クウ様。アリスには芸だけなの?」
「ん?」
「セラには魔法を教えてあげたんだよね? アリスには教えないの?」
「残念だけど、魔力がないと無理なんだよ」
「ないの?」
「一般的にはないんだよ」
「そっかー。アリスならいいと思ったけど」
ふむ。
そういえば確認はしていないか。
未覚醒の魔力は、緑魔法『魔力感知』でないとわからないし。
試しに使ってみた。
すると――。
アリスちゃんの中に、黒い小さな光があった。
未覚醒の、闇の魔力だ。
私は、そのことを口に出しかけて、どうにか押し留めた。
何事もなかったように紅茶を楽しむ。
言わない方がいいと判断した。
ゼノが聞いたら怒るだろうけど――。
人間の社会の中で、闇の魔力というのはイメージがよくない。
そのまま黒魔術に結びつくくらいだ。
実際には、闇の魔力と黒魔術は結びつくものではない。
闇の魔力は、あくまでこの世界に満ちる力のひとつだ。
光や風と変わらない同質のものだ。
黒魔術はちがう。
黒魔術の根源となっているのは、異界から侵食してこの世界を蝕もうとしている邪悪な力だ。
この世界の力ではない。
だけど世間では、同じものとして見られている。
どうしたものか。
お誕生日会はつつがなくおわった。
アリスちゃんとも、すっかり仲良くなれたと思う。
また一緒に遊ぼうね!
お別れを悲しむアリスちゃんに手を振って、私とミルはウェーバーさんのお屋敷を後にした。
まずは『帰還』の魔法で大宮殿の奥庭園に飛んだ。
ミルは普通に付いてきた。
ふむ。
私はここで気づいた。
『帰還』は、すべてのプレイヤーが最初から持っている個人用の魔法だ。
自分1人だけをホームポイントに飛ばす。
ゲームでは、そういう仕様だった。
なのにミルは、ごく普通に私と一緒に魔法で帰ってきた。
仕様が拡張されているのかも知れない。
他人も一緒に飛べるならすごく便利だ。
特にセラと外で遊んだ時に。
ただ、ミルは小さな妖精さんなので、アイテム扱いされている可能性もある。
今度、誰か……、ヒオリさんあたりで試してみよう。
まあ、でも、それは今度でいい。
アリスちゃんの中に眠る闇の魔力についての方が優先課題だ。
私が知る限り、この大陸に闇の力を持つ人間はいない。
光の力はユイとセラが持っている。
大陸で2人だけだ。
同じように闇の力は超レアな特性なのだろう。
あ、ナオがいるか。
未覚醒のままだけどナオにも闇の力はあったね、そう言えば。
光の力も。
考えてみるとナオって、まさに忍者な身体能力に加えて、将来的には光と闇の力も使えるようになるのか。
すごいね。
まあ、それはともかく。
潜在魔力は『女神の瞳』では識別されず、専用の魔道具による詳しい調査が必要みたいなので……。
普通に生きていけば、知られずにおわるのだろうか……。
それなら放置でいいと思うけど……。
ご両親に伝えてみる?
安易に伝えても、いい結果にならない気がする。
うーん。
困った。
誰かに相談したいところだけど。
誰がいいんだろうか。




