396 クウちゃんお姉ちゃんが教えるみんなと仲良くなる方法
「あ、そうだ」
忘れる前に渡しておこう。
アイテム欄から大きなクマのぬいぐるみを取り出す。
「アリスちゃん、これ、お誕生日の――」
「クウ様っ! 私もっ!」
「あ、うん。そうだね。はい、ミル」
「ありがとー! アリス、これ、贈り物よ! 受け取って!」
私を経由してミルがアリスちゃんに手渡すのは、妖精郷の果実だ。
私がアルくんにもらったものなんだけど、妖精郷の品だし、ミルも何かあげたいというのでこれに決めておいた。
アリスちゃんが、赤い果実を受け取る。
「食べてみて?」
ミルがにっこりと促す。
アリスちゃんは戸惑い気味だ。
見たことのない果実だし、しょうがないか。
「大丈夫、美味しいよ。それ、妖精の国で採れる珍しい果実なんだ」
私が教えてあげると、おそるおそるの様子ながらアリスちゃんが果実を少しだけ口に入れた。
「……おいしい」
ふふ。
びっくりした様子だ。
「よかったー! 全部食べていいよー! まだ一杯あるし!」
ほらクウ様早くと急かされて、はいはい、と、次の果実を出してあげた。
その果実を抱きかかえて、ミルがわくわくと、アリスちゃんがひとつ目の果実を食べ終わるのを待つ。
妖精の果実って魔法効果があるんだけど、子供にパクパク食べさせちゃってもいいんだろうか……。
私はふと思ったけど、とっくにセラが食べているか。
セラは元気だし、問題はないか。
アリスちゃん1人だけ食べているのもなんなので、私も妖精の果実を一緒に食べることにした。
「美味しいよね、これ」
「あー! クウ様も食べるなら私も食べるー!」
というわけで3人で食べた。
私のプレゼントの大きなぬいぐるみは、悲しいことに空気となった。
抱きしめるとふかふかで本当に気持ちいいんだけどねえ。
「クウ様、こちらは屋内に運ばせていただきます」
「あ、はい」
メイドさんがそそくさとぬいぐるみを運んでいく。
まあ、うん。
あとで堪能してもらおう。
「うん。美味しかったねー」
「うん! クッキーとケーキには負けるけどね! さあ、私はケーキも食べちゃおうかなー」
ミルはケーキに食らいついた。
「あはは。好きだねー」
「……ようせいさん、ケーキがすきなの?」
「うん。そうだよー。この子たち、甘い物ばっかり食べてるんだー」
「いっぱい……?」
「うん。一杯」
「ならいっぱいもってきてもらうっ! いっぱいもってきてくださいっ!」
うおう。
あっという間にテーブルがケーキまみれになった。
「すごーい! ケーキの国だぁぁぁ! わーいわーい! よーし、食べるぞぉ!」
ミル、大興奮。
そんなミルの様子を、楽しそうにアリスちゃんが見ている。
私は紅茶を飲むことにした。
しばらくのんびりしていると、アリスちゃんが私に目を向けてきた。
「……クウちゃんおねえちゃん」
「ん? どしたの?」
「あのね……」
「うん?」
どうしたんだろう。
アリスちゃんがもじもじとしている。
人見知りな子だし、まだ私にも慣れていないのかな。
ゆっくり待っていると、こんなことを聞かれた。
「どうしたら……。ようせいさんと、おともだちになれるの……?」
ふむ。
なるほど。
もうお友だちだよー、と、言ってあげるのは簡単だ。
実際、ミルからすれば、すでに友人枠に入っているだろう。
でも、聞きたいのはそういう言葉ではないよね。
仲良くなる方法なんだから。
ここはひとつお姉さんとして、妖精さんだけではなく、みんなと仲良くなれる方法を教えてあげるべきだよね。
うん。
ならば、ひとつしかないっ!
「それは簡単だよ。教えてあげようか?」
「うんっ! おしえてくださいっ!」
「よーし。じゃあ、まずは見せてあげるね」
私は立ち上がった。
そして、アリスちゃんに背中を見せる。
久々の披露だ。
可愛さと面白さを両立させた、奇跡の一発芸。
それこそが!
必殺の!
くるりとまわって。
「にくきゅうにゃ~ん」
肉球ポーズ。
決まった。
決まってしまった。
なんて可愛くて面白いんだろう、私。
さらにぃ!
両腕をびしっと横に広げてから、ゆらゆらと揺らして。
「なみざばざば~。ざばざば~」
ふふ。
我ながら見事に決まった。
「うわぁ! すごーい! ゆれてるー!」
「ありがとうございました」
一礼して、私は席に戻る。
「揺れてたでしょー?」
「うん! ゆれてた! にゃーんもねこさんだった!」
さすがは私。
大人しい幼女まで興奮させてしまうとは、なんて罪深い。
「アリスちゃんには特別に、この2つを伝授してあげよう」
「……ようせいさんとなかよくなれるの?」
「ふふ。これを披露すれば、誰とでも仲良くなれるよ」
「ほんとに……?」
「うん」
「わたし、おぼえる……。なかよくなりたい……。よろしくおねがいします、せんせい」
先生……。
なかなかにいい響きだけど、こういう場合はあれだよね。
「師匠。私のことは、そう呼びなさい」
「よろしくおねがいします、ししょう」
やっぱこっちだよね!
「うむ! では一番弟子よ! さっそくやってみようか。できるようになったらお父さんたちに見せに行こう」
「……うん。……がんばる」
芸の道は長く険しい。
言葉ひとつ表情ひとつを極めるだけでも大変な道のりだ。
でも反対に細かいことは気にせず、楽しむだけなのも大いにアリだろう。
というわけで指導した。
結果、アリスちゃんは覚えた。
「さあ、やってみて」
「……にくきゅうにゃ~ん」
ふむ。
さすがにまだ動きも表情もぎこちないか。
思いきりも足りないね。
とはいえ、いきなり私と同じようにやれることこそ不可能か。
なにしろ私はこの芸一筋。
ずっとやってきたのだ。
まさに一流。
この芸に関してだけは大御所なのだ。
「うん。いいね。可愛い」
まずは、可愛く動けたことを評価しよう。
可愛いならばオーケーだよね。
「よし、じゃあ、お父さんたちに見せに行こうっ!」
「よろこんでくれるかな……?」
「もちろん!」
可愛い娘のやることだ。
確実に、なんでも喜んでくれるよね。
それに、今回は私も一緒にやってあげるのだ。
ダブルなのだ。
ウケないわけがないのだ。
とてもとてもウケることは確実なのだ。
とてとてなのだ。
アリスちゃんにはぜひ、この成功体験を生かして、私の奥義と共に明るい人生を歩んでほしいものだ。




