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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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395 お誕生日会





「ぬいぐるみ、よしっ! スイーツ、よしっ! ミル、よしっ! 招待状もちゃんと持っていますねっと」


 準備はバッチリだ。


 今日はこれからアリスちゃんのお誕生日会。


 プレゼントの大きなクマのぬいぐるみも、お土産のスイーツもバッチリ。

 ついでにミルも連れてきた。


 空はいい天気。

 快適な陽気だ。

 リトもちゃんと仕事をしているようだ。

 今度、褒めてあげよう。


「ミル、くれぐれも言っておくけど、ぜーったいに、パーティー会場の外に勝手に出たらダメだからね」

「もう。クウ様ったらしつこいー! わかってますよーだ!」

「ホントに?」

「ホントっ!」


 私の目の前で、ミルがイーッと体を伸ばす。

 まあ、信じてあげるとしよう。

 これ以上、しつこく注意するのも逆効果だろうし。


 と、信じた途端。


 ドアを開けて道路に出たところで、


「わーい! 外だー!」


 と、勝手に飛んでいこうとしたので問答無用で手づかみしたけど。

 さすがは妖精。

 容赦なく無邪気に本能に忠実のようだ。


「ねえ、ミル。紐、つけていい?」

「……い、今のは遠くに行こうとしたわけじゃないよ? ちょっとくるっと回りたかっただけだよ? わかってるから紐は許してぇ」

「ホントにわかってる?」

「はい。うん。大丈夫です、クウ様!」


 まあ、紐をつけてパーティーに出るわけにもいかない。

 私は仕方なく信じることにした。


 ウェーバーさんのお屋敷に、姿を消して飛んで向かう。


 ウェーバーさんのことだ。


 きっと大勢のお客さんを呼んで、パーッと派手にやるんだろうなぁ、と、思っていたのだけど。


 到着したウェーバーさんのお屋敷は、とても静かだった。

 お客さんの姿はない。

 門の前で止まる馬車もいなかった。


「ねえ、クウ様。今日って私、パーティーに出るんだよね?」

「うん」

「ここなの?」

「うん」

「お金持ちの大きなパーティーなんだよね? すっごく賑わしくて、すっごく楽しいんだよね?」

「うん」


 だと思っていたけど……。


「静かだね」


 ふむ。


 日にちか時間、間違えたかなぁ。


 どうしよう。


 とりあえず物陰に着地して、姿を見せて、門の前まで歩いた。


 すると執事さんがいた。


「いらっしゃいませ、クウ様、ミル様。お待ちしておりました」


 どうやら日にちも時間も問題ないようだ。


 案内されて中に入る。


 お屋敷に入ると、ウェーバーさんが出迎えてくれた。


「おおっ! ようこそおいでくださいました、クウちゃん様! それに妖精のミル様もお初にお目にかかります」

「はじめまして、ニンゲンのおじさん。ミルと言います。よろしくね」

「はい。こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」

「……あの、ウェーバーさん。お客さんが全然いないみたいなんですけど、もしかして私、すごく遅刻しましたか?」


 もうみんなホールにいるとかだろうか。


「いいえ。時間通りでございます」

「……なにかあったんですか?」

「あ、いえ。今日は妖精様がいらして下さるとのことで、他の者とのパーティーは明日にずらしたのです。妖精様は、あまり第三者の目には触れられぬ方が良いかと愚考いたしまして」

「なるほど。気を遣っていただいてありがとうございます」


 たしかに言われてみればそうだね。


「ねえ、クウ様。どういうこと?」

「ミルがのんびりできるように、今日は少しのニンゲンと遊ぼうってことかな」

「えー! 私、たくさんでよかったのにー!」

「あ、ミル、知らないんだ? パーティーは少しの方が楽しいんだよ」

「そうなの?」

「うん。だって、ちゃんとおしゃべりできるでしょ」

「それはそうか」


「さあ、どうぞこちらに。まずは私の家族を紹介させていただきます」


 ウェーバーさんに案内されて応接室に行くと、身なりの良い若い男女と中年女性が私とミルのことを待っていた。

 可愛いドレス姿のアリスちゃんもいた。

 若い女の人のうしろに隠れている。

 相変わらず人見知りのようだ。

 でも、ちらちらとこっちのことを見ているね。

 あ、目が合った。

 軽く手を振ると、また隠れちゃったけど。


 若い男女はアリスちゃんの両親だった。

 お父さんは、ウェーバーさんの息子さんとのことだった。

 2人とも20代前半に見えた。

 ロックさんと同年代だ。

 とはいえ、雰囲気はまるでちがう。

 アリスちゃんの両親は、上品で知的で優しそうな人たちだった。

 酔っ払って大暴れするロックさんの姿を思い出して、人生ってそれぞれだねえとしみじみ思った。

 中年女性はウェーバーさんの奥さんだった。


 挨拶がてら、少し雑談した。


 会話に一段落がついたところで、私とミルは、アリスちゃんの手を引いたウェーバーさんに連れられて庭に出た。


 庭に出ると、『陽気な白猫亭』の常連、キャロンさんがいた。


「あれ、キャロンさん、なにしてるの?」

「なにって、仕事に決まってるだろー。クウちゃんとお嬢様の安全は保障するから今日は楽しんでくれよ」


 そういえばキャロンさんは、ウェーバーさんの護衛が仕事だった。


「で、それが噂の妖精さんか。噂通りにかわいいねー」

「へへー。私、ミルだよ。よろしくね!」

「ああ! よろしく!」


「さあ、こちらにどうぞ」


 ウェーバーさんの案内で、庭に用意されたお茶の席に向かう。

 すでに準備は万端の様子だ。

 メイドさんのワゴンには、飲み物やお菓子がたくさん置かれている。


 私はアリスちゃんと向かい合って席についた。


「では、どうぞごゆっくりお楽しみ下さい。アリスもちゃんと、クウお姉ちゃんの言うことを聞くんだよ」


 優しくアリスちゃんに微笑んで、ウェーバーさんが立ち去る。


 アリスちゃんはうつむいたまま動かない。

 明らかに緊張している。


 ふむ。


 なるほど。


 あとは私がなんとかせねば、か。


 では、景気づけに一発、アリスちゃんに打ち解けてもらうために、なにかおもしろいことでもやろうかな。

 と、思ったけど、その必要はなかった。


「ねーねー、私、ミル。貴女はアリスっていう名前なのよね?」

「……うん」


 アリスちゃんはうつむいたままうなずく。


「貴女、小さいのねー。まだ子供なんだよね?」

「……うん」

「五歳になるんだっけ?」

「……うん」

「じゃあ、私のことは、ミルお姉さんって言いなさい? いいわね?」

「……うん」

「うんじゃなくってー。ミルお姉さん」

「……うん。……ミルおねえさん」

「ふふーん。ねえ、クウ様! 私、お姉さんだって! すごいね!」


 自分で言わせた癖に。

 とは思ったけど、これはこれでいいんじゃなかろうか。


「アリスちゃん、私のこともお姉さんでいいよー。クウお姉さん」

「……うん。……クウちゃんおねえちゃん」


 なぜかちゃんちゃんになったけど、まあ、いいか。

 細かいことは気にしない。


「ねーねー。アリスなのよね? 私と会いたいって言ったの」

「……うん」

「なのになんで下ばっかり向いてるの? 私、前にいるよ?」

「……う、うん」

「ほら、こっち向いて。おしゃべりしよー」


 アリスちゃんがちらりと目を上げてミルのことを見た。

 視線が重なって、ミルがにっこり笑う。


 かくして。


 お誕生日会は始まるのだった。






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― 新着の感想 ―
[良い点] ミル姉さん……?あの伝説の…… [一言] お笑い好きならわかってくれるはず……
[一言] 人見知りのアリスちゃんもフェアリーズのみんなと仲良くなれたらな~
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