394 おためしケーキ
妖精さんたちに頼んだら、両手一杯になるくらいの白草をもらうことができた。
粉末に生成してアイテム欄に入れる。
ケーキが何個も作れる十分な量になった。
翌朝、ヒオリさんにもローカロリーなケーキを振る舞ってみる。
妖精郷の果実も使った特製だ。
「ふむ。違和感はありませんね……。味も食感も普通ですし、これで太りにくいのなら素晴らしいのではないでしょうか」
「何か異変があったら教えてね。お腹がゆるくなったりとか」
「はい。わかりました。しかし、某と店長では明らかに耐性が高いので、確認でしたら普通の人間で行う方が良いとは思いますが」
「とは思うんだけどねえ……。なにかあっても笑って済ませられるような適当な人材が思いつかなくてねえ」
「某は選ばれたわけですね! 光栄です!」
いや、うん。
なんかごめんね。
ヒオリさんならいいよねって思ってしまっていたよ。
あ。
そうだ。
いるよ!
適当な人材!
午前中の内に私は早速、オダウェル商会に向かった。
幸いにもウェルダンは店にいた。
「おっはよー」
「……なんだ、クソ――。いや失敬。マイヤ殿、例の契約の話ですかな? すぐに準備しますので少々――」
「ううん。今日は遊びに来ただけー」
契約の話はオダンさんがいる時にするつもりだ。
明日には戻るそうだし。
ウェルダンだけだと不安だしね。
「遊びに……だと。私は今、とても忙しいのだ。帰って下さいますかな」
「ウェルダンも頑張ってるんだねー」
「当たり前だ。マイヤ殿、この私を誰だと思っているのですか」
「別に好きに呼んでくれていいよー、敬語もいらないしー。ていうか、なんか気持ち悪いからやめて? うん。むしろなしでお願い。私もウェルダンに『さん』とかつけるつもりないしー」
「はんっ。とにかく、遊びに来ただけならさっさと――」
「はい。これ」
私はテーブルにケーキを置いた。
白草の粉末と妖精郷の果実で作ったワンホールのケーキだ。
「……なんだ、これは」
「ケーキだよー」
「それは見ればわかるが……」
「まあ、食べてみてよ。明日、また来るから感想を聞かせて。あ、ウェルダンのために作ったんだから、絶対に一人で全部食べてよ? オダンさんとかウェーバーさんにあげたら絶対にダメだからね?」
「なんだ、クソガキ。おまえ、かわいいところもあるじゃないか。この私のためにわざわざとは」
「ちゃんと一人で全部食べてよ? 残したらヤだからね?」
「わかった。そこまで言うなら食ってやろう」
「やったー。じゃあ、またー」
よしっ!
これでウェルダンに異常がなければオーケーだね。
そもそもアイテム説明に特記もないし、問題はないだろうけど、念には念を入れた方がいいしね。
ウェルダンならなにかあっても、笑って済ませられるよね。
ウェーバーさんやオダンさんだと大変だけど。
ともかく仕込みはおわった。
この日はお店を開けて、たまにやってくるお客さんの相手をしつつ、誕生日プレゼントをどうしようか考えた。
確実に喜んでもらえそうなのはぬいぐるみなのかな、やっぱり。
大きなクマのぬいぐるみでも作ろうか。
作った。
ラッピングもした。
喜んでくれるといいな。
そして翌日。
昼頃にオダウェル商会に行くと、オダンさんがいた。
「こんにちはー」
「やあ、クウちゃん。こんにちは」
「おい、マイヤ殿。私の時とは、随分、態度が違うな?」
ウェルダンもいた。
「だーかーらー。そういうのはいいってばー。っていうか、どうしたのウェルダン顔色が悪いよ!?」
一目見てわかるほど、なんだか様子が変だ。
「ごめん。まさか、私のケーキ?」
「なにを言っている! そんなわけがあるか! あれは、ああ、実に美味ですべて平らげたぞ安心しろ」
「いや、安心できないってばー」
「ウェルダン殿、こういう時は正直に言ったほうがいい」
ウェルダン、実は甘い物が苦手だったらしい。
なので今朝になってもケーキは残っていた。
でも、私が来る前に食い切らねばと頑張って、結果、食べつくしたんだけど気持ち悪くなったようだ。
「そんな無理して食べなくてもよかったのに……」
「うるさいうるさいうるさい! 私は、たまたま腹が減っていたのだ! 別におまえを落胆させないためなどではないのだからな!」
「おっさんのツンデレとか可愛くないからね!?」
いやホントに!
「ところでクウちゃん。クウちゃんのケーキは俺も見たが、変わった果実が使われているようだったが……」
「ああ、妖精郷の果実なんですよ、あれ」
「やっぱりか! そうじゃないかと思ったんだ!」
この後、お願いされて、オダンさんにもケーキを出してあげた。
一切れだけ。
美味しいと言って食べてくれた。
この後、3人で真面目な話し合いをした。
妖精との取り引きに関してだ。
2時間ほどかかった。
ウェルダンはその内に元気になって、オダンさんも普通だった。
とりあえず白草に変な作用はなさそうだ。
話もまとまった。
「ところで護衛はどうしますか? 必要なら紹介しますけど」
私がたずねると、すぐにウェルダンが答えた。
「不要だ。ネミエから半日程度の場所など、我々にとっては常に商売で動いている慣れ親しんだ道だぞ。異常があればわかるし、そもそも護衛などつけていたら逆に目立ちすぎるわ」
「なるほど。そかー」
「必要がありそうなら改めてお願いするよ、クウちゃん」
オダンさんもウェルダンの意見に同意のようだ。
「はい。わかりました」
タタくんたちが適任かなぁと思ってもいたけど。
「妖精との取り引きは、私とオダン氏だけで秘密裏に行う。情報を知る者は少ない方が良いのだ。いいか、クソガキ。くれぐれも人には言うなよ?」
「わかってるよー。ヒオリさんと陛下とウェーバーさんにしか相談してないし。その3人ならいいでしょー」
「まあ、そうだな……」
「しかしクウちゃんは、皇帝陛下に普通に相談できるんだな」
「あはは。セラのお父さんですしね」
「それにあのヒオリちゃんが、まさか伝説の賢者様だったとは。知った時には本気で腰が抜けたよ」
伝説って、大袈裟な。
私は笑ったけど、オダンさんは本気らしかった。
ウェルダンまでもがうなずいている。
「ともかく、妖精との取り引きは俺たちが責任を持って引き受けた。素晴らしい商機をありがとう、クウちゃん」
「こちらこそ、よろしくお願いします、オダンさん」
最後にオダンさんと握手して、話し合いはおわった。




