393 行きたいセラ
宴会の翌日。
私は朝食がおわったくらいの時間を見計らって、ミルに会いに行った。
ミルはセラと一緒に、セラの自室にいた。
私は早速、ミルをアリスちゃんの誕生日会にお誘いする。
すると一緒にいたセラがごねた。
「行きたいですーー! わたくしも! 行きたいですー!」
「……そ、そかー」
でもセラは皇女様なんだし、あまり気楽に庶民のパーティーに出るのは、なんとなく問題になるような気もするけど。
私がそう言うと、お父さまに掛け合ってきますと言ってセラは部屋を飛び出して行った。
一礼してシルエラさんが後に続く。
私はセラの部屋で、妖精のミルと2人になる。
「ミルはどう? 楽しくやれてる?」
「うん。楽しいよー」
「セラとは仲良くやれてる?」
「うん。もちろん!」
問題なさそうでよかった。
「でもクウ様って、ホント、いい加減だよねー。私に、絶対に町に出ちゃいけないって命令したのはいつだっけー?」
「いやー。あはは」
「私は、新しいニンゲンの友達ができるのならそれでいいけど」
結局、セラの参加は却下となった。
セラはまず、貴族のご令嬢方とのお茶会を開くべし、ということだった。
まあ、うん。
アリスちゃんはお嬢様だけど、いきなり平民のパーティーに出ては、いろいろと問題になりそうだよね、さすがに。
「……わたくし、知らない人とお茶を飲むなんて、怖くて出来ません」
「がんばれー」
「そんな他人事みたいにー」
「ごめん、セラ。さすがにそれは他人事だよお」
「うう……。なんて試練なんでしょうか」
セラはがっくりと肩の力を落とす。
でも、私が慰めるまでもなく、自分で気を取り戻したようだ。
「でも、そうですよね。お姉さまが倒れられた以上、残った帝国皇女として、わたくしがやるしかありませんよね!」
「え。ねえ、セラ、お姉さまって倒れたの? 病気?」
「いえ。ダイエットに倒れているだけなので、病気ではありませんよ?」
「なるほど」
そういえば先日、ゾンビみたいにうちに来たね……。
これは、うん。
0カロリー甘味料の完成を急いだ方がよさそうだ。
早速、探しに行こう。
ミルとセラとお別れして、私は帝都を出た。
精霊界を経由して妖精郷に向かう。
到着。
まずは長であるテルさんのお宅にお邪魔する。
「こんにちはー。クウですー」
「こここ、これは精霊様! よくぞお越しを下さいました!」
「これ、お土産のクッキーです。みんなとどうぞです」
アイテム欄からクッキーの詰まった袋をテーブルに置いた。
付いてきていた妖精さんたちが、わっと喜ぶ。
「これはご丁寧にありがとうございます」
みんな待ちきれない様子だ。
テルさんが袋を開けると、わっと寄ってきた。
「早速ですけど、取り引きの話は上手く進みました。定期的に甘味と果実の交換会ができればいいなぁと思っているんですけど」
「はい。クウ様のお話であれば、私共に異存はありません。具体的なことはアルと決めていただければと」
テルさんに命じられて、3人の妖精さんがクッキーを抱えて食べつつホブゴブリンのアルくんを呼びに向かう。
クッキーに群がる妖精さんを眺めていると、アルくんがやってきた。
早速、お仕事の話をする。
「話はまとまったのか。よかっただ。さすがは精霊様だ」
「うん。アルくん、これからよろしくね」
「こちらこそお願いしますだ。オラ、ニンゲンとの取り引き、頑張るだよ」
「信頼できる商人にお願いしたから取り引き自体は大丈夫だけど、回りに他の人がいないかは十分に注意してね」
「わかってるだ。オラも殺されかけるのは、もう懲り懲りだ」
「あはは。だねー」
この後、具体的にどう取り引きするかの話をした。
いつ、どこで、どれくらいを。
それがだいたい決まったところで私はもう一つの話を切り出した。
「――ところでアルくん、実は果実とは別に、まずは私が個人的に取り引きしたいものがあるんだけど」
「なんだべ? 精霊様の頼みなら何でも聞くだが」
「えっとね、白草って知ってる?」
「白草だか……?」
アルくんが首をひねる。
「たぶん妖精郷にある、白い花のたくさんついた草なんだけど……」
アイテムの説明欄には幻想の空間で採れるとしか書かれていなかったので、あるいはちがうかも知れないけど、他に心当たりはなかった。
「ああ、なら、たぶん、アレのことだな」
「あるんだ……?」
「んだ。白い月が出る夜にだけ生える不思議な草があるだ。精霊様の言う通りの見た目だでそれだと思うだ」
「妖精郷に夜ってあるんだ?」
「あるだよ。と言っても、外の世界ほどには暗くなんねぇけどな」
ちなみに月は、正確には月ではないのだろうけど、精霊界を透かしたような空に日ごと色を変えて現れるそうだ。
赤、青、黄、緑、白、黒。
属性の色だね。
なんにしても、6日に一度は採取のチャンスがあるようだった。
「その草って簡単に採れるの?」
「オラには無理だな。ものすごく脆い草で、触ると崩れて消えてしまうんだよ」
「そかー」
採集レベル70だったしねえ、やむなしか。
「でも、妖精様たちなら摘めるだよ。振るとシャランシャランって音が鳴るから、たまに摘んで遊んでいるのを見るだよ」
おお。
それは朗報だ。
話していると妖精さんたちが寄ってくる。
――ミタイ?
――スズノハナ、ミタイ?
「うん。見たいなぁ。持ってるの?」
――モッテル。
――ミセル。
――ミセル。
おお。
何人かの妖精さんが、取りに行ってくれた!
しばらくすると、白い花のたくさんついた草を抱えて戻ってくる。
シャランシャランと心地の良い音が聞こえた。
――コレ。
――コレ。
「ありがとう」
妖精さんたちが何本も渡してくれる。
普通に持てた。
試しに一本をアイテム欄に入れてみる。
うん、正解だ。
ちゃんと白草と表示された。
「ねえ、これって、もらってもいいのかな……?」
――アゲル。
――アゲル。
「ありがとう」
よし。
早速だけどスイーツを作ってみよう。
妖精さんたちには、私の生成を見られても構わないだろう。
「じゃあ、これを使って、甘い物を作るね。完成したらみんなで食べてみよ」
――ツクル?
――ツクル。
――ウレシイ。
――ウレシイ。
みんな楽しみにしてくれている。
頑張ろう。
材料は揃っている。
帝都の市場で、マメに食材は仕入れているのだ。
アイテム欄に放り込んでおけば劣化しないしね。
ささっと生成。
問題なくストロベリーケーキが完成した。
砂糖はまったく使っていないローカロリー仕様のケーキだ。
果たして。
味の方はどうだろうか……。
妖精のみんなにも分けてあげて、私もぱくりと一口。
口の中に甘みが広がる。
うん。
砂糖を使ったケーキと変わらない味だ。
美味しい!
これで砂糖未使用な分だけカロリーカットできているんだから、かなり良いのではなかろうか。
白草の甘味に副作用がなければだけど。
前世の記憶では、代替砂糖って、いくらか問題もありそうだったし。
ただ、テキスト欄の説明を読み返しても悪い記述はない。
記述がないということは、少なくともこの世界では平気なはずだ。
でも、なんとなく怖いので、しばらく試しに食べてみて、問題ないようならお姉さまにもオススメしてみよう。
妖精さんたちもケーキには感動してくれた。
これもぜひほしいとお願いされる。
ケーキも取り引き品に加えてくれるようウェルダンに言っておこう。
でも、アレか。
あんまり甘味ばかり取ると、虫歯とか太り過ぎが心配だね。
私がそのことを口にするとテルさんが言った。
「それは大丈夫です。私たちは体の汚れを魔力で落とせるので、歯もいつでも綺麗にできています。それに食べたものも魔力に変換して消化できますので、美味しいものなら眠くなるまで食べられます」
あーそっか。
ミルもそんな感じだったね。
お姉さまが聞いたら血の涙を流して羨ましがりそうだ。
私は全然太らないし、まあ、平気だけど。
…………。
……。
いや、うん、油断だけはしないようにしよう。
お姉さまのように苦労する羽目になるのは、さすがに避けたいところだ。




