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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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392 閑話・皇太子カイストは報告する




「――それでクウのヤツは結局、どうしたのだ?」

「優勝したSランク冒険者の水魔術師にじゃれついた後、家に帰りました」


 宴会の翌朝、俺は父上に昨夜の出来事を報告した。

 俺、カイストは皇太子であるが未だ学院生である。

 今日は学校があり、報告は手短に行った。


「ほお。朝まで騒いでいたわけではないのか」


 報告を聞く父上が意外そうな顔をする。

 さもあらん。

 事件があってクウから話を聞く時、朝帰りしてきたあいつが徹夜でふらふらなのはお約束のようになっていた。


「明日は妖精郷に行く予定があるからと言っていました」

「ああ、そういえば取引の話があったな。ところでカイスト、ゾル・ウェーバーとは会話できたか?」

「はい。挨拶程度ですが」

「あの男の顔は覚えておくことだ。たった一代で大商会を築いた傑物だからな。今も気づけばクウが関わる人間を次々と傘下に組み入れて優遇している。今後、おまえと関わる機会も出てくるだろう」


 宴会では、ウェーバーは実に地味な存在だった。

 出資者だというのに前に出ることはなく、クウとの絡みもほとんどなく、同行する配下と酒を飲んでいた。


「――ゾル・ウェーバーは、クウの正体に気づいていると?」

「店の中で派手に祝福をしたのだろう? 口には出さずとも、それを感じている人間は多いのだろうな」

「本当に、あいつは何を考えているのか。いえ、何も考えていないのでしたね」


 俺は自分で言葉を結んだ。

 結論はとっくに出ている話だった。


「ともかくわかった。おまえも楽しめたようで何よりだ」

「では、学校がありますのでこれで」

「ああ、待て」


 一礼して部屋を出ようとすると父上に呼び止められた。


「せっかくだ、これに目を通して行け」

「――はい」


 俺は2枚の書類を受け取る。

 すぐに目を通した。


 そして、驚愕する。


「父上――。これは――」

「今、どう対応すべきか協議を重ねているところだ。意見があれば遠慮せず言ってくれて構わんからな」

「――はい。わかりました」


 この日、俺は授業を受けながら、そのことばかりを考えた。


 書類は、リゼス聖国とトリスティン王国の現状についての報告書だった。


 事は聖女ユイリアに始まる。


 聖女ユイリアが公の場でトリスティン王国の実情を語ったのだ。

 曰く、トリスティン王国のラムス王は悪魔による洗脳を受け、長年の間、邪悪な儀式を通じて悪魔に力を与えてきた。

 しかし世界に精霊が戻ったことで、その状況は変わった。

 精霊の祝福によってラムス王の洗脳は解け、悪魔は消滅した。

 トリスティン王国は悪であったが、それは過去のことである。

 ラムス王は悪であったが、それは王の意思でなかった。

 リゼス聖国には、王国が本来の姿へと戻れるように手助けする意思がある。

 そう言ったのだ。


 そして、その内容を記した親書は、トリスティンに届いていた。


 トリスティン国王のラムス王は激怒したという。

 悪魔など存在していない、洗脳などされていない、と、リゼス聖国を非難。

 逆にリゼス聖国こそが悪魔に支配された邪悪な国家だとして、傀儡にされた聖女を救うとして軍の動員を命じた。

 が――。

 何故か不思議なことに、次の日には態度を一変させた。

 ラムス王は自らが悪魔に洗脳されていたことを認め、国民に謝罪したのだ。

 ラムス王はリゼス聖国に手助けを求めた。

 さらに、それだけではなく、年内にはリゼス聖国へと赴いて聖女ユイリアからの祝福を受ける予定だという。


 一体、なにがあったのか。


 どうしても俺は、クウの姿を思い浮かべる。

 クウが何かをやったのかも知れない。

 ただ、昨日のクウに他国の情勢を気にする様子はなかった。

 クウの関心は、妖精郷やアリス・ウェーバーの誕生日会に向いていた。


 ふう。


 いかんな。


 何にでもクウが関わっているというわけはないか。


 実際、父上も、この件についてクウを問い詰めるつもりはないようだ。


 そんなことを考える内、授業はおわった。

 昼休みになる。


 俺はウェイスと共に食堂に向かう。


「どうした、カイスト? 今日は授業が上の空じゃなかったか?」

「ああ、ちょっとな……」

「昨日の宴会か?」

「いや、それとは別件だ」

「アリーシャ殿下のことか?」


 からかうように言われた。


「あれは自業自得だ。俺は知らん」

「……と言っても、それなりに噂になっているぞ。アリーシャ殿下は、実は失恋でもしたんじゃないのか、とか」

「ただの食べすぎとは――言えんか」


 仮にも帝国皇女たる者が、太り過ぎでドレスが入らなくなったとは言えない。


「いっそクウちゃん師匠に鍛え上げてもらったらどうだ?」

「……ふむ。それは良いアイデアかも知れんな」

「ついでに俺らもお願いしようぜ!」

「それが狙いか」

「ついでならいいだろ?」

「いや、待て。そういえばクウが、太らない砂糖を見つけたと言っていたか。訓練の必要はないかも知れんな」

「そんなこと言わないでよぉ。な? 師匠への嘆願は禁止されているんだからこれしか方法がないだろぉ」


 ウェイスはクウの特訓を受けて、婚約者メイヴィスや妹ブレンダと再び互角以上に打ち合えるようになっていた。

 もっと訓練を受けたい気持ちは理解できる。

 クウの指導は素晴らしいものだ。

 俺も指導を受け、確実に強くなった。

 だが、クウが面倒がった以上、指導を受けるのは前回でお終いだ。

 クウへのしつこい要求は父上に固く禁じられている。


 リゼス聖国には、光の大精霊が付いている。

 光の化身たる聖女がいる。


 トリスティン王国のラムス王までもが頭を下げた今、大陸東部の覇権はリゼス聖国にあると言って良い。


 世界の光そのものが守護する国に、一体、誰が立ち向かえるというのか。


 考えると頭が痛くなる。


 クウの存在は、あるいは帝国の生命線と言えた。


 ――あくまでクウとはセラフィーヌの家族として接する。

 父上のその判断は正しいと俺も思う。


 クウの今1番の悩みは、5歳になる幼女の誕生日会に何をプレゼントすれば良いのかというものだった。

 俺は昨夜、そんなものは知るかと冷たくあしらってしまったが――。

 もう少し真剣に考えれば良かっただろうか。


 とはいえ。


 考えたところで――。


 幼女に喜ばれる贈り物など、俺には見当もつかなかったが。






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