39 商業ギルド
商業ギルドに着いた。
本館と思しき建物は広い敷地の奥だ。
敷地の左右には、柱と屋根だけの大きな建物があって、たくさんの商人がいろいろなものを取引している。
さすがは帝都の商業の中心地。
賑わしかった。
本館に入るとバルターさんが封蝋された手紙を渡してくれた。
「こちらが紹介状になります。受付窓口でお渡しください」
「ありがとうございます」
「では姫様、受付がおわるまで我々は脇にいましょう」
「クウちゃん、がんばってくださいっ!」
「うん」
列に並ぶだけなんだけどね。
特にトラブルはなく、私の番が来た。
「すみません。帝都で商売したいのですが登録が必要とのことできました。こちらが紹介状になります」
渡すと受付のお姉さんの顔色が変わった。
カウンターから出てきて、応接室に案内してくれると言う。
ここでセラたちと合流。
みんなで歩いた。
「これはラインツェル卿ではありませんか。……何故このような場所に?」
高そうな服を着た肥満な男性がバルターさんに近づいてきた。
お金持ちだ。
指に宝石のついた指輪がたくさんついている。
「本日は私用でしてな。詮索は無用にお願いしますぞ」
「……そちらのお嬢様方は?」
「ウェーバー殿。無用、と申しましたが」
「これは失礼を」
おじぎをして、ウェーバーと呼ばれた男性は下がった。
「今のウェーバーという男は、帝都でも指折りの大商人でしてな。顔と名前は覚えておいて損はないでしょう」
「バルターさんって、実は偉い人?」
そんな人に上から目線だったし。
「はっはっは。私など、皇帝陛下の威を借りているだけの小物ですぞ」
階段を上る。
「クウちゃん様、ふわふわしておりますぞ」
「おっと失礼」
つい『浮遊』で楽をしてしまった。
しかも犬かきみたいな姿勢で。
「可愛らしいお姿とは思いますが、目立ちますので、人前ではあまりされない方がよろしいかと」
「はい。ですよね。ごめんなさい」
てへ。
応接室に着いた。
中に入ると、冴えない風貌の中年男性が直立して待っていた。
一般職員かと思ったら商業ギルド長と名乗って驚いた。
お偉い様なのに、ガチガチに緊張している。
私はバルターさんに促されて、ローブを脱ぎ、セラと並んでソファーに座った。
私たちが座ってから、ギルド長も着席する。
これではどちらが上かわからないけど、考えてみれば皇女様が一緒だったので気にしないことにした。
ギルド長が、ギルドの会員証を私に渡してくれる。
取引する時に使うカードと、店内にかけておく金属板のふたつだった。
さらには封筒も。
中には、よくわからない難しそうな書類がたくさん入っていた。
とりあえず、すべてアイテム欄にしまった。
「……あの、今、何を?」
しまった。
ギルド長の前でやってしまった。
するとセラが、とても穏やかな笑みをギルド長に向ける。
「ギルド長、驚かれているようですが、いかがなさいました? わたくしには驚くようなことなど何もありませんでしたが?」
「いえ……。も、申し訳有りません!」
「謝罪の必要はありません。何もなかったのですから。よろしいですね?」
「はい。承知しております」
セラ、こわっ!
でも助かった。
小さく手でごめんねありがとうしておく。
「姫様、問題はないかと。ギルド長はよくご承知の方ですから。
――そうですね?」
バルターさんの声も穏やかだけど、気のせいか怖い。
ギルド長が必死にうなずく。
何をご承知なのか。
私は気をつけなければ。
山での生活が長くて、つい能力を使ってしまう。
あと、年会費は無料と言われた。
本来なら金貨1枚だと嫌味っぽく言われかけて、たぶん、うしろでバルターさんが睨んだのだろう――。
ギルド長は口をつぐんだ。
……私、1枚くらい払えって言うなら払うよ?
とは、言わない。
商売が軌道に乗れば払えると思うけど、まだわからないし。
うん。
無料にしてくれてありがとう。
商売は自由にやって構わないとのことだった。
ただし本来なら品目ごとに制約があるので、目立ちすぎないように遊び半分でやってほしいと言われて。
またギルド長は口をつぐんだ。
まあ、うん。
そんな無茶なことをするつもりはないので安心してほしい。
私は常識ある子なので。
素材をギルドに卸したり、在庫を会員価格で買うこともできるそうだ。
「試しに、なんですけど……」
私はアイテム欄からアイアンインゴットを取り出した。
「これっていくらになります?」
「い、今!?」
「コホン」
うしろにいるバルターさんが咳をすると、すぐに係の者を呼んできますと言ってギルド長は部屋から逃げ出した。
「……クウちゃん様、人前で特別な力は使われない方がよろしいかと」
「ごめん。つい」
まさに、てへぺろだ。
またやってしまった。
「バルター、クウちゃんが物を空間から自在に取り出せるのは、貴重な魔道具の力ということにしてはどうでしょう?」
「そうですな。隠したままでは逆に不審ですし、いっそ理屈をつけてしまった方がよいかも知れません」
「たとえば、バッグをひとつ用意して、そのバッグを魔道具ということにして、そこから取り出すように見せる、とか」
「よいお考えかと」
「クウちゃんはどう思いますか?」
「……うん。そうだね。それでよしなにお願いしたいと思います」
私はなんにも考えていなかったので、お任せする。
「あと、身分もほのめかしてはどうでしょうか。わたくしの友人であり、とある遠い国のご令嬢とか」
「よいお考えかと。謎の平民であるより姫様との付き合いも容易になりますし」
「クウちゃんはどう思いますか?」
「すべてお任せします」
セラ、かしこい。
「では、そのように陛下に提案させていただきます」
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