385 ミルも一緒のご夕食
「……えー。というわけで、紹介します。こちらがミルです」
「はじめまして。妖精郷からクウ様に誘われて遊びに来ました妖精のミル・モアです。よろしくお願いします」
「正確に言うと勝手についてきただけです。誘ってはいません」
「またもー。クウ様ったらー」
「は?」
「やーん! セラー!」
というわけで。
私は今、大宮殿に来ていた。
夜。
居るのは、いつもの食堂だ。
いつもの――とは言っても、セラたちが使う豪華な場所だけど。
ミルを紹介する相手は、陛下に皇妃様にお兄さまにお姉さまにナルタスくん。
皇室のみなさんだ。
いいのかなぁ、とは思ったけど、いいと言われたので仕方がない。
まあ、ミルのことは魔道具『女神の瞳』で鑑定して無害だと判断されたみたいだしいいんだろうけど。
「あらあら。妖精さんの前では、いつもは可愛いクウちゃんも、まるで厳しいお姉さんのようですね」
皇妃様に笑われた。
ミルはセラのところに逃げて、セラとじゃれついている。
「はぁ。もう、なんか私、最近、疲れる立場のことが多いんですよー」
もういいや。
「ふふ。それだけクウちゃんが信頼されているということですよ」
「だといいんですけど……」
皇妃様に慰められて、私は息をついた。
この後、皇妃様たちのことも紹介して、夕食となった。
ミルも一緒に食べる。
さすがは大宮殿の調理人さんだ。
ミルの参加は突然のことだったのに、ちゃんとミルの大きさに合わせたミニサイズの食事が用意された。
「それでミル君、町はどうだったかね?」
「はい。すごく楽しかったです。お友だちもできました」
陛下に聞かれて、ミルが笑顔で答える。
「お友だちっていうか、騙されて捕まってただけだよね、ミルは」
一応、訂正しておく。
「そんなことないよー。ちゃんと楽しかったしー。ねえ、セラ」
「え? えっとぉ……。そうですね、あはは」
「セラー。ちゃんと言っとかないと、この子、また絶対にやらかすよー」
「あ、また連れて来てくれるんですか?」
「あ、そっか。もうこれで帰ったら二度と来ないからいっか」
セラに言われて気づいた。
考えてみればそうだよね。
「……ねえ、1番偉いニンゲンさん。私、ここが気に入ったから、もう少しいたいんですけどいたらダメですか?」
「だ、そうだが、どうするクウ?」
「ダメに決まってますー。どーせまた町で大暴れするだけですー」
陛下から話を振られて、私は即座に首を横に降った。
「ここの庭にいるからー。どこかに行く時もセラから離れないからー。私、もう少しセラやニンゲンとおしゃべりがしたいのー」
「ダーメーでーすー」
「あの、クウちゃん、大宮殿なら安全ですし、できればわたくしも……」
「やったー! ねえ、セラ、もっと遊ぼうっ!」
「ダメです」
私が突っぱねていると、ナルタスくんが申し訳無さそうに、僕も妖精さんとおしゃべりしてみたいです、と言ってくる。
皇妃様がミルに1人で勝手なことはしないって約束してくれるのよね、とたずねてミルは元気よくうなずいた。
お姉さまが元気なく私に笑いかけた。
「クウちゃん、流れには逆らえないものですわよ」
さらにはお兄さまが食事の手を止めて、なんだか楽しそうに言った。
「たまには保護者もいいものだな、クウ」
「あの、私、困っているんですけれども、お兄さま……?」
「はははっ!」
「なんで笑うんですかー」
「これは失礼。おまえの顔を見たら、ついな」
くぅぅぅぅ。
「……はぁ、もう、わかりました。ミル、何日かだけだからね? ちゃんとセラの言うことを聞くんだよ?」
「やったー! ありがとうございます、クウ様!」
「やりましたーっ!」
ミルとセラが嬉しそうに手を合わせる。
すっかり仲良しだね。
いいことだ。
それについては。
「少なくとも奥庭園と皇室の私空間にいる限りは安全だろう。だがクウ、申し訳ないが勝手に抜け出された時の保証はできんぞ? 承知してくれるのならば、こちらとしては構わない話だが」
陛下の言うことはもっともだ。
姿を消して、ふわふわとどこかに行かれたら、どうしようもないだろうし。
「ホント、すいません。それは承知しますので、よろしくお願いします」
こうしてミルは、しばらくの間、大宮殿でお世話になることになったのでした。
私は疲れた。
疲れたのでこの夜は帰らず、セラの部屋で寝ることにした。
最初はミルもいるので、疲れたけど頑張って帰ろうかと思ったんだけど。
セラだけでなくミルにも一緒に寝ようと誘われたので。
私、ミルには嫌われたかなーと思ったけど、そんなことはないみたいで、正直、少し安心したというか嬉しかった。
でも、うん。
間違ったことは言っていないはずなんだけどね!
ちなみにミルはベッドに寝転ぶと、柔らかいと喜んで、すぐに熟睡した。
実に幸せそうな寝顔だった。
ミルが寝た後、セラとおしゃべりする。
サギリさんを中心とした強力な護衛に守られていたとはいえ、今日、セラは生まれて初めて路地裏に入ったのだ。
陛下たちにはさすがに言えなかったみたいだけど、興奮冷めやらぬ様子だった。
翌朝。
私はミルを大宮殿に残して、1人でふわふわと家に帰る。
すると家の前で、バッタリ、ヒオリさんと会った。
ヒオリさん……。
気のせいではなく、とてもお疲れの様子だ。
どうしたんだろう?
「店長……。申し訳ありません……。某、一晩中頑張りましたが、どこにも妖精の姿を見つけることはできませんでした……。店長も今お帰りということは、やはり見つけることはできなかったのですね……」
…………。
……。
そうだったぁぁぁぁぁ!
私はヒオリさんの肩に正面から両方の手を置いて、深々と頭を下げた。
「……ごめん、ヒオリさん。……実はとっくに見つかってた」
「そ、そうでしたか……。それならばよかった、です……。某は疲れましたが……」
ごめんよぉぉぉぉぉぉ!
ヒオリさんのこと、完全に忘れていたぁぁぁぁぁ!
この後、ヒオリさんをしっかりとねぎらって、姫様ロールと姫様ドッグのお店に行ってみんなに謝罪して。
損害を弁償しようと思ったけど断られて――。
というか、すでに話はついていた。
ミルの騒動については、すでに国が動いてくれていたようだ。
ありがとうございます。




