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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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383 ミル捕縛大作戦!




 なんか、うるさい……。


 ドンドン!


 ドンドン!


 なんだろ、この音……。

 ああ、誰かがドアを叩いているっぽいね……。


 せっかく気持ちよく寝ていたのに誰だよもう。

 ぶっ飛ばしてやる。

 このクウちゃんさまの安眠を妨げるとは、絶対に許さんからな。


 と思ったら、許せる声が耳に届いた。


「クウちゃん! クウちゃん!」

「え。あ。セラ?」


 窓から見下ろすと、家の前に馬車が止まっていて警備の人たちがいる。


 私は急いで窓から『浮遊』して玄関に降りた。


「やっほー」

「クウちゃん!」

「おはよう、セラ。どうしたの?」


 そんなに焦って。


「大変なんですっ! 実はミルちゃんが勝手に飛んで行っちゃって!」

「え。ミル?」

「はい! 実は昨日、ミルちゃんと出会いまして……。その……。実は、わたくしの部屋でお泊りしていたんです……」

「そうだったんだ」


 まさかの大宮殿にいたとは。


「それでミルちゃん、クウちゃんに黙ってついてきたっていうから……。こっそり連れてきたんですけど……。途中で姫様ロールの話が出て、そうしたら食べたい食べたいってなっちゃって……」

「行っちゃったんだ……」

「はい……。すいませんでした……本当に……」

「ううん。預かっていてくれてありがとう。無事でよかったよ。実は昨日の夜、ずっと探してたんだよねぇ」

「あううぅぅ。わたくしがちゃんと説明していればぁぁぁぁ」


 セラはきっと、私が怒られないように気を遣ってくれたのだろう。

 食事の席には陛下も皇妃様もいたし。

 むしろ感謝する話だ。


 ともかく探しに行くことにした。

 1人で行こうと思ったけど、セラもついてくると言う。

 でもそれだと遅くなるから――。

 と言いかけたところでセラが身体強化の魔法を使った。

 そうだった。

 フェアリーズリングの補助があれば、アンジェやエミリーちゃんと同じように、セラもすでに身体強化できるのだった。

 みんな、すごいよね、ホント。

 あっという間に強くなっていって驚く。


「行きましょう、クウちゃん!」

「うん」


 私たちは2人並んで走った。


 うしろから護衛の人たちの声が聞こえて、消える。

 ごめんよー。

 でも、急いでるからー。


 中央広場には、あっという間に到着した。


 ミルがいることはすぐにわかる。

 姫様ロールの商品棚で、おいしーおいしーっ!と黄色い声をあげながらクリームを思うままに頬張っている。


 お店の前は酷い有様だった。

 ミルが飛び回って、みんな驚いたのだろう。

 テーブルや椅子がひっくり返っていた。

 誰かに踏まれて潰れてしまった姫様ロールや姫様ドッグが痛々しい。


 お客さんたちは、ミルのことを遠巻きに見ていた。


 ……なあ、あれって妖精か?

 ……だよな?

 ……魔物ってことか? 衛士に連絡しないと。

 ……いや、あんなに可愛いんだぞ、魔物ってことはねーだろ。


 などの会話が聞こえる。

 妖精が精霊と共に世界から消えて、すでに千年。

 だけど精霊と同じく、世界には多くの伝承が残っている。

 なのでミルのことは、きちんと妖精として市民にも認識されている様子だ。


 それにしても……。


 ひとつだけ大人しく食べていればまだしも……。


 ミルのヤツ、棚に置かれた姫様ロールを一口ずつの勢いで食い散らかしている。

 食べずにダイブしただけの姫様ロールもあるようだった。

 たくさんの商品がすでに台無しになっている。


 カウンターの向こうにいる店長のおじさんは、ひたすらにあわあわとして、なにもできないでいた。


「ミル! 食べ物を粗末にしてー!」


 私は怒って近づいた。


「あわ! クウ様!」


 気づいたミルがびくんと羽根を震わせた。


「ほら、帰るよ」

「やだー」


 羽根をつまもうとすると、するりとすり抜けて逃げられた。


「すいません、おじさん。後で弁償しますので」

「……いや。それよりお嬢さんの知り合いなのかい、その妖精さんは?」

「はい。勝手についてきちゃって」

「妖精さん……だよね?」

「はい。妖精のミルです」


 私が名前を伝えると、姫様ロールを盾に隠れていたミルがひょっこりと顔を出しておじさんに愛想よく笑った。


「ねーねー! これって貴方が作ったの?」

「ああ、そうだけど……」

「へー! すごいんだね! おいしいよ、すごく!」

「そうかい、それはありがとう……」


「もー! ミル! おいしいじゃないの! こんなに大暴れして! ほら、さっさと妖精郷に帰るからこっちに来る!」

「やだー!」

「わがまま言わないの!」

「だって、ニンゲンの世界には、もっともっと美味しいものがあるよね?」

「それはあるけど」


 しまった!


 ここはそんなものはないと言うべきだった!


「クウ様、私、もうちょっとだけ探検してきますねー! 夕方になったら泉のところに迎えに来てくださーい!」

「こら駄目だって――。うわはっ!」

「あはは! めいちゅー!」


 ミルに思いっきり姫様ロールを投げつけられた!

 顔に直撃したぁぁ!


 痛くはないけど、もう怒った!


 私はクリームを払い除けて、逃げていくミルに狙いを定めた。

 黒魔法の雷撃でこがしてやる!


「ライトニング――!」

「クウちゃん駄目ですよぉぉぉ! クウちゃんの攻撃魔法じゃ強すぎて、ミルちゃんが死んじゃいますからぁぁ!」


 くぅぅぅぅぅ!


 クウちゃんだけにぃぃぃぃぃ!


 セラに腕を掴まれて、魔法を放つことができなかった!


 でも、まあ。


 たしかに私のライトニングボルトでは、ミルを消滅させてしまうか。

 危なかった……。


「……ありがと、セラ。私、どうかしてたよ」

「それよりも追いかけないと!」


 この後も大変だった。

 ミルは気の向くままにあっちへ飛んではこっちへ飛んで、いろいろなお店で売り物を食べ散らかしていく。

 まわりのパニックもあって、なかなか追いつけない。

 追いついたと思っても、ミルは小さいので魔法の照準固定が難しい。

 手づかみすることもできない。

 妖精には強い直感があるのか、それとも運がいいのか、よしこれで行けるというタイミングに限って、ふいに軌道を変えるのだ。


 そもそも私、眠い。

 ダルい。

 頑張っているけど、徹夜明けでどうにも集中力が出ないのだ。


 で、結局、見失ってしまった。


「どこ行ったぁぁぁ……」

「……騒ぎになるから、すぐにわかるとは思いますけど」

「ミルー……。出てこーい……」


「クウちゃん発見」


 そこにブリジットさんが来た。

 姫様ドッグで働く時の、ツインテールにエプロン姿だ。


「ブリジットさん!」

「妖精が出て大騒ぎ。クウちゃんの友達という噂は本当?」

「はい……。すいません、ご迷惑をかけて……」

「手伝えることはあるかな?」

「あ、じゃあ、すいません、お店に戻ってもらっていいですか? あの子、姫様ロールがお気に入りなので、また来るかもなので。もし来たら、なんとか、こう、水の魔術で拘束してもらえると……」


 私がお願いすると、ブリジットさんが手のひらから水のロープを出す。

 さすがだ。

 水のロープには強い魔力を感じる。


「これで縛っていい?」

「はい。お願いします」


 ブリジットさんならミルを捕まえることができそうだ。


 ブリジットさんはうなずくと、広場に戻っていった。


「クウちゃん、今のってSランク冒険者のブリジットさん――ですよね?」

「うん。そうだよ」

「姫様ロールの店員さんなんですか?」

「そのとなりにあった、姫様ドッグの店員さんだよー」

「Sランクなのにですか?」

「うん」

「調査報酬は莫大だと聞きましたし、お金に困っているとは思えないのですが……。働かれているんですね」

「あ、私もたまに店員さんしてるよ」

「そうなんですか。すごいお店なんですね」


 話していると、シルエラさんが来た。

 お。

 忍者のサギリさんも一緒だ。

 実に目立たない普段着で、シルエラさんのとなりにごく自然にいる。


「姫様、あまり1人で走らないで下さい。危険です」

「すいません、シルエラ。でも――」

「――ここからは我らも護衛につかせていただきます。ご容認を」


 サギリさんが言う。

 サギリさんがいるならセラも安心だね。

 しかも、我らということは、他にもまわりにいるようだ。


「ねえ、セラ。それなら手分けしようか。ミルは私でもうまく感知できないし、手当たり次第しかなさそうだから」

「そうですね……」


 セラはミルと一晩を過ごした仲だ。

 話すことはできる。


「とりあえず一時間後に姫様ドッグに集合ってことで」

「わかりました」


「姫様方、ご許可いただければ我らでも捜索させていただきますが――」

「あ、お願いしてもいいですか? セラの護衛が手薄にならない範囲で」

「――お任せを」


 なんだか話が大きくなってきちゃったけど。

 こればかりはしょうがない。

 とにかくミルを見つけて、とっ捕まえるのが第一だよね。



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さすがは妖精。イラズラっ子や
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