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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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375 新たなる出会い




 受勲式の翌日、私は朝から家を出た。

 特に用事はない。

 空に浮かんで、帝都から出て、緑豊かな丘陵の上をふわふわと『浮遊』した。


 今日もいい天気だ。


 青空の中、体から力を抜いて、ただ風に流れていく。


 まるで世界に溶けていくかのような心地よさだ。


 正直、今日はお店を開けておきたいところではあった。

 やることがないんだから特に。

 ウェーバーさんも、ユイちゃんぬいぐるみの売上を渡したがっていたし。

 それについては私がもらいに行った方が早いんだけど、なんとなく、いやらしくて行けないでいた。

 ごめんよ。


 では、なぜ、それなのに私はふわふわしているか。

 嫌な予感がしたからだ。

 今日は店にいるとロクなことにならないという直感が、今日の私をふわふわと空に漂わせているのだ。

 いや、うん。

 だってさ、ボンバーが来そうだし。

 ……今度、タタくんによくお願いしておこう。

 いっそボンバー阻止用の魔道具を作って、タタくんに渡すか。

 うん、それがいい。

 そうしよう。


「決定ー。よしよし、またひとつ問題を片付けてしまった。私、我ながら、ホントにかしこい精霊さんだねえ」


 これで今夜は心置きなく騒げそうだ。


 今夜は楽しみなのだ。

 たぶんロックさんがSランク記念の俺の奢りだをやるはずだし。

 きっと盛り上がることだろう。

 必ず参加せねば。


 ただ、確定ではないけど。


 なにしろSランクになったことで、貴族や有力者からパーティーに誘われることが多くなるらしい。

 さすがに、昨日の今日でのお誘いはないと思うけど。


「あ、そうだ。お祝いに新しいギャグを披露しないとだなぁ……」


 いつもの定番、手のひらで花を咲かせて美少女スマイルを披露する「花咲くクウちゃん」の特別お祝いバージョンでもいいけど。


「なにかないかなぁ……」


 私、思う。


 プロの芸人さんたちは、一体、日々、どうやってギャグを考えているのか。


 私は、だいたいの場合は、最初にひとつの言葉を決めて、その言葉から何か面白いことはないかと考えていく。


 たとえば、そうだなぁ……。


 ゴブリン。


 ゴブリンでなにかないか……。


 ごぶぅ。


 ゴブりん?


 私、魔法少女ゴブりんちゃん!


 五分五分?


 んー。


 微妙だ。


 パッと思いつかない時には、本当に苦労するものだ。


 こんな時は、キーワードを切り替えるに限る。


 ゴブリンが駄目なら、オーガとか。


 おーまいがっ!


 オー。が?


 王が?


 王がオーガに食われた! おーまいがっ! オーガだけに!


 ふむ。


 魔物をネタにするのはやめたほうがいい気もするね。



 と――。


 そんなこんなでふわふわ青空を漂っていると――。


 おや。


 眼下の街道で、なにやら騒ぎを見つけた。


 三台の荷馬車が止まっている。


 街道の脇で、護衛の冒険者が剣を振り掲げている。

 刃がきらめいている。


 ふむ。


 念の為にローブを着て、姿も消して。

 すーっと近づくと……。

 斬られようとしているのは、尻餅をついた一体のゴブリンだった。

 襲撃を仕掛けて返り討ちにされようとしているのかな。

 ただ、それにしては様子がおかしい。


 なにしろ居るのは、尻餅をついたそのゴブリンだけだ。


 しかもなにやら様子がおかしい。


 手のひらを向けているゴブリンの様子は、待って待って戦う気はない! とアピールしているかのようだ。

 いや、実際、そうに違いない。

 なにしろゴブリンは武器を持っていない。

 かわりにまわりに転がっているのは、ゴブリンが抱えていたであろう森の中で採ったと思しき天然の果実だ。


 しかも、このゴブリン、ゴブリンくんだろうか。

 まだ若そうな彼は、粗末とはいえ、半袖半ズボンの服を着ている。

 とんがり帽子もかぶっていて、緑肌の小鬼族ではあるんだけど、まるでおとぎ話に出てくる妖精さんだ。


 私はさらに近づいた。


「待て……! オラはオメェらを襲いに来たわけじゃねえ……!」


 ゴブリンくんが流暢にしゃべっている。


 冒険者たちも戸惑っているようだ。


「おい、どうする?」

「どうするってよ……。ゴブリンだぜ?」

「そうよ。信用できるわけないでしょ」

「なら、ほっとくか?」

「狡猾な連中だから、背中を見せると何されるかわからねぇぞ」

「それはそうか……」


 冒険者たちの相談は、交渉ではなく、処理でまとまりそうだ。

 相手は魔物だしね。

 安全のために、その結論を出すのはわかる。


 とはいえ、相手は流暢に言葉をしゃべっている。

 しかも武器を持っていない。


 敵反応は……。

 もともと野外の魔物には反応していないから判断基準にはできないけど。

 冒険者たちにも敵反応はない。

 普通に依頼を受け、普通に護衛仕事をこなしている人たちなのだろう。

 彼らからすれば、街道に現れたゴブリンを処理するのは当然だ。


 とはいえ私には、悪意あるゴブリンには見えなかった。


 どうしようか。


 私は迷いつつも姿を見せることにした。


「こんにちはー」


 ゴブリンくんと冒険者の間に立つ。


「な、なんだっ!?」


 驚いた冒険者たちが、さっとうしろに飛び退く。

 いい反応だ。


「ごめんね、突然。ちょっと声が聞こえたから」


「……ど、どこから現れた!?」

「こんないい天気なのにローブを深く着て怪しいヤツめ!」

「まさかアンデッドか!?」

「こんな昼間に!?」

「おい、油断するな! 視線を合わせるな!」


 ふむ。


 アンデッド扱いされていますね、私。


 しかし、こんな時に便利なアイテムを私は持っているのだ。


「私はこういうものです」


 アイテム欄から帝国印のペンダントを取り出して、見せる。

 帝国でも選ばれた人しか持つことのできない、権力者の証になるものだ。


 冒険者たちは驚き戸惑って、偽物かと少し疑われもしたけど――。

 ごめん、セラ。

 またもや皇女殿下の世直し旅だと思われたようで――。

 結局は剣を収めて膝をついてくれた。


「この場は私が預かります。皆さんは仕事を続けて下さい」

「し、しかし……。危険では……」

「大丈夫です。私には光の加護がありますから」


 ごめん、セラ!


 なんか聖女っぽい台詞を、ぺろっと言ってしまった!


「貴方がたにも光の加護を。ブレス」


 祝福魔法をかけてあげた。


 これで完全に信じてもらえたようで、冒険者たちは仕事に戻ってくれた。

 商隊が動き出す。

 商人さんたちがおそるおそるの様子で私のことを見る。

 私は軽く手を振ってお見送りした。


 商隊が遠ざかってから、私は尻餅をついたままのゴブリンくんに目を向けた。


「大丈夫? 立てる?」

「あ、ああ……。オラはちゃんと立てるだ……」


 ゴブリンくんがよろよろと身を起こす。

 怪我はないようだ。


 私は転がっていた果実をひとつ拾って、ゴブリンくんに渡した。


「はい。君のだよね?」

「ああ……。オラんだ」


 ドイツんだ?


 と言いかけたけど耐えた私は素晴らしい。

 ゴブリンくんのだしね!





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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔法少女ゴブりんちゃん登場!? [気になる点] このゴブリンくん、3桁の足し算も出来そうな気がするぞ\(^o^)/
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