373 Sランク!
ちなみに勲章は、もらったら貴族になれるとか年金がもらえるとかではなく単に名誉的なもののようだ。
まあ、それでも十分に嬉しいものだろうけど。
金一封もあるそうだし。
さて。
その受勲もおわった。
あとは陛下が最後になにかしゃべるみたいだし、それでおわりかな。
私はヴェールごしに会場を見渡す。
見る限り、眠そうにしている冒険者は……いない。
みんなピシッとしている。
ロックさんですら姿勢を正している。
眠いのは私だけか。
我慢せねば……。
「――さて、諸君。本日は勇敢なる君たちを称えるために、こうして場を取らせてもらったわけだが、実はもうひとつ、君たち冒険者に伝えたいことがある。君達のさらなる活躍を期待して、だ」
ふむ。
なんだろか。
私も一応は冒険者だから気になるところだ。
増税!とかではないよね、きっと。
それだとさらなる活躍どころか、ヤル気ダウンだし。
「我が帝国において、冒険者の貢献度は高い。ダンジョンからの魔石採取に始まり、商隊の護衛に野外の魔物討伐。兵では手の届きにくい箇所を実に効果的にカバーし、帝国の発展に寄与している。そして遂には今回のように、英雄的な働きをする者まで現れた。誠に素晴らしいことである」
冒険者は自己責任で、国の負担がないしね。
それは国としては重宝するだろう。
「そこで、余は決めたのだ」
余だって。
思わずクスっとしたけど、陛下なんだから当然か。
「そう――。
かつては存在し、現在では廃止されている――。
一流を超えた証――。
英雄たる証――。
その称号の復活を」
会場がざわめく。
ここで陛下が脇に退いた。
いつの間にかステージに来ていた冒険者ギルドのマスターが話を引き継ぐ。
「Aランク冒険者パーティー『赤き翼』、ステージに上がれ」
マスターに言われて、ロックさんたちがステージに来た。
流れ的にロックさんたちが称号をもらうんだね。
ギルドマスターの前に並ぶ。
ロックさんたちは、やや戸惑い気味だ。
先のボンバーと同じく、この称号授与は聞いていない話だったのだろう。
まさかとは思うけど、「勇者」とかだろうか。
その称号は危険な気がするけど……。
なにしろ魔王と対らしいし。
「テメェらはディシニア高原に現れたダンジョンの最下層において、恐るべき邪神の使徒の討伐に成功した。
放っておけば間違いなく大災害となった事案だ。
まったく、命知らずにもほどがあるが、よくぞ成し遂げた。
と、言うわけで、だ。
皇帝陛下の決定を受け、バスティール帝国冒険者ギルド、ギルドマスター、ギルガ・グレイドールが宣言する。
本日ここに――。
テメェら『赤き翼』を、Sランク冒険者パーティーと認定する!」
マスターが高らかに告げた。
会場が静まる。
だけど次の瞬間には、おおおおおお!、という大歓声が起きた。
そういえばSランクって廃止されていたんだっけ。
昔、Sランクの人たちが横暴に振る舞いすぎて。
「テメェらは今日から帝国冒険者の顔だ。恥ずかしい真似はするんじゃねえぞ」
式典はおわった。
私は来た時と同じように、皇妃様に続いて退出した。
冒険者のみんなは別室に案内されて立食パーティーのようだ。
「クウちゃんも冒険者なんですよね?」
更衣室に戻る途中でセラに聞かれた。
「うん。そだよー」
「ランクはいくつなんですか?」
「私はFだよ」
「Fは、Sと比べて、どれくらいなんでしょうか? クウちゃんのことだから、きっとすごいんですよね?」
「ううん。一番下だよー」
「そうなんですか」
「実は冒険者としては、薬草採集の仕事しかやったことがないんだ」
「あら。クウちゃんはダンジョンのボスを何度も倒しているのでしょう? 申請すればランクアップなんてすぐなのではなくて?」
「あはは……。えっと、それは、こっそりとだったので……」
「ああ、そうでしたわね」
皇妃様がくすりと笑う。
つづけて、アリーシャお姉さまが私に話しかけてきた。
「それにしても、わたくし、初めて一流の冒険者を間近に見ましたけれど、皆、当然ながら強そうでしたわ。ねえ、クウちゃん、わたくしと彼らと、剣で正面から戦ったとしたらどんな感じになると思いますか?」
「さあ、どうでしょうか……」
「やはりわたくしでは、歯が立ちませんか?」
お姉さまは強くなったけど、ロックさんに勝てるかと言えば無理だ。
ロックさんは純粋に強かった。
私も正直、戦ってみたいくらいだ。
でもボンバーになら勝ててしまう気がする。
とは思うけど、やっぱりわからない。
なにしろ勝負は力と技だけでは決まらない。
冒険者は、経験と度胸が違う。
ボンバーに大声で吠えられて大剣を振るわれれば、お姉さまはすくんで動けなくなるような気がするし。
「アリーシャは歯が立つ立たないの前に、まずはお腹を元に戻しなさい。剣の修行でも良いので早急に」
皇妃様がピシャリと言った。
「は、はい……」
お腹に手を押さえてうなだれるお姉さまが可愛らしい。
思わず笑いかけたけど、我慢した。
「お姉さまは、お菓子を禁止にするべきだと思います……。食べ過ぎです……」
セラが申し訳無さそうにつぶやく。
「そうですね。そうしましょう」
即座に皇妃様が同意した。
「え? セラフィーヌ? お母様? わたくしからお菓子を取り上げて、では、一体なにを食べろというのですか?」
あの、お姉さま。
その食べることをやめろという話だと思いますよ、たぶん。
お姉さま復活の道は、けっこう遠そうだ。
私的には、落ち込んだり驚いたりするお姉さまはけっこう新鮮でかわいいので、もう少しこのままでもいい気はするけど。
ぷよったと言っても、まだ致命的ではないし。
いや致命的だったか。
ドレスが着られなかったし。
まあ、うん。
ダイエット、頑張って下さい。
私は余計なことは口にせず、心の中でお姉さまを応援した。
「それにしてもSランクの方の中には、かなり若い女の子もいましたね」
セラが言う。
「あ、ブリジットさんだねそれ」
「あの方が、よくクウちゃんが話しているお笑い上手の方なんですね」
「そそっ! ブリジットさん、面白いんだよー」
「いいなー。わたくしもお話ししてみたいです」
セラが羨ましがると皇妃様もうなずいた。
「そうですね。わたくしもSランクの方には興味があります。幸いにもその内の1人であるノーラのことは存じておりますし、後の女性2人も呼んで、この後、奥庭園の東屋で少しお茶会をいたしましょう」
「やったー! ありがとうございます、お母さま! クウちゃん、どうですか?」
「私はいいけど……」
いいのだろうか。
ブリジットさんとルルさんは礼儀作法なんて勉強していないはずだ。
失礼があるかも知れない。
その点を気にすると、皇妃様は笑って気にしないと言った。
クウちゃんとも楽しくやれているでしょう?
と、言われてしまった。
あはは。
たしかに。
「あの、お母様、わたくしも参加したいのですけれど……」
アリーシャお姉さまがおそるおそるたずねる。
「構いませんよ。ただし、ケーキやクッキーに口をつけることは許しません。紅茶に砂糖を入れることも禁止です」
うわぁ。
お姉さまが、死にそうな顔になった。
だけど仕方ないよね。
がんばれ、お姉さま!
私は少しお腹が空いてきたし、すいません、ケーキ、食べたいけど……。
美味しそうに食べちゃったらごめんなさい。
かくして。
礼装を脱いで軽めのドレスに着替えた後、ブリジットさんたちとのお茶会となった。
どうなるんだろうか。
正直、想像がつかない。




