372 受勲式
お姉さまのことで大変だったものの、私も無事にドレスに着替えて、ロックさんたちの受勲式に参加することになった。
なぜか、皇妃様、アリーシャお姉さま、セラと共に入場する。
ホールでは、もう殆どの人が席についていた。
私たちは、ほぼ最後だ。
はい。
私は誰でしょうね。
かしこい精霊のクウちゃんです。
皇族ではないのですが、まるで皇族のように歩いています。
とはいえ、今の私は顔にヴェールをかけている。
目立ちすぎない方がいいだろうと皇妃様が気を利かせて、そうしてくれた。
空色の髪も結い上げられてヴェールの中。
一目では、私が誰かはわからないだろう。
あ。
席に向かう途中で、居並ぶ冒険者たちの最前列にいたロックさんと目が合った。
やっほー。
ヴェールを持ち上げて、小さく手を振ってみた。
ロックさんが目を丸くして驚いて、声を上げかけて、あわてて押し留めた。
あはは。
面白い反応だ。
それだけで、参加した甲斐があったというものだ。
私は皇妃様たちに続いて、ステージに上がった。
ステージ脇に置かれた椅子に着席する。
セラの隣だ。
思いっきりの貴賓席だ。
バルターさんを始めとして、いかにも重鎮な人たちがまわりにはいた。
いや私、ここでいいの?
場違いですよね?
とは思ったものの、今さらどうにもならないのであきらめた。
私はホールの椅子に座る冒険者たちに目を向けた。
大勢いる。
ざっと100人以上だ。
前列にいるのは、AランクとBランクの人たちかな。
年齢は20代から中年以降な人まで様々だったけど、みんな、只者ではない強者の雰囲気を持っている。
いつもは馬鹿騒ぎしているだけのロックさんも、ちゃんと見れば精悍な顔立ちと逞しい体つきをしている。
正装したブリジットさんはかわいいお嬢さんにしか見えないけど。
後列にはボンバーやタタくんの姿もあった。
防衛戦に参加したみんなも、今回の式典に呼ばれたようだ。
ボンバーとタタくん、学院の制服を着て、ピンと背筋を伸ばして前を見て、石像みたいに微動だにしていない。
そこまで緊張しなくてもいいのに。
最後にお兄さまが着席して、いよいよ式典が始まる。
皇帝陛下は、司会の人に紹介されてからの登場だ。
陛下が自らの言葉で、今回の禁区調査における冒険者たちの勇敢な働きを称える。
誰1人、逃げ出さずに戦ったそうだ。
そして「高名な神官」の手助けがあったとはいえ、見事に魔物を退け、それどころか禁区から瘴気を取り払った。
ユイの存在は、きちんと伏せてくれている。
お忍びだったしね。
有り難や。
まあ、もっとも、みんなわかっている公然の秘密なんだけど。
そして、特に功績のあった者たちが、1人ずつ、名前を呼ばれてステージに上がる。
奥地の調査をしていたAランクとBランクの人たちは全員が呼ばれた。
陛下が1人ずつに声をかけ、アリーシャお姉さまが1人ずつに勲章を渡していく。
アリーシャお姉さまはこれがしたかったのだ。
一度でいいから、間近で冒険者を見てみたかったらしい。
あらためて私は思った。
そかー。
私なんて普通に遊んでいるけど、アリーシャお姉さまのような存在だと冒険者と触れ合う機会なんてないよね。
そう考えると、別世界の人間だよね、本当に。
まあ、私、今、なぜか別世界側の席に座っているんだけど。
若手の中では、まさかのボンバーがステージに呼ばれた。
冒険者ギルドマスターの窮地に駆けつけ、命がけでギルドマスターの命を救ったことが高く評価されたようだ。
ボンバーは事前に聞かされていなかったようだ。
本当に私で間違いないのかと、珍しく動揺した様子で何度も確認してから、おそるおそるステージに上がった。
「君の活躍は聞いている。若手ながら大した勇気だった」
「はい。マイエンジェルが、私に勇気をくれたのです」
おい待て。
それは誰のことだまさか私じゃないだろうな?
「はははっ。それは恋人のことかね?」
「はい!」
ボンバーが堂々とうなずく。
いや絶対にちがうからな?
アリーシャお姉さまが、そんなボンバーに勲章を渡した。
「貴方のことは同じ学院生として見知ってはおりましたが、まだお若いのに本当に鍛えていらっしゃるのね」
お姉さまが声をかける。
「はい。常にマイエンジェルを守ることができるように、鍛錬だけは欠かしていません」
「恋人さんが羨ましいですわね。末永く仲良くありますようにと、わたくしからも言葉を送らせていただきますわ」
「ありがとうございます、皇女様」
ボンバーがうやうやしくお辞儀する。
やめてお願い。
よじれる!
身がよじれて、私、椅子から落ちそうになるからぁぁぁ!
お姉さま、真実はそこにありません!
気づいて!
「……クウちゃん。……どうかしましたか?」
私の様子に気づいたセラが、心配して足に触れてくる。
「ううん。なんでも。ありがと、セラ」
ボンバーがステージから降りる。
危なかった。
なんとか私、椅子から転げ落ちずに済んだ。
Aランクパーティー『赤き翼』は、すべての冒険者の最後に呼ばれた。
ブリジットさん、ルルさん、グリドリーさん、ダズさん、ノーラさん。
1人ずつ、ステージに上がった。
なんとトリを務めるのはロックさんだった。
「クウちゃん、ロック・バロットとはお知り合いでしたわよね?」
お姉さまが聞いてくる。
「はい。友達です」
「ならせっかくですし、彼にはクウちゃんが渡して下さい」
「いいんですか?」
「ええ。その方が面白いでしょう?」
たしかに。
せっかくなので、やらせてもらうことにした。
まずは陛下が言葉を送って、それから私の出番が来た。
「おめでとう」
ロックさんに勲章を渡す。
「……あ、ありがとうございま、す」
思いっきりぎこちなく、ロックさんは受け取った。
さすがにこの場で「おいおまえどうしてここにいる!」とは聞けないしね。
ロックさんが私に敬語を使うとは。
くくっ。
面白い反応だ。
ロックさんがステージから降りる。
最前列の席に戻った。
陛下が冒険者たちに向けて、再び話を始める。




