37 セラの魔力の色は
「……えっと。ごめんね、セラ。勝手に魔法を使っちゃって」
「いいえ、あの子の怪我が治ってよかったです」
セラは気にしていない様子だけど。
後で確実に私は陛下に怒られるね。
あきらめて謝る準備をしておこう。
「でも、わたくしも魔術を使いたいです。適性さえあれば」
「見てみようか?」
「わたくし、前に適性がないと診断されまして……」
「未覚醒の適性があるかも知れないよ? あれば私が覚醒できるし」
「……お願いしてもいいですか?」
「もちろんっ」
小剣武技のかわりに緑魔法をセットして「魔力感知」。
するとセラの全身が白く輝いて見えた。
「あれ、セラ、もう魔力覚醒してるよ?」
「わたくしが、ですか? でも……」
「うん。間違いないよ、ちゃんと見えてるし。白い光だから――こっちの世界的には光属性なんじゃないかな?」
「光属性なんてとんでもないですっ! それって聖女様じゃないですかっ!」
「でも、うん。セラの魔力の色は白だよ。間違いなく」
「わたくしが……本当に……?」
セラが信じられないといった顔で自分の手のひらを見つめる。
噂は噂じゃなかった。
真実だった。
素晴らしいことだ。
「帰ったら陛下に相談したほうがいいかも。覚醒していれば、後は魔術書で勉強して魔術は覚えられるって聞いたし」
「はい。今夜か明日にでも時間を作ってもらおうと思います。本当にわたくしにも魔術が使えるなら、とても嬉しいです。誰かを救える力なら、尚更」
「私に教えられればいいんだけど、法則が違うみたいでねぇ」
「クウちゃんは、どうやって魔術を唱えているんですか?」
「私のは魔法なんだー。まあ、名称の違いはどうでもいいんだけど……。強いて言うなら意思の力かな」
「……意思、ですか?」
不思議そうにセラが首を傾げる。
「うん。理屈がないんだよ。ヒール。これでほら発動。必要なのは、魔法を発動させたいって気持ちくらいで」
「不思議ですね……」
「剣なら教えてあげられるんだけど」
剣なら理屈があるし、適切な動作はわかる。
「ぜひ教えてくださいっ!」
「え。剣?」
「はいっ! わたくしも強くなりたいですっ! クウちゃんみたいに!」
「い、いいけど……」
「ありがとうございますっ!」
「……いいの?」
ずっと無言のシルエラさんに聞いてみる。
「姫様のご意思に口を挟む権利は、私にはありません」
「なら今度、教えてあげるよ」
「はいっ! がんばりますっ!」
喜んだ後でセラはしゅんとする。
「でも、ごめんなさい。わたくし、クウちゃんに助けられてばかりですね」
「いや、うん。真面目な話、助けられているのは私だけど」
「……そんなことはないです」
タダ飯。
タダ宿。
タダ家。
すべてセラのおかげだよね、これ。
ただこれを言うと、お金の関係! になるので言えなかったけど。
あと、身代わりも。
もちろん、お金や権力で友達になったわけじゃない。
セラが綺麗な心の持ち主だと直感したから友達になったのだ。
「ねえ、セラ。どうしてあの時、私と友達になろうって言ってくれたの?」
「それは……。クウちゃんがとても綺麗に見えたからです。この人は、すごく優しくて大好きになれる人だって思って」
「私もだよ。だから、卑下するのはやめよ? 友達なら助け合っていいよね。むしろ当然のように助け合おう!」
「……はいっ!」
こぼれかけた涙を指で拭って、セラは笑った。
「でもクウちゃんは、一体どうやって、悪い貴族を剣で懲らしめることができるほどの力を手に入れたんですか?」
「それは実戦だね」
「実戦……?」
「うん。私、ずっと戦場にいたから」
レベル上げから始まって、ミッションの攻略、『アストラル・ルーラー』取得を目指したレイド連戦。
さらには、対人戦。
ただひたすらに戦い続けたのがクウ・マイヤの人生だった。
生産をやったり、季節イベントに参加したり……。
そういう、まったりした時間もあるにはあったけど……。
やはり生活の中心は戦闘だった。
「――辛くはなかったのですか?」
シルエラさんが聞いてくる。
「もうね、必死?夢中? だった。だから辛くはなかったよ。どうしてあんなにもすべてを賭けて戦っていたのか自分でもわからない。でも気づいたら精霊第一位になってて、楽しくはあったなぁ」
大学時代後半、就職活動をほぼ捨てて私はゲームをしていた。
我ながら本当にバカだった。
「まあ、最後には死んじゃったんだけどねー」
「死んじゃったんですか!?」
セラが目を開いて驚く。
「あ、正確にはどうだろ。死んだらアシス様に救われて、こっちの世界でふわふわすることになったの」
「創造神さまがお救いに……」
「うん。ふわふわするために私はここに来ました」
「壮絶な精霊人生だったのですね……」
「だねー。あ、でも、まだおわってないからね!? 私、ちゃんとまだここで生きているから幽霊じゃないよ!?」
「ごめんなさい、そうですよね」
セラが楽しそうに笑った。
よかった。
元気になってくれたかな?
いろいろ余計なことを話しすぎた気もするけど、すべて真実だ。
問題はないだろう。
「……あの、よければ教えてもらえますか? クウちゃんを一度は殺したのは、どのような存在なのでしょうか?」
「闇」
「闇……?」
「巨大な、世界を包む闇。私はそれに呑まれた」
泥酔して車道に飛び出して最後に見たのは、まさに闇だった。
道は外灯で照らされていた。
夜でも明るかった。
だから私たちは、何の警戒もせず、車道に飛び出した。
目の前に現れたのは、トラック。
巨大な影。
闇。
私たちは呑み込まれて、死んだ。
トラックの運転手さんは何も悪くないけどね……。
悪いのは……酒だ!
酒は飲んでも飲まれるな。
心に誓おう。
「私は――。今度は、負けない。だから平気だけどね」
そう。
お酒は飲まない。
改めて私は誓った。
少なくとも今の私が、ちゃんと成人するまでは……。




