358 結界大作戦! トリスティン王国の王都上空にて
リトと合流してから精霊界に戻る。
精霊界に戻ったところで、私はリトとゼノにお願いをした。
「ねえ、実は私、結界の張り方って知らないんだけど――。
教えて?」
可愛くお願いしたはずなのに、
「「は?」」
2人同時に真顔で呆れた声を出された。
「ねえ、クウ。これから悪魔を燻り出すために結界を張るところだよね? その寸前で実は知らないってどういうこと?」
「バカなのです。真のバカがここにいるのです。リトは知っていたのですが、やっぱりクウちゃんさまはバカなのです」
リトのやつ!
人をバカバカと!
「まあ、いいや。どうせクウならすぐに覚えるだろし、ボクが教えるよ」
というわけでゼノに教えてもらった。
そんなに難しいことではなかった。
要するに魔力を展開させて、固定すればいいのだ。
空間と重力の魔法体系である銀魔法の気持ちでやってみたら、最初の1回目であっさりと展開できた。
「ありがとね、ゼノ」
「どういたしまして。さ、行こう。どんなことになるのか楽しみだねー」
「だねー」
「あ、そうだ、クウ、あれやろうよ。久々のクウちゃんず!」
いいね!
やろうやろう!
私はポーズを決め、叫んだ。
「世界の平和を守るためっ! 世界の明日を作るためっ!
クウちゃんたちは行くのですっ!
それこそが、世界防衛隊!」
「クウちゃんず!」
すさかずゼノが合わせてきて、2人でポーズを取る。
決まった。
ふふ。
久々だけど、バッチリだね!
「バカなのです」
「「は?」」
呆れた顔をしたリトを2人で睨みつけて、ほんの少しだけくすぐりの刑に処してから気を取り直して出発した。
ゲートをくぐる。
すると、そこはもうトリスティン王国の王都近郊だ。
精霊界を経由すれば、どこに行くのも早いのだ。
夜空に飛び上がる。
さて。
いよいよだ。
王都の上空で、私は魔力感知と敵感知を広範囲に起動させた。
うん。
ある。
王城の地下にひときわ強い敵反応を見つけた。
魔力の色は――濁った黒。
間違いなく、邪悪な力だ。
そのまわりにもいくつかの小さな邪悪な魔力の反応がある。
加えて王城の中に普通の敵反応がいくつか。
すべて人間のものだ。
あとは、都市の方か。
私は敵感知の範囲を拡張して、ざっくりと全体を見渡す。
都市にも敵反応がいくつかある。
うーん。
どうしたものか。
今、敵反応が出ている連中は、きっと単なる町のゴロツキではない。
経験上、ゴロツキ連中は関わらない限り敵扱いにならない。
とすると……。
きっと、悪魔とつるんでいる連中だ。
間接的に敵対しているか都市なり人間なりに害をもたらす連中だから敵反応が出ているのだろう。
この国を支配している階層の連中かも知れない。
なにしろ王城にも反応があるし。
一気に始末――。
とも思ったけど、殺すのかと自問して、それは否定した。
逮捕――。
したところで、無意味だろうし。
なにしろ、きっと権力者たちだ。
うーん。
「どうしたの、クウ? さっさとやろうよ。パパっと結界を張って、悪魔がどんな反応をするのか見てみようよ」
悩んでいるとゼノが声をかけてきた。
「それなんだけどね。人間の敵も多くてさあ。そっちをどうしようかなーと」
「ニンゲンは結界で苦しんだりしないし、どうにかするなら捕まえて、まとめてどこかに連行すれば?」
「連行してどうするの?」
「さあ」
「いい加減な」
「そんなの、連行してから考えればいいんじゃない? 敵ってことは、クウの力で判明しているんでしょ?」
「それはそうなんだけどねえ……」
相手は一国の王様とか貴族だろうし。
さすがの私も対処には迷う。
「やめたほうがいいのです。ニンゲンのことはニンゲンが決めるのです。リトたちは邪神の眷属から世界を守ればそれでいいのです。それが精霊の役割であり、リトたちが今すべきことなのです」
「……そだね。リトの言う通りか」
国の支配階層を成敗するなんて、私の範疇を超えているか。
その後の責任も取れないんだから。
「当然なのです! リトがどれだけ大精霊をしていると思っているのです! 一緒にしないでほしいのです!」
このヤローは、どうしてもいつも一言多いのか。
カチンと来たけど、おしおきはまた今度だ。
「じゃあ、ゼノ、リト。やろう。私に合わせてもらっていい?」
「いいよー」
「わかったのです。任せるのです」
敵感知と魔力感知を切った。
意識を集中する。
石を落として波紋を広げるように――。
王都に魔力を広げていく。
包み込んで、閉じる。
最後に魔法陣で封をして完成だ。
「ふう」
私は息をついて、体から力を抜いた。
さすがに王都全域は広くて、意識を集中し続けるのが大変だった。
疲れた。
でも、これで当分の間、邪悪な力は侵食できなくなる。
「さあ、どうなるかなー。窒息して浮かんでくると面白いんだけどなー。そうしたらボクが釣り上げるね」
「これは、今後の参考になる実験なのです。リトも楽しみなのです」
「しかし、さすがはクウというか……。凄まじい強度の結界だね、これ……」
「なのです。クウちゃんさまはやっぱり、恐怖の女王なのです。リトは確信せずにはいられないのです」
「ねえ、リト」
「は、はいなのです?」
「ごめんねー。今、なんて言ったのかなぁ? 私、ちょーっとだけ聞こえなかったんだけどぉ」
「く、クウちゃんさまは素敵で最強のお姫様なのです! リトは確信せずにはいられないのです!」
「ふふ。よーし」
ともかく、私も楽しみではある。
天敵たる精霊の結界に閉じ込められた悪魔が、どんな反応をするのか。
精霊はこの世界にいない――。
すでに消えてから1000年もの月日が経過している――。
そう思っていれば、確実に油断していただろうし。
私は再び敵反応と魔力反応を見てみた。
お。
王城の地下で早くも変化が出ている。
ひとつ、またひとつ……。
邪悪な魔力反応が消えていく。
どうやら結界は効果てきめんのようだ。
あ。
「来るよ」
私は2人に伝えた。
大きな反応が一直線にこちらに向かってくる。
見えた!
コウモリのような翼を広げた、黒いドレスに身を包んだ灰色髪の少女だ。
髪からは牛のような角が出ている。
両方の手のひらに炎を渦巻かせて、吊り上がった赤い双眸で怒りも顕に私たちのことを見据えていた。
「ボク! ボクにやらせてね、クウ!」
デスサイズを構えて、ゼノがヤル気まんまんの態度を見せる。
「いいけど、油断は禁物だよ?」
私とユイは簡単に悪魔を倒した。
だけどそれは、不意打ちばかりだった。
すべて、精霊や聖女がいるとは思われていない状態での一撃だったのだ。
正面から相対したことはない。
悪魔が本気の戦闘でどんな手を使ってくるのか、知らないのだ。
「わかってるって! 生まれて初めての悪魔戦だし! リトも見ててね!」
「邪魔はしないから安心するといいのです。リトはむしろ、悪魔の動きを研究したいので好都合なのです」
悪魔の少女が一気に迫ってくる。
闇の大精霊との――。
一騎打ちが始まる。
と、思ったところで、大きな大きな音が響いた。
ガンッッッ!
…………。
……。
私は見た。
全力全開で結界に頭から衝突した悪魔の少女が――。
目を回して墜落していった……。
ふむ。
結界って、普通の人間にとっては、目に見ることも触ることもできないものだ。
でも魔術師であれば知覚することはできる。
悪魔にも、結界があることはわかっていたはずだ。
でも、アレか。
強引に突破できると確信していたのかな。
たぶん、そうなのだろう。
ともかく。
戦いはおわった……。
まあ、とりあえず。
捕まえて竜の里に連れて行こう。
「ねえ、クウ……。ボクの闘志……。燃える前に火種が消えたんだけど……。一体どうすればいいんだろうね……」
「まあ、うん。今度、お笑い大会で発散しよ?」




